フォトニクス産業に強く依存する自動車ライダ
自動車ライダと光業界の有名企業名のオーバーラップはかなり多い。
自動運転車は複雑なものである。光ベースあるいはまた他のセンサ、GPS、他の専用ハードウエア、高度なソフトウエアを組み合わせて、自動車がその周辺を安全にナビゲートし、近隣の歩行者が危険にさらされないようにする。同一形態のセンシングも自動ブレーキや、完全自律ではないが自動車の車輌回避に使用可能である。
自動車ライダは、自律走行車の周囲をマッピングするセンサ(レーダとインテリジェントビジョンが他の2つ)の一形態に過ぎない。しかし、多数のライダスタートアップ企業や、数十億ドルのR&Dと投資から、自動車ライダは、自律走行車技術がいかに速く進歩しているかを示す明確なマーカーになっている。
自動車ライダには多くの技術的アプローチが存在する。さまざまなタイプのスキャニング、フェーズドアレイ、パルスカメラベースフラッシュなどである。しかし、ここでの目的は調査ではなく、それらのアプローチの完璧な紹介でさえない。そのような情報はたくさんあるからだ。そうではなく、ここで行おうとしていることは、例えば、自動車ライダ産業とフォトニクス産業の大きなオーバーラップを示し、それをLaser Focus World誌が大々的に取り上げることである(この記事は、ライダコンセプトの役立つ知識を前提にしている)。この記事に登場する企業やその製品の多くは、ほとんどではないにしても読者には馴染みがあるだろう。それは結構なことである。我々の業界が応用先端技術の未来の中核にあることを示しているからだ。
信号の生成と検出
自動車ライダに関わるフォトニクス企業は、完全なライダシステムあるいは、1つの特定ライダコンポーネント、一連のコンポーネントのいずれかを製造している可能性がある。最後の例では、浜松ホトニクスは、ライダシステムに非常に幅広いフォトニックコンポーネントを供給している。設計からアセンブリ・試験、製造、発光と光の検出のための光源とフォトディテクタ、MEMSミラーやレーザダイオード用の速軸コリメータ(FAC)レンズまである、と同社の自動車ライダ事業開発マネージャー 、ジェイク・リー氏(Jake Li)は話している。
同社の自動車グレードフォトディテクタは、シリコンおよびInGaAsベースで、800 ~ 1600nmのライダ設計要求をカバーしている。905nmと1550nmでは感度が増強されており、ライダ設計の検出範囲が向上する、とリー氏は指摘している。光源では、同社は800 ~ 905nmベースのレーザダイオードに重点を置いている。これらは、ハイパワーニーズ向けにシングルからスリースタックとなっており、どんなライダ設計にも対応している。また、連続波(CW)またはパルス(PLD)モードでも提供される。「3Dライダシステムデザインを可能にするために当社はさまざまなビームコントロールコンポーネントを提供する」とリー氏は言う。「浜松ホトニクスの1Dまたは2D自動車グレード電磁ベースMEMSミラーは、リニアあるいはまた共振モードと組み合わせて動作する、すなわち光ビームをさまざまな方向に操作することができる。当社のFACは、半導体レーザから広がる光をコリメートする、これは、ライダシステムで光拡散量をコントロールする重要コンポーネントである」。
ライダシステムでは、目標からのほんのわずかな放出フォトンが検出される。したがって、光検出感度、高い内部利得、相対的に低ノイズと容量の適切なフォトディテクタを選択することが、極めて重要である。905nmの短距離から長距離ライダコンセプトでは、シリコンアバランシェフォトダイオード(APD)とシリコンフォトマルティプライヤ(SiPM)が人気のあるディテクタであり、それぞれ固有の利点と限界がある、とリー氏は言う。長距離検出でのアイセーフに対する懸念が、ライダコンセプトによっては距離制約となり、これが1550nmライダシステムの重要性を説明している。これらのシステム向けに浜松ホトニクスは、InGaAsフォトダイオードまたはAPDなど、InGaAsベースフォトディテクタを供給している。「当社の継続的イノベーションにより、この技術の決定的に不利な点の一部は緩和されるが、これは高コストになり、アレイ提供ができない」と同氏は話している。
高密度点群を生成するには、高速取得と高速検出が必要になる。これは、アレイフォトディテクタを使用することによって達成可能である。この場合、各フォトディテクタが、特定シーン点までの距離をサンプリングする。「標準的には、APDアレイが使われた。だが、APDは高バイアス電圧(150V以上)および温度補償回路を必要とする。これら2つの要件は、消費電力を増やすことになり、これは利用可能なパワーが限られた自動運転車には望ましくない。SiPMがこの問題を解決する。温度感度とバイアス電圧の両方とも大幅に低下するからである」。
