新しいデータセンター時代におけるフォトニクス製造の課題

イー・チェン

ハイパースケールのデータセンター向けの多品種大量生産には、重要なフォトニクス部品のジャストインタイム(JIT)での供給と迅速なイノベーションを実現するために、柔軟で、高速で、高精度なオートメーションが必要である。

指数的なペースで増加するインターネットトラフィックによって生成されるデータの量は膨大で、それに伴うデータ通信、ストレージ、クラウドコンピューティングによる処理ニーズに対応するには、データセンターが不可欠である。それらのデータセンターにおいて、フォトニックデバイスは重要な役割を担っており、そのことから、フォトニクスの大量生産(HVM:High Volu me Manufacturing)には重大な課題がもたらされている。
 米シスコ社(Cisco)の最近の調査によると、世界のIPトラフィックとデータセンタートラフィックの両方が、約25%の年平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)で増加しているという。モノのインターネット(IoT:Internet of Things)、動画ストリーミング、3Dセンシング、スマートカー、仮想現実(VR:Virtual Reality)や 拡 張 現 実(AR:AugmentedReality)といった新しいアプリケーションが次々に登場したことで、さらなる帯域幅が必要となり、ひいては新しいデータセンターが必要となった。2020年までには、データセンターの50%がハイパースケール規模になると予測されている。つまり、そのアーキテクチュアは、システムに対する需要の増加に応じて適切に規模を拡大できなければならないことを意味する。今後3年間にかけて、約40ものハイパースケール・データセンターが毎年設立される見込みである。
 フォトニクスは、帯域幅の増加に不可欠である。帯域幅の需要を押し上げるのは、従来は電気通信(テレコム)だったが、現在では、データセンター事業の驚異的な成長に牽引されるデータ通信(データコム)のほうが大きな要因となっている。図1は、テレコムとデータコム用の光学トランシーバの世界売上高を示したものである。大きな転換点となるのは2017 ~ 2019年頃で、データコム用トランシーバの売上高がテレコムを上回るようになる。この調査では、データコムのほうが将来的にはるかに高い成長率を示すとも予測されている。

図1

図1 データセンターによって牽引されるデータ通信用光トランシーバの世界売上高は、テレコム用トランシーバを上回りつつある。

データコムの課題

データセンターの需要が新たな成長牽引要因になることで、フォトニクス業界は、従来のテレコムモデルとは全く異なる、新しいデータセンターのビジネスモデルに対応しなければならないという課題を感じている。テレコムを中心とするビジネスモデルとデータセンターを中心とするビジネスモデルの主な違いを、表にまとめた。フォトニクス製造に最大のインパクトを与える重要な要素は、大量生産であること、先行きの見通しが悪いこと、イノベーションのペースが速いこと、迅速な対応が求められること、コストが低いことである。
 フォトニクス業界はこれまで、テレコムによる影響が大きく、広大な現場に導入されるケースが多かった。動作環境が厳しいので(­40˚ ~ 85˚C、相対湿度[RH]は最大85%)、システムの導入コストと保守コストは高い。したがって、各テレコムのアップグレードサイクルは長く、慎重な計画に基づいて実施される。通信事業者から装置や部品の供給メーカーに至るまで、年間予測の見通しは極めて良好である。サイクルが長いので、高度で高額なフォトニクス部品を受け入れることができる。フォトニクスメーカーは、より長い時間をかけて計画を練り、顧客の要求に応えることができる。生産量は、近年のデータセンター事業ほど多くはない。
 データセンターでは、制御された環境内、例えば、温度や湿度が制御された建物内(0˚ ~ 55˚C、RH:40 ~ 60%など)で、ネットワークの大半が稼働する。資本コスト(capex)のほとんどは、土地、建物、配線である。運用コスト(opex)の大部分は、消費電力と環境制御に投じられる。フォトニクス部品が資本コストと運用コストに占める割合は比較的小さい。しかし、クラウド顧客に帯域幅を提供して収益を生成するという点においては、重要な寄与因子である。
 オフィスのような制御環境では、アップグレードのコストは低くなる。フォトニクス部品は交換コストが低く、また、全体的な資本コストと運用コストに占める割合が低いので、データセンタープロバイダーは、既存のデータセンターを3 ~ 5年のサイクルでアップグレードすることができる。また、アップグレードごとに、同じ建物でできるだけ多くの収益を上げるために、その時点で最大限の帯域幅を提供する最先端のフォトニクス技術を採用したいと考える。
 データセンタープロバイダーが、具体的なデータセンター・プロジェクトの開始時期を正確に予測するのは難しい。新しいデータセンターを建設するにはまず、土地の測量と取得が行われ、その地域の政府機関による承認も必要になるためである。したがって、フォトニクス部品の供給メーカーにとっては、先行きの見通しがつきにくい状態になる。その一方で、プロジェクトがいったん承認されると、当然ながらデータセンタープロバイダーは、直ちに収益源を確立するために迅速に建設工事を進めようとする。一般的に2 ~ 3年の建設工事を経て、最先端のフォトニクス装置を備え、稼働したその日から最大限の収益を生成することのできる、新しいデータセンターが完成する。
 最後に、急速なペースで進行するイノベーションが、多品種大量生産のデータセンター用フォトニクス製造にさらなる追い打ちをかける。10Gから40Gへのトランシーバのアップグレードが、この数年間の主な動きだった(図2)。現在は、40Gに代わって100Gが主流の技術として新たに大量に導入されている。それと同時に、200/400Gのソリューションが、試作と少数生産の段階にある。こうした異なる技術と製品のすべてを、しばらくの間共存させ、同じフォトニクス製造施設で製造する必要がある。

図2

図2 イノベーションが急速なペースで進行し、複数世代の製品が共存することから、フォトニクス製造には多品種大量生産という特徴がある。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/11/p18-22_ft_manufacturing_photonics.pdf