用途に適した半導体レーザを選択する方法

ホイ・シュウ、ハーウィグ・シュタンゲ、マイケル・ナイエル

本稿では、必要な半導体レーザの仕様を決定できるように導く、4つのステップからなるチュートリアルを紹介する。

半導体レーザは、現在のレーザ技術の陰の立役者ともいうべき存在である。シンプルなレーザポインターから高度な量子通信衛星にいたるまで、半導体レーザはいたるところで使用されている。半導体レーザは、卓越した効率と小さなフットプリントのほか、何といってもワットあたり価格がますます低下している。また、数えきれないほどのさまざまな種類で提供されている。
 多くの場面で、半導体レーザの使用が検討される。まったく新しいシステムを考案する場合もあれば、製品に搭載されている古いガスレーザを単に置き換えたいだけという場合もある。そうしたときに問題になるのが、選択肢の多さである。多数の異なる種類の半導体レーザが存在するので、エンジニアであれセールスエキスパートであれ、正しい選択を行うには数日を要する可能性がある。
 このチュートリアルは、アプリケーションに適切な半導体レーザとは何か、どのパラメータが最優先で、どれは無視してよいか、という最も重要な疑問に対する答えを導き出すための手引きである。
 このチュートリアルでは、一連の質問を読者に投げかけることによって、適切な半導体レーザを直ちに見つけるために使用できる表を作成していく。この論理的なプロセスは、博士課程の学生から経験豊富なエンジニアにいたるまでのすべての人にとって、適切な解決策にたどりつくための役に立つ可能性がある。このチュートリアルの論理は、適切な半導体レーザを求めるさまざまな顧客のコンサルティングに長年にわたって従事してきた著者らの経験に基づいている。

ステップ1:アプリケーション要件をレーザパラメータに変換する

アプリケーション分野は広大である。ライフサイエンス用の解析装置であるか、偵察任務用の頑丈なレーザであるか、材料加工システム用のシードダイオードであるか、計測用の非常に高い安定性を備えた半導体レーザであるかにかかわらず、とにかく適切な半導体レーザを適切に選択することが重要である。
 自分にとって適切な半導体レーザを見つけるにはまず、そのアプリケーションによって確定される一連のパラメータを明らかにすることから始めるだろう。例を使って、その作業を説明していこう。以下では、表面プロファイリングや速度計測のための適切なレーザ干渉計を構築したいと仮定する。
 このデバイスに対し、コヒーレンス長が1~10mの半導体レーザが必要で、干渉パターンは、温度が変化しても安定した状態を維持する必要がある(<0.1nm /K)。コリメートされたガウシアン(Gaussian)ビームが必要で、出力は80mW以上でなければならない。使用している検出器はシリコン(Si)ベ ースで、1100nm未満の波長にしか対 応しない。中心波長そのものと偏光は、ここではそれほど重要ではない。パッケージやピン配置については、この時点ではまったくわからない。 表 1は、ここまでに挙げたデータをまとめたものである。左側には純粋な アプリケーション要件、右側にはレーザパラメータが並んでいる。コヒーレンス長から、線幅を計算することができる(Δν=c/πL=9.6 ~ 95.5 MHz)。
 この分野に疎い読者のために、以下 では、各パラメータについて詳しく説 明する。以下の説明のほとんどは、リ ュディガー・パショッタ氏(Rüdiger Paschottta)の「RP Photonics En cyclopedia」(www.rp­photonics.com/encyclopedia参照)に記載されている。同書は、フォトニクスに関するあらゆる背景知識が網羅された、素晴らしい文献である。
コヒーレンス長は、コヒーレンスが著しく低下するまでの距離である。実際には、時間的なコヒーレンス長にも 関連するが、ここでは上記の定義で十 分である。詳細と計算方法については、www.rp­photonics.com/coherence_lengthを参照してほしい。このチュートリアルでは、Δν=c/πLという式を使用した。Δνは帯域幅(または線幅)、cは光速、Lはコヒーレンス長である。
スペクトル分解能は、帯域幅(単位: nm)と波長の間の関係を表し、R=λ/Δλで求められる。スペクトルグラフ、またはより一般的に、周波数スペクトルの場合は、電磁スペクトルの中の特徴を明らかにするレーザの能力を表す測定単位である。
 帯域幅の値を、ナノメートル(nm)単位からメガヘルツ(MHz)単位に変換するには、Δν=Δλ*c/λ2という式を使うか、インターネット上の計算機を使用することができる。たとえば、www.photonicsolutions.co.uk/wavelengthsの計算機では、波数(単位:cm­1)やその他4種類もの単位に、帯域幅の値を変換することができる。
 通過帯域。レーザ信号を検出するためのセンサの中には、干渉フィルタを使用して不要な周辺光を遮断するものがある。そのため、レーザ光源の波長を、フィルタの小さな通過範囲内に収める必要がある。これは、ベンダーにとっては重要な情報だが、この例では、中心波長の些細な誤差は無視できる。
 ビーム品質は、いくつかの方法で定義することができる。1つは、ビームがどれだけ理想的なガウシアン形状に近いかを表すM2係数である。1.0は、完璧なガウシアンビームを表す。もう1つはビームパラメータ積(BPP:Beam Parameter Product)で、焦点におけるビームウエストに遠視野発散角を乗算することによって求められる。詳細については、www.rp­photonics.com/beam_qualityを参照してほしい。
 強度は、ビームエリア、できれば焦点におけるレーザ出力を表す。従って、単位はW/cm2である。ここでの問題は、何をもってビームエリアとするかである。詳しい議論については、www.rpphotonics.com/optical_intensity を参照してほしい。
 ビームプロファイルは、レーザビームにおける強度分布のことである。その分布に応じて、フラットトップ分布(矩形分布)やガウシアン分布となる。シングルモードのビームは通常、ガウシアン分布に(近く)なり、マルチモードのビームは通常、ガウシアン分布にならない。混合モードの数や強度分布によって、さまざまな形状になり得る。
 レーザ光源の明度または輝度は、その出力パワーとビーム品質を1つの数値で表す測定単位である。基本的には、レーザ出力をBPPで割った値である。従って、単位はW/cm2*srとなる。詳細については、www.rp­photonics.com/brightnessを参照してほしい。

ステップ 2:レーザの種類を選択する

ステップ2では、レーザの種類をより具体的に絞り込みたいと思う。ここには、多数のオプションが存在する。それらをふるい分けるための適切な方法は、オプションを重み付けして、重みの合計が最も大きいものを選択することである(表 2)。灰色で影付けしたフィールドは、シングルエミッタの半導体レーザで一般的に提供されている、さまざまなオプションを示す。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/07/ft_how_to_choose.pdf