異なるライダに最適化された2つのレーザ
米ルーメンタム社(Lumentum)は、長距離および短距離ライダ用レーザを含む一連のダイオードレーザ(“ダイオードレーザ” という用語は、時々“レーザダイオード” の代わりに使われることがある、これはダイオードチップなどのコンポーネントに対して完全なレーザを指すためである)を製造している。
ルーメンタム社の製品ラインマネージャー 、トモコ・オオツキ氏(Tomoko Ohtsuki)が説明しているように、同社はライダ用に2つの重要コンポーネントを提供している。コヒレントライダに最適化された1550nm狭線幅分布帰還ブラッグリフレクタ(DBR)ダイオードレーザ、および高出力940nm垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)アレイ。オオツキ氏によると、同社のダイオードレーザは、2億個出荷実績があり、故障率は100万分の1である。
940nmVCSELは高分解能フラッシュライダおよび室内モニタリングに最適化されており、1550nm狭線幅DBRダイオードレーザは、コヒレント周波数変調連続波(FMCW)ライダ設計に適している。「長距離ライダ用で特に重要となるため、DBRダイオードレーザは、距離200m以上のライダに最適化されている。また、1550nm波長は、短波長レーザの100倍の出力であり、アイセーフティコンプライアンスも改善されている」とオオツキ氏は指摘している。
コヒレントFMCWシステムの狭線幅DBRダイオードレーザは、消費電力低減、速度と距離も同時検出できる次世代長距離ライダシステムに使用可能である、と同氏は付け加えている。ルーメンタム社の狭線幅DBRダイオードレーザは、コンパクトなリン化インジウム(InP)レーザダイオードを使用しており、これは長年テレコム光通信に使用され、ノイズフィルタリングと帯域外波長除去はすでに備わっている。
シリコンフォトダイオードライダ
米ブラックモア社(Blackmore)は、距離200mを超える完全なコヒレント周波数変調連続波(FMCW)ライダシステムを実現している(図1)。FMCWコンセプトは、最新のコヒレント光通信ハードウエアと先進的レーダ信号処理技術を統合している。
「ブラックモア社は、リアルタイムで距離とドップラデータを抽出し、点群を生成する。これにより点は、遅延サブミリ秒でセンサからストリームされる」と同社、共同創始者・CTO、ステファン・クラウチ氏(Stephen Crouch)は説明している。「そのシステムは、コヒレントディテクションを使ってシングルフォトン感度で計測する。量子ノイズだけが制限要因であるので、雨、雪、ホコリを透過して見ることができる。また、ダイナミックレンジが非常に広いので、道路のサインやテールライトなどの明るい対象物も、タイヤや道路表面など暗いものと同様に容易に見ることができる」。
そのシステムのリアルタイム計算により、内蔵の汎用処理ハードウエアで処理できる。その結果、同社はアプリケーションに特化した固体スキャナをシリコンフォトニクスで開発し、ブラックモア社のライダエンジンと組み合わせて、完全固体ライダセンサの量産を行う、とクラウチ氏は話している。
同氏によると、ダイレクトディテクションライダシステムは、距離とドップラ(速度情報)を同時計測することはできない。振幅変調パルスライダと比較して、ブラックモア社のドップラライダは、長距離で対象物の速度をリアルタイム検知するので自律走行車は多くの重要な利点が得られる。例えば、太陽光や他のセンサ(他のライダセンサを含む)からの干渉耐性、さらに迅速、シンプル、速度の直接計測などである。この点は、従来のパルスライダシステムが使用する計算集約的で遅いアプローチと対照的である。これは、マルチフレームデータを使って対象物の速度が計算されるためである。
クラウチ氏によると、ブラックモア社の干渉のないドップラライダセンサは、統合点群(300kpts/sから1.2Mpts/sで点スループットを選択可能)を生成する。これは、すべての計測点(±150m/s、0.2m/s分解能)について瞬間速度で生成する。
ドップラ速度計測は、歩行者の意図洞察に役立つ、特に混雑した都市環境では有用である(ビデオ参照https://goo.gl/KdBzw8)。ドップラデータフィールドは、ライダで静的対象と動く自動車間の相対速度を分析することで車輌位置確認の独立したインプットとして機能する。ドップラデータは、雨、雪、粉塵条件でノイズの多いデータのフィルタリングにも役立つ。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/01/lfwj1901pp_lidar_systems.pdf