顕微鏡用レーザを選択する方法
光学顕微鏡の仕様を定める際、レーザ波長と出力が重要なパラメータであることは明らかだが、それ以外にも多数の項目を検討する必要がある。
蛍光顕微鏡は、さまざまな種類の生化学物質と物理的構造(形態)を観察するための独自の機能を備え、ライフサイエンス全般で広く使用されている。レーザは、優れた空間輝度と単色性(スペクトル輝度)の特長を併せ持つことから、蛍光顕微鏡、特に共焦点レーザ走査型顕微鏡(CLSM:Confocal Laser Scanning Mi cro scopy)を使用する多くの用途において、光源として用いられている。
複数の技術的性能パラメータによって定義される、幅広い種類のレーザが提供されており、レーザの専門知識を持たないユーザーにとっては、その選択は難しい作業かもしれない。しかしその選択が、実験の成否を分ける可能性は高い。本稿では、最も重要なパラメータを取り上げ、それらが顕微鏡の性能に与える影響について解説する。
波長
波長は、レーザの代表的なパラメータだが、最適な波長の選択は必ずしも容易ではない。最も単純な方法は、レーザ波長を蛍光体励起スペクトルのピークに合わせ、カットオフフィルタまたはバンドパスフィルタを使って、散乱したレーザ光がカメラや光検出器に到達しないように遮断することである。これにより、ストークスシフトされた蛍光発光だけが検出される。
レーザはフィルタよりも、スペクトルがはるかにシャープ(幅が狭く傾斜が険しい)であるため、フィルタから逆算して選択するのがよい場合が多い。例えば、励起ピークの短波長側の傾斜で、蛍光色素をレーザ励起する場合が多い。それは、波長を短くすることによって、散乱レーザ光と、長波長の蛍光の間の分離が大きくなり、フィルタの要件が緩和されて、S/N比(画像のコントラスト)が増加するためである。
1つの顕微鏡システムで、複数の蛍光体を観察できるように、ますます広範囲にわたる励起波長が顕微鏡メーカーやユーザーによって求められるようになっており、フィルタに対する要件は、かつてないほど厳しくなっている。顕微鏡は現在、最大7種類の異なる波長に対応するのが一般的である。
複数のレーザや検出チャネル間のクロストークを回避することも、顕微鏡の動作波長帯域幅を、近赤外(nearIR)スペクトル領域まで拡大することがますます求められている理由の1つである。反ストークス放射に基づく賢明な手法により、1台のシリコンベースのカメラを使用して画像を検出することができる。シリコン製CCD/CMOSの量子効率は、800nmを超えると急激に低下する。レーザメーカーはこのニーズに応えるために、808nmやさらには980nmの波長を持つレーザを提供している。
出力
出力もレーザの代表的なパラメータで、画像強度はレーザ出力にほぼ比例する。レーザ励起蛍光は、ほとんどの蛍光体に対して効率的なプロセスで、1に近い量子効率が得られる場合が多い。一方、共焦点顕微鏡は光学的に非効率なシステムで、対物レンズによって収集された蛍光の最大99%が共焦点ピンホールによってブロックされ、3次元解像度の画像強度が低下する。
しかし、出力が最大のレーザが、必ずしも最良の選択肢ではない。レーザ出力とともに、光損傷と散乱光の両方が増加し、レーザコストも増加するためである。原則として、試料表面で1 ~ 10mW程度というのが、一般的に多くの共焦点顕微鏡において適切な出力レベルである。つまり、標準的な顕微鏡光源および走査光学部品の効率から考えて、レーザ出力は数十mWということになる。
それ以上の出力が必要となる用途も存在する。例えば、新しいディスク走査型顕微鏡は、試料上の複数の焦点を同時に撮像することによって、さらに高速なフレームレートに対応する。ここでは通常、各焦点において必要な強度(と速度)を達成するために、より高い出力が必要となる。
光活性化局在性顕微鏡法(PALM :photoactivated localization microscopy)や誘導放出抑制顕微鏡法(STED:stimulated emission depletion)などの超解像手法にも、高い出力が必要である。こうした超解像手法は、漂白や飽和による蛍光体のオン/オフの切り替えに依存するためである(図1)。最近まで、これにはワットレベルの出力が必要だったが、それでは出力とコストが高すぎることが明らかになった。実際に最適な出力は数百mWで、レーザメーカーは現在、250 ~ 500mWの出力範囲でますます多くのレーザ波長を提供することにより、こうした用途に対応している。
ビーム品質
ビームモード品質は、焦点サイズに直接影響を与え、焦点サイズによって光効率が決まる。それは共焦点顕微鏡が、試料面上の1つ以上の小さなスポットにレーザを集光し、共焦点開口部を通してそのスポットからの蛍光を撮像することによって動作するからである。焦点以外に照射された光は、出力の無駄になるだけでなく、バックグラウンドノイズを増加させ、それに伴い全体的な画像コントラストを低下させる恐れもある。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/11/p14-17_ft_how_to_choose_a_laser.pdf