フォトニクス―モノのインターネットの基盤となる実現技術

ゲイル・オバートン

フォトニクスがなければ、物理的なデバイスの相互接続と、それらが周囲の環境に関する情報を共有して解析する能力は成り立たない。

ウィキペディアによると、モノのインターネット(IoT:Internet of Things)とは「物理的なデバイス、車両(「コネクテッドデバイス」や「スマートデバイス」とも呼ばれる)、建物、および、エレクトロニクス、ソフトウエア、センサ、アクチュエータ、ネットワーク接続に組み込まれたそのほかの要素を、相互に接続することにより、それらのオブジェクトがデータを収集して交換できるようにする仕組み」だという。
 しゃべる冷蔵庫など別に欲しくないという人もいるだろうが、ネットワークで接続された環境がどれほど強力になり得るかという事実を見落としてはいけない。 仏オプティクスバレー(Opticsvalley)のビジネスおよびイノベーション担当プロジェクト責任者を務めるローラ・クーティラ氏(Lola Courtillat)は、European Frame work/Photonics21プログラムのパートナー兼コーディネーターであり、国際技術交流のファシリテーターも担う人物である。同氏は、米マサチューセッツ工科大(MIT:Massachusetts In sti tute of Tech nology)のAuto­IDセンターの共同創設者で所長を務めるケビン・アシュトン氏(Kevin Ashton)が、米プロクター・アンド・ギャンブル社(P&G:Procter & Gamble)に対して行った1999年の講演を振り返った。アシュトン氏はその講演で、「人間の力を借りることなく収集したデータを使用して、モノに関するすべての情報を把握できるコンピュータがあれば、あらゆるものを追跡および計数し、無駄、損失、コストを大幅に削減することができるだろう」と述べた。
 「それから20年もたたないうちに、デバイスは相互にやり取りして、人間よりもうまくデータを共有できるようになった」とクーティラ氏は付け加えた(図1)。「機械間通信(M2M:Machine to Machine)が実現され、デバイスは互いにコマンドを送信し合い、利用可能なネットワーク(モバイル、有線、または無線)にアクセスし、身の回りの個々の要素と個別にやり取りするという人間の古い習慣に変化をもたらしている」。
 IoTアプリケーションで使用される、イメージセンサ、光学部品、光ファイバ、位置決め装置、ソフトウエアを思い浮かべれば、フォトニクスIoTの世界を拡大するうえで、それらのコンポーネントがどれだけ重要な役割を担うかが、さほど深く考えることなく理解できる。フォトニクスがどのようにしてIoTを実現しているかを理解するための最良の方法はおそらく、いくつかの最も重要なフォトニクスIoTアプリケーションを見てみることである。たとえば、通信、輸送、環境監視、スマートホーム、工場、機器などがある。

図1 IoTの世界では、個々のすべてのオブジェクト、動物、人間、または電子機器がシステムネットワークに加わって、一連のデータを供給することができる。データは送信され、クラウドで解析され、環境に返される。(画像提供:www.iotroadmap.com)

通信

急速な成長を遂げる業界として、世界市場が2015年の約5500億ドルから、2020年までに7500億ドルを超えると予測されるフォトニクスは、欧州委員会(EC:European Commission)によって欧州の6つの「鍵となる実現技術」(KET:Key Enabling Technologies)の1つに挙げられている(1)~(3)。この数千億ドルのうちの大きな割合を占めるのが、通信インフラに使われるレーザと光ファイバである。
 「チャールズ・クエン・カオ氏(Charles K. Kao)は、『光通信のためのファイバ内の光伝送に関する(1960年代からの)画期的な業績』が称えられてノーベル物理学賞を受賞した」とクーティラ氏は述べ、「それは、通信を多用するほとんどすべてのIoTアプリケーションにおける光学部品の永続的な役割を保証し、接続に関する私たちの理解を再定義するものである」とした(4)。
 「インターネットを支える高帯域幅の光通信ネットワークが、光ファイバと強力な半導体レーザ光源を拠り所にすることは、誰もが知っている。しかし、多くのIoTアプリケーションにとって重要なのは、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)によって実現される、より小規模でプライベートなネットワークである。従来の低効率(5 ~ 10%)な白熱電球やハロゲン電球を置き換えることをこれまで目的としていたLEDは、消費電力が非常に低く、寿命が長く、サイズが小さいので、シンプルな照明にとどまらない可能性を秘めている」とクーティラ氏は述べた。同氏はさらに、仏オーエルイーディーコム社(Oledcomm)の最高経営責任者(CEO)で、2017年までフランスのSyndicat de l’éclairageのディレクターを務めていたベンジャミン・アズレ氏(Benjamin Azoulay)の発言に言及した。アズレ氏は、LEDがエネルギー性能の面で引き続き素晴らしい躍進を遂げるならば、次なるステップは当然ながら、LiFi またはLi­Fi(Light Fidelity)システム、つまり、他の装置と通信する照明器具による接続であると強調した(図2)(5)。
 LiFiにおいて、信号は、LEDが放射する光の変調によって伝送される。独フラウンホーファー・ハインリッヒ・ヘルツ研究所(Fraunhofer Henrich Hertz Institute:HHI)の研究者らは、従来のLED電球を使用して実験室環境において3Gビット/秒のデータ伝送を行った。(ある見本市における)実環境では、それと同じシステムで500Mビット/秒の伝送が可能だった(6)。
 LiFi通信は、個々のすべての電球を、展示会や見本市の会場のような、無線周波数ノイズであふれるエリアにおけるネットワーク接続に転換する。機内や病院内など、過敏な電子機器への干渉を防ぐために無線周波数が禁止される場所に理想的である。クーティラ氏によると、2018年2月にパリで開催された第1回Global LiFi Congress(www.lificongress.com)で発表を行った研究者らは、LiFiネットワークは、ピギーバッキングを防止するので、標準の無線接続よりもセキュリティが高いと主張したという。ピギーバッキングとは、無線LANへの不正アクセスのことで、Wi­Fiスクワッティングとも呼ばれることもある。さらにLiFiには、Wi­Fiルーターでよく見られる、隣接ネットワークの干渉がないという。
 LiFiに加えて、第5世代の無線通信技術(5G)が、多数のIoTアプリケーションの実装を成功させるうえで不可欠になる(7)。遅延が低く(1ms)、帯域幅が広く、デバイスを接続する能力が高い5Gは、2018年のCES(Consumer Electronics Show)における中心テーマだった。米インテル社(Intel)のIoT /コネクテッドデバイス/次世代ネットワーク事業を統括するアシャ・ケディー氏(Asha Keddy)は、「CES 2018 is where you’ll start caring about 5G」(CES 2018は、5Gに関心を抱き始めるきっかけに)と題した記事で、5Gが実現される未来では、「6 ~ 7億人の人々が接続されるだけでなく、数百億ものモノが接続される。スマートフォン、照明、自動車、建物、家電製品など、ありとあらゆるモノが接続される」と述べた。

図 2

図 2 仏ルシベル(Lucibel)は、LiFi技術を搭載する初めての照明器具を開発した。特殊なLED照明器具は、コンピュータとデータを交換するが、インターネットへのアクセスは、光線の範囲内のみで有効な双方向のブロードバンドデータ伝送によって行われるので、データ伝送全体の保護が保証される。(画像提供:ルシベル社、https://goo.gl/EHhP6wを参照)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/07/pa_IoT.pdf