センサのオールオプティカル極低温冷却で振動を除去

光検出器のなかには、信号対雑音比(SNR)低減のために、機械的極低温冷却を使用するものがある。特に、赤外(IR)領域(そのような冷却器は、精密科学でも他に多くの用途がある)で動作するものに使用されており、単に液体窒素を満たしたデュワー(dewar)を使うのとは異なっている。比較的短い時間で蒸発して極低温冷却するデュワーとは違い、機械的冷却器は長期動作のために光学センサを搭載しているので、例えば衛星で長期の遠隔利用が可能である。
 しかし、機械的な極低温冷却器には問題がある。振動が発生するのである。敏感な光学検出スキームのなかには、振動が重大な障害になるものがある。(また熱電冷却器(TEC)は、振動を発生しないが、それだけでは、室温から真の極低温までデバイスを冷却できない)。

オールオプティカル冷却の実用化

現在、この問題に対するソリューションは米ロスアラモス国立研究所と米ニューメキシコ大の研究者が開発した。それはオールオプティカル冷却という珍しい現象に基づいている。また、それは実用的なフーリエ変換赤外(FTIR)分光計(1)で、水銀・カドミウム・テルル(HgCdTe)IRセンサの冷凍機として機能している。実験セットアップは、HgCdTeセンサを135Kに冷却して維持している。
 これまでに開発された最も効率的な光冷却形態は、YLiF4:Yb3+などのイッテルビウムドープフッ化物結晶のレーザ励起に依拠しており、蛍光発光は励起レーザよりも短い波長となる。結果的に、結晶はエネルギーを失い、それを冷却する。研究グループリーダー 、マンシュール=シェイク・バハエ氏(Mansoor Sheik-Bahae)と同僚は、この現象を取り上げて実用的な形態にした。これには、洗練された機械的、熱的設計を利用し、結晶、センサ、コールドフィンガーをマウントし、それらを真空内でアエロゲル(不良熱導体)をマウントに用いて接続した(図1)。
 「” 不定の” 荷重を冷却できるキーコンポーネントは、熱リンクの設計と製造であった。これは、高頻度の熱サイクルに耐えながら、冷却結晶からの>99.9%の蛍光をコールドフィンガーから奪い取る」とバハエ氏は言う。「これは、Yb:YLF冷却結晶に溶着された精巧な形状のアンドープYLF結晶によって達成された。他の重要な要素が、レーザ光と冷却結晶との結合強化に関わっていた。それは、さまざまな熱負荷緩和技術だけでなく、非点収差Herriottセル利用により達成された」。
 潜在的用途に関しては、同氏の考えでは、振動やマイクロフォニック・ノイズが有害な役割を果たす、>80Kの温度を必要とする極低温アプリケーションが、この技術から非常に大きな利益を得る。例えば、焦点面IRセンサや極低温顕微鏡である。「さらに具体的に言えば、最も差し迫った有望なアプリケーションは、我々の次世代光冷凍機とNIST(米国標準技術局)のシリコン基準キャビティとの統合に関わる。シリコン基準キャビティは、レーザを数十mmHz線幅で安定させるために利用される。このアプリケーションについては特に楽しみにしている。これによって、多くの高精度計測アプリケーションにとって、並外れたクロックが利用できるようになるからである。大きなフットプリントや面倒な液体ベースの冷凍機は不要になる」とバハエ氏は言う。

図1

図1 光冷却器は 、YLiF4:Yb3+結晶(a)をレーザ冷却することで振動を発することなく 、HgCdTeを極低温に保つ 。アンドープYLF結晶は 、熱リンクとして役立つ 。レーザ生成の蛍光がTiNOX被覆クラムシェル表面に投入される(b)。134.9Kまで冷却されるその光センサは、米ミダック社(Midac)が製造した商用FTIR分光計の一部である 。HgCdTe光センサの始動により 、2.5Kで加熱される(推定8mWの熱負荷)。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/11/p10-11_wn_optical_cooling.pdf