自動車分野におけるレーザ加工最前線

川尻 多加志

最新加工事例にスポットライト!

自動運転やEVなど、技術的な観点のみならず、市場の大きさからも注目を集める自動車産業。この自動車産業にレーザ加工はどう関わるのか。11月28日(水)、東京都品川区の大崎ニューシティ・日精ホールで開催されたレーザ協会第42回セミナー「自動車産業におけるレーザ加工」で、その最新動向にスポットライトが当てられた。今回のシンポジウムでは、レーザのユーザーとも言える自動車メーカや部品メーカとシーズ側のレーザメーカ、レーザ加工機メーカによる6件の講演が行われた。

レーザ加工はSDGsとESGに適合

会長の庄司一郎氏(写真:中央大理工学部教授)は、冒頭の「開会挨拶」で同協会の歴史を振り返るとともに、会員を対象とした「研究会」や今回のような「セミナー」、さらには地方活性化事業としての「地方研究会」の開催など、その活動を紹介。SDGs(持続可能な開発目標)とESG(En­viron­ment、Social、Gover­nance)が注目される中、自動車産業におけるレーザ加工へのシフトは、この二つに適合したものだと述べた。

自動車メーカにおける生産技術:千葉工大 大関浩氏

自動車のユニットインジェクタは、燃焼後の微粒子発生を抑制する燃料微粒化のための高圧噴射と、Noxや騒音を低減する燃料噴射の多段化を実現する部品。噴射穴の内面を滑らかにすれば、流量損失を低減でき、規則正しい流れが生まれる。ところが、穴開け加工は外側からドリルなどで行うため、内面に加工痕や出口にバリができ、流量損失が増え流れも乱れる。また、バリは燃料噴射によって燃焼室に飛び込み、エンジンを傷つけてしまう。
 大関氏は各種加工法を比較検討した結果、放電加工がベストとの結論を得たが、加工機が簡単に入手できない等の理由でドリル加工を選択、試作を行った。
 ドリル加工の噴射穴径限界値は直径0.15mm程度、それ以下の加工は切りくずの排出不良で起こる工具折損によって難しい。そこで、大関氏は電解バリ取り加工法を採用した。さらに、シリコン系オイルと研磨粒子を混ぜ高圧で送り込む流体研磨加工で、バリと加工痕の問題を解決。流体研磨加工の最適化は、低粘度の流体を穴の中へ流量する時間で行い、噴射穴形状として望ましい逆テーパ形状の作製にも成功。内部加工形状の計測は歯科用シリコンを流し込み、それを取り出す非破壊検査も実現した。

自動車部品におけるレーザ加工技術の適用と最近の進歩について:デンソ- 白井秀彰氏

高炭素材料へのレーザ溶接が求められる中、同社では電磁弁用高炭素ステンレス鋼の溶接を実用化、溶融形状を従来のワインカップ形状からタンブラー形状にすることで、最終溶融凝固部に発生する収縮応力の大幅な低減を実現した。
 IC用銅リードのレーザ結線の実用化にも成功、ターミナル表面にNiめっきを施して熱伝導バリアにするとともに、ガスのアシストおよび焦点位置の最適化、さらにレーザ照射波形の最適化によって、最終凝固部に収縮応力が発生せず、割れにくい形状を実現した。
 円周溶接では、シミュレーションによる変形挙動解析によって真円度の変形メカニズムを考察、レーザ光をミラーで半分ずつ分割して光ファイバで伝送し、2方向から同時に照射して歪みを相殺する同時2分光方式を考案、2つのレーザ溶接ヘッド角度を90度にすることで変化量が最小になることを見出した。
 白井氏は、加工プロセスをモニタリングして、その欠陥をレーザ出力へフィードバックする品質モニタリングや溶接部や溶融内部挙動の可視化も紹介した。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/01/lfwj1901_event_focus.pdf