2018年フォトニクス技術20選

ジョン・ウォレス

2018年には、産業界、科学界、学術分野、そしてそれ以外のすべての人々に影響を与える、フォトニクスのさらなるイノベーションが生み出された。

技術革新のペース(1年に考案される素晴らしい技術的アイデアの数)は増加傾向にある、と読者は思っているかもしれない。それを裏付ける事実がいくつか存在する。世界人口は毎年増加するので、それに伴って知性も増加している。発明のための手段は向上しており、なかには劇的に進歩している分野もある(コンピューティング、人工知能、先進フォトニクス、その他ハードウエア)。中国を筆頭に多くの国々で、科学や工学における発明性が高まっている。また、より基本的なレベルでは、知識の量が増えて、より多くの情報が引き出せるようになっている。あるいは読者は、発明のペースが実は頭打ちになって、今では減少傾向にあると思っているかもしれない。ネコ動画ばかり見ていたのでは、それもあり得るだろう。
 フォトニクスは成長期にある。複雑さとともに成長を遂げる分野であり、世界はデジタル革命に牽引されて、急速に複雑さを増している。2018年の技術レビュー 20選は、フォトニクスにおけるこの1年間の重要な進歩を示すサンプルで構成されている。そのそれぞれが、間違いなく業界内に影響を与え、さらに重要な点として、それ以外の世界にも影響を与えることだろう。

流行の先端を行くフォトニクス

1 モノのインターネット:ネットワーク接続されたスマートデバイスが、互いや、より大規模な世界と通信するモノのインターネット(IoT:Internet of Things)は、もう数年前から流行語となっているが、ようやく実現に向けて動き出している。イメージングセンサ、光学部品、光ファイバ、位置決め装置、ソフトウエアの使用が、ビルや自動車やその他の場所におけるIoTの拡大を促進している。IoTは、LiFi(light fidelity、WiFiのフォトニクス版)から、身体に装着するセンサ、スマートホーム、車両間データ通信にいたるまでのあらゆるものを含有する(Laser Focus World日本語版7月号「フォトニクス―モノのインターネットの基盤となる実現技術」参照)。

2 顔認証顔認証は、大小を問わずセキュリティシステムに恩恵をもたらしている。従来の顔認証は、2次元画像のソフトウエア解析に基づいていた。しかし、それでは顔写真を使用することによって突破できてしまう可能性がある。顔認証に3つめの次元を追加することにより、この簡単な抜け穴をふさぐことができる。3Dセンシングの1つの形態である飛行時間(TOF:Time Of Flight)イメージングを、顔認証に適用することにより、高い深度精度と画質で顔を表現することができる。スイスのエスプロス・フォトニクス社(Espros Photonics)が開発したシステムは、0.13mmの距離分解能で1秒あたり156枚のTOF画像を収集できる(Laser Focus World日本語版9月号「3D TOFカメラ技術で顔認証精度とセキュリティ向上」参照)。

3 量子センシング:量子コンピューティングと暗号化は、科学誌や技術誌でよく特集されるが、それ以外にも、別の種類の量子技術として注目を集めつつあるのが、量子センシングである。フォトニクスに大きく依存する量子センシングは、実は、量子コンピューティングや暗号化よりも実用化に近い可能性がある。すでにテスト段階にある微小量子センシングシステムとして、2017年にテストされた観測ロケットによる微小重力下での冷却原子効果の調査や、2018年5月に初めて実施されたロケットによるヨウ素周波数基準のテストであるJOKARUSなどがある。将来的な用途としては、石油、ガス、水探査用のセンサや、マッピングなどがある(Laser Focus World日本語版5月号「量子センシングのペースが速まり利用空間も拡大」参照)。

4 ウェアラブル・フォトニクス:ウェアラブル・フォトニクス技術も、何年も前から議論されており、進歩している。ウェアラブル・フォトニクスは、情報を表示し、フィットネスや健康状態に関する個人的なパラメータを追跡し、ファッションによる自己主張を支え、夜間や高放射線環境における安全性をサポートすることができる。ウェアラブル・フォトニクスが、フレキシブルな生地に組み込むことのできるmicroLEDの主要な応用分野であることは、あまり知られていないかもしれない(図 1)。そしてもちろん、仮想現実(VR:Virtual Reality)/拡張現実(AR:Augmented Reality)用のハードウエア/ソフトウエア開発は、導波路をベースとするホログラフィック光学部品を使用した、超軽量メガネ型ディスプレイに対する革新的なアプローチを促進している(Laser Focus World日本語版5月号「フォトニクスはますます身近な存在に:光でウェアラブル技術の進歩を促進」参照)。

図1

図1 高密度に敷き詰められた微細ピクセルをフレキシブル素材に実装して、個人用ウェアラブルディスプレイが構成できることを示す、microLEDパネル。(提供:ホルストセンター)

