リアルタイム生検を目指すマルチモーダル顕微鏡法

エルベ・ラインオルト、アルベルト・ロンバルディーニ、ダリル・マコイ、マルコ・アリゴーニ

中空コアファイバが伝搬するナノ秒レーザ光ががん診断を加速させる

多種類のがんの診断や治療の初期における重要なステップが組織生検だ。現在のスタンダードでは、組織サンプルは外科的に採取され、顕微鏡的分析のために病理学のラボに送られるため、数日間を要する。たとえば、内視鏡検査中のようにその場で組織を分析するようになれば、大きな利点となるのは明らかだ。しかし、ラベル標識なしに遠隔操作を行い、必要なコントラストと解像度をもつ切片イメージを得ることには数多くの課題がある。
 だが近年、仏フレネル研究所(Institut Fresnel)の研究者が、即時利用可能なフェムト秒レーザと組み合わせ、ダブルクラッド中空コアファイバを基にしたユニークな内視鏡検査を用いることで、高解像度なマルチモーダルイメージングを実行できることを示している。この研究は、手術中にラベルフリーなイメージングを行い、リアルタイムな組織病理学的診断や手術ガイドの可能性を切り開くものだ。

生検の情報

組織病理は、疾患を示す異常を同定するために、顕微鏡下で組織サンプルを分析するプロセスである。組織病理学的なイメージングプロセスは強固に確立されている。採取された組織サンプルは構造を安定化させるためにホルマリンで化学的に固定され、続いて脱水され、パラフィンろうに埋め込まれる(固定やろう処理では、代わりに凍結処理もよく行われている)。サンプルはその後、慎重に薄くスライスされ、細胞核や細胞質、コラーゲン、抗原に特異的に結合する複数の色素またはラベルで染色される(膨大な数のカスタマイズされた抗体も使われる)。
 この組み合わせによって、組織病理学者は細胞体や核、細胞外マトリックスの構造を詳細に見分けることができ、がんやそのほかの重篤な疾患に存在する異常を認識できるようになる。
 この手法の大きな欠点は、手術によるサンプル採取から診断まで少なくとも数日を要することだ。これは、検査結果が陽性だった場合に治療が遅れることを意味する。さらに、もし腫瘍や組織を外科的に切除する必要がある場合、従来の手法では複数回の手術を患者に要求することになる。これはさらなる遅れにつながり、治療コストが増大し、また外科的治療の対象とならない患者では課題になり得る。

マルチモーダルな非線形イメージング

これらの限界は、組織病理学による情報と同じものを手術中のイメージングで得ることができれば解決できるかもしれない。この目標に達成できるイメージング法にはさまざまな性能が求められる。この手法は、色素や蛍光ラベルを用いずに、光学的な切片(ラボで行われる物理的なミクロトーム切片に似せたもの)を実現し、形態を強調するためさまざまな種類の組織成分を識別できるものでなければならない。また、内視鏡のマニュアルポートと互換性があり、リアルタイムイメージング性能を有する必要がある。
 リアルタイムに光学切片(すなわち3次元イメージング)を実施する必要性から、共焦点または非線形顕微鏡法を使用することになる。内視鏡と互換性のある共焦点デバイスはすでに存在するが、共焦点のイメージングで組織病理学的なスクリーニングに必要な情報をすべて得るためには、一般に蛍光色素やラベルが必須である。これにより、高解像度でラベルフリーなイメージングが可能な唯一の適切なツールとして、超高速のレーザパルスをもつ非線形顕微鏡法が候補に残る。
 多くの非線形顕微鏡法が利用可能であるなかで、二光子自己蛍光(TPF)励起、第二高調波発生(SHG)、誘導ラマンによる一部のものが、ラベルフリーなイメージングに最も活用できるとされている。これらの手法は特異性も有する。コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)と誘導ラマン散乱(SRS)は、脂質とタンパク質をイメージングできる。十分なスペクトル解像度を有するため、ラマンイメージングは脂質(=CH2の振動)とタンパク質(-CH3の振動)を原理的には識別できるだろう。その一方で、SHGはコラーゲン、すなわち細胞外マトリックスを良質にイメージングできることが証明されている。
 それゆえ、2つのコヒーレンスラマン波長とSHGイメージングを組み合わせることで、細胞体、核、細胞外マトリックスすべてを必要な解像度で明確に識別できるイメージを取得できるだろう。さらに、2つのレーザ波長を組み合わせることで、3種類のイメージすべてを生成できるだろう。

短パルスと中空コア

フレネル研究所の研究者は、3つの性能をもつ実用的かつ実行可能な内視鏡ツールを示している。
 即時利用できるレーザ源は、スペクトル幅の広いコヒーレントラマンに必要な分割ポンプとストークスパルス波長を手早くもたらす。研究者の証明では、調整可能で多重波長のレーザシステム(米コヒレント社[Coherent]のDiscovery)を用いる。これは、イッテルビウム(Yb)ファイバレーザ増幅器と、統合された調整可能な光パラメトリック発振器(OPO)がベースになっている。この統合されたワンボックスシステムでは、2種類の同調した超短波の80MHzのパルス列が生じる。す なわち、CARSのポンプ波長として機能するよう800nmに調整された100fsパルスと、ストークス用の1040nmの140fsパルスだ。これらの波長の違いは、炭化水素(CH2とCH3)結合(〜2888cm-1)のCARSイメージングに理想的だと考えられている。
 内視鏡との互換性のため、これらフェムト秒パルスの伝送には、高解像度に必要なパルス形状を保ち、小さいビームウエストを可能とするよう、単一モードファイバが必須である。従来の石英ファイバでは、単一のフェムト秒パルス列で高い忠実性をもちながら伝播することは、色分散や自己位相変調、ソリトン発生などの問題があるため重大な課題となる。波長が2種類あることで、サンプルシグナルを弱める石英ガラスそのものからの強い誘導ラマンバックグラウンド(4波混合[FWM])を含む、多くの非線形効果によって問題は悪化する。
 これらの問題を回避するため、研究者は、時間特性とスペクトル特性の大きなひずみが発生せずに、CARSに必要な2つの同調パルス列を伝送できる中空コアファイバを設計、製作した。これは、石英より1000分の1の非線形計数をもつ空気で満たされたコアの中を、2つのパルス幅が伝送するためだ。加えて、群速度分散(GVD)が非常に小さく(全伝送ウィンドウで5fs/nm/m以下)、そのため、1mのファイバ長を伝送するときの150fs以下のパルスの時間的広がりはわずか数フェムト秒で
あり、ほぼ無視できるものとなる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/09/p40-43_bio_translational_research.pdf