材料選択で促進するマイクロ流体工学

アレクシオス・P・ツァニス

実現技術としてのマイクロ流体工学は、最高性能のためにロバストな材料を必要とする。

一滴の血液よりも小さい体積のものを機能的領域に移動させるフローセルは、パワフルな生体外診断(IVD)システムの開発、自動化、小型化の根底にあるものだ。これらのシステムは次々に幅広いアプリケーションやデバイスを可能にしている。それには、創薬やバイオアナリシスにおいて、デジタル生物学、次世代ゲノムシーケンシング、生体機能チップ、ハイスループットな細胞アッセイ、高密度な多機能チップがある。
 サンプルサイズや試薬消費量を下げ、そして解析スピードを上げてコストを減らす目標を掲げることで、IVDデバイスは複雑化や機能統合化が進みつつも、製造の新たな限界を超えている。寸法や複雑性は重要な課題であるが、コーティングのような製造後の後加工もまた製品のワークフローやコストに影響を与える。
 IVDデバイスに用いられる材料を規定するものは、配列や加工だけでなく、デバイスの製造、性能、機能性、コストだ。レーザ加工やフォトリゾグラフィ、エッチングの自動化、基板結合、機能付与、室温UV接着、その他の加工の進展により、IVDデバイス向けとしてしばしばベストパフォーマンスかつ最もコスト効率のよい消耗材料が、ガラスやハイブリッドガラス材料である。

形状と設計の複雑さ

寸法が下がるにつれて、かつて欠点とされた表面異常は機能的となり、基板加工技術はバイオポリマーや細胞構造と同じ大きさの形状を作り出せる。反応性イオンエッチング(RIE)はガラスに細胞と生体分子のドッキングステーションを作り、増加した表面粗度は感受性増加により、アプタマーのような分子認識要素と結合できる。ナノ流体工学は、スケールの小さい現象を利用してサブミクロンチャネルにおいて体積を制限する。
 ソフトリソグラフィによるポリジメチルシロキサン(PDMS)は学術研究でよく使われているが、そのような材料よりも多くの優位性を与えるのが、ガラスの機械的、化学的、光学的特性である。例えば、壁面の剛性と安定性は、ナノまたはマイクロチャネルが結合や密閉で耐えるのに助かっており、フロー圧に抵抗できるガラスの結合能は重要である。多くのアプリケーションでは、ガラスの温度特性や化学的安定性の利点があり、一方で自家蛍光は無視できるほどだ。また、ガラス表面はシラン化によって無限に調節でき、多数の特性を可能にする。
 シリコンはしばしば、一細胞を閉じ込めたり、特定のフロープロファイルを作ったりするのに必要な高アスペクト比に対しては最適な材料である。だが、例えば、ガラスが持つ他の特性(光学的な滑らかさ、誘電率、金属加工ステップの必要性、結合法など)も理想とされる時は、回路基板としてガラスを使うことができる。半導体産業がもたらした加工技術は高アスペクト比のマイクロ・ナノチャネルの製造を可能にする。一方で、レーザマイクロ加工と化学エッチングを組み合わせる加工は、ガラスにおいて20:1というアスペクト比を証明している。ガラス表面の多くの修飾は、回路基板としてガラスが最も化学的に調節できる表面を持つことを示す。
 生物学への応用では、光学の統合、光学ウィンドウ、電極、エレクトロニクス、そして壁や孔といった3次元構造が要求される時がある。超高速レーザ製造のような減算技術と、化学めっきやCDVのような加算法と化学エッチングを組み合わせることで、ポリマー表面を含む複雑で多機能なチップをガラスや溶融石英で作ることができる。各材料は、特定のアプリケーションと設計パラメータに利点のある強みを持つ。ハイブリッド材料のデバイスは生きた細胞に関連する課題を克服できるため、各材料の特性を利用するのが最善の方法だ。
 チップベースのIVD細胞構造システムにおける材料の選択、構造,製造後加工は、細胞、培地、観察する現象に依存する。チャネル設計ですら細胞の生存に影響を与える。ある細胞は他よりもせん断応力の影響を受けやすい。そこで、PDMSがしばしば用いられる。PDMSの透過性は、チップ上やチップ周囲の環境で細胞間のガス交換を可能にするためだ。しかし、この特性は、意図しないガスやイオンの移動が生じた時、細胞に危険をもたらす。同様に、デバイスの特定の部分に細胞を配置させるパターニングには多くの利点があるものの、その表面は細胞の形状や生理機能に影響を与えるため、細胞はやがて弱まってしまうかもしれない。
 神経細胞は電極で計測されることが多く、ガラスまたはシリコンにおける電極の標準化されたパターニングが、どちらの材料を選ぶかの理由となっている。 透 明 な酸 化インジウムスズ(ITO)の電極を実装する性能は、ガラスにとって有利となる。なぜなら、細胞を顕微鏡、さらには電極表面でモニタリングできるからだ。
 ガラスはしばしば光学的方法では最適な材料である。UVを用いる室温接着に適しており、これは生物毒性や生態適合性のデータが産業で検証されたものとして知られている(図 1)。

図 1

図 1 等方的にエッチングされたチャネルを持つ0.3mm以下のガラス基板は、1mmの厚さのガラス基板に室温のUVで接着される。ガラス結合は、カプセル化された生体分子や細胞の生物活性を維持する。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/11/p42-44_bio_lab-on-a-chip.pdf