最先端フォトニクスコンポーネント

5 シリコンフォトニクス:ス:完全なア
クティブシステム(光源、中間コンポーネント、光検出器)を備えたシリコンフォトニクス回路は、とてつもなく複雑である。シリコンに、ある程度の高いレベルで光を放射させるのは非常に難しいので、このようなフォトニクス回路は一般的にハイブリッド構造を持ち、III-V族半導体物質からなる光源が、シリコン回路に正確に配置されて固定されている。この複雑さを緩和するために、中国復旦大(Fudan University)の研究者らは、シリコンナノ結晶と最適化された分布帰還型(DFB:distributed feedback)共振器をベースとする、完全にシリコンの光励起レーザを開発した。さらに開発を重ねることによって、シリコンフォトニクスに利用できる可能性がある(Laser Focus World英語版4月号「Allsilicon laser achieves high optical gain」( http://bit.ly/2018techreview5)参照)。

6 中赤外光学材料:コヒーレントな赤外(IR:infrared)光源には、所望の波長を達成するために、非線形光学材料でできたコンポーネントが必要になる場合が多い。英BAEシステムズ社(BAE Systems)のエンジニアらは、幅広い種類の新しい中赤外非線形材料を使用することによって、そのようなコンポーネントの有用性を拡大している(図 2)。それらの多くは、パターン化または構造化されており、近赤外波長を入力として用いて、より長波長のIR出力を達成することができる。低損失で高い性能指数を備える結晶には、スペクトル透過率が非常に高い領域があり、それによって高度に設計されたレーザ光源の波長範囲が大幅に拡大される。そうした結晶を作製するための新しい手法も、材料そのものと同等に重要である(Laser Focus World英語版4月号「New materials extend laser spectral coverage deep into the in frared」( http://bit.ly/2018techreview6)参照)。

図 2

図 2 さまざまな中赤外非線形光学(NLO:nonlinear optical)結晶の非線形性能指数(d2/n3)と透過範囲の関係。

7 フラットなメタ表面レンズ:Laser Focus World誌の読者ならば、メタ表面光学素子についてすでによく知っていることだろう。研磨および研削された表面ではなく、一般的にはフラットな光学基板上に作製される、緩やかに変化するほぼ周期的なナノ構造に基づく光学特性を備える素子である。米ハーバード大(Harvard University)のフェデリコ・ カパッソ教 授(FedericoCapasso)の研究室で何度も実証されているように、用途によっては、1枚のメタ表面レンズで、複数の従来型光学素子を置き換えることができる。シンガポール科学技術研究庁(A*STAR:Agency for Science, Technology and
Research)の Data Storage Institute(DSI)と、同国の南洋理工大(Nanyang Technological University)の研究者らは2018年、715nmの波長において開口数(NA:Numerical Aperture)が0.99のフラットなメタ表面レンズを実証した(Laser Focus World英語版5月号「Metamaterial lens has numerical aperture of 0.99」(http://bit.ly/2018techreview7)参照)。

8 超高速グラフェン光検出器:光検出に用いられるグラフェンは、0.6 ~20μmにわたるスペクトル感度を持ち、その範囲は、従来のどの半導体検出器材料と比べてもはるかに広い。しかし残念ながら、グラフェンの光吸収率は、その範囲全体にわたってわずか2%ほどしかない。米カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA:University of California Los Angeles)のあるグループは、グラフェンでナノストリップを形成して金パッチに接続することにより、グラフェン光検出器の吸収率を大幅に向上させた。その結果、最大50 GHzの超高速検出機能を達成するデバイスが得られた。今後の改良によって、この速度を425GHzにまで高めることができる(Laser Focus World英語版8月号「 Graphene photodetector has 50GHz speed and high responsivity from 0.6 to 20μm」(http://bit.ly/2018techreview8)参照)。

工夫に富んだ計測器

9 シンプルなシアリング干渉計:シアリング干渉計は、テスト波面を、位置をずらして複製した波面と干渉させるもので、連続波(CW:Continuous Wave)レーザビームの空間情報は、十分に簡単に測定できるが、フェムト秒レーザになると、その処理が難しくなる。標準的なシアリング干渉計のゼロでないパス長によって、得られた2つのパルスの干渉が妨げられるためである。米ロチェスター大(University of Rochester)のチュンレイ・グオ教授(Chunlei Guo)と博士課程に在籍するビリー・ラム氏(Billy Lam)は、パス長の差がほぼゼロで、フェムト秒パルスでも空間特性評価が可能な、シンプルなシアリング干渉計を作成した(ただし、実験デバイスで測定したパルスの持続時間は、わずか65fsだった)。(Laser Focus World英語版8月号「Simple shearing interferometer measures wavefront of femto-second laser pulses」(http://bit.ly/2018techreview9)参照)。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/05/030ft.pdf