仮想現実と拡張現実における光学設計の課題

エリン・エリオット、クリステン・ノートン、マイケル・ハンフリーズ

フリーフォーム光学部品設計ソフトウエアと仮想プロトタイピングは、拡張現実(AR:Augmented Reality)および仮想現実(VR:Virtual Reality)用ヘッドセットを市場に投入するための動きを加速化させている。

非球面やフリーフォーム面によって光学システムのパフォーマンスが向上することは、理論としてはずいぶん昔から知られていた。しかしこの30年間で、光学製造と測定が進歩したことで、非球面やフリーフォーム光学面は、設計理論から現実へと押し上げられた。光学製造企業によって、そうした光学部品が、信頼できる形で製造可能であることが実証されている。こうして実現された新世代の複雑な光学面は、技術業界に革新をもたらし、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)用のヘッドセットを可能にしている。

先進テクノロジー:仮想現実と拡張現実

仮想現実と拡張現実という語は、2つセットで使われることが多いが、両者の技術は、異なる進化段階にある。米ガートナー社(Gartner)のハイプ・サイクル(Hype Cycle、図1)には、両者のステージに差があることが示されている。
 ガートナー社によると、「ハイプ・サイクルは、個々の新技術やそのほかのイノベーションに共通して見られるパターンをグラフィカルに表示したもの」だという(1)。図1に示されているように、ARは「幻滅期」にあり、VRは「幻滅期」を抜けて「生産性の安定期」へと向かう過程にある。フリーフォーム光学部品は、VRとARの両方の光学設計で用いられる。フリーフォーム光学設計は難しいが、ARには固有の課題がいくつか存在する。

図1

図1 ガートナー社が2017年8月に公開した「先進テクノロジのハイプ・サイクル」。

例:ARヘッドセット設計

図2は、ARヘッドセットの片方の目の光学設計例である。片方の目に2つ、ヘッドセット全体で4つのフリーフォームプリズムが必要となる。マイクロディスプレイからの光は、プリズムAを通して目に伝達される。実世界の光景は、プリズムBとプリズムAを経て目に届く。ヘッドセット装着者は、実際の光景の上にマイクロディスプレイが重ねられた映像を目にすることになる。
 プリズムAを通る光路は複雑である。マイクロディスプレイからの光はまず、面A1を透過する。ビームは、面A3における内部全反射(TIR:Total Internal Reflection)を経てから、面A2で反射する。面A2は、部分反射になるようにコーティングされている。最後に、マイクロディスプレイからのビームは面A3に返された後、ようやく目に届く。
 プリズムAの面A1が、通常は最も複雑なフリーフォーム形状となる。この面だけが、実際の光景に影響を与えないためである。垂直軸の非対称性が高く、軌跡長が短いため、このフリーフォーム面だけでは、高品質の画像をマイクロディスプレイから目まで伝達することができない。そこで、多くのARプリズム設計と同様に、この例でもプリズムAの3面すべてでフリーフォーム形状が採用されている。
 プリズムBは、収差のないビームを、実際の光景から目まで届ける必要がある。プリズムBとプリズムAが結合できるように、面B1は面A2に合致するフリーフォーム形状となっている。面B1は、プリズムAによって映像に挿入された収差を補正し、映像が実際の位置からずれて見えないように指向を補正するために、フリーフォーム形状でなければならない。
 このように光学設計が複雑であることが、ガートナー社がAR技術を幻滅期に位置づける理由の1つである。

図 2

図 2 OpticStudioにおけるARヘッドセットの光学設計。プリズムAには、A1、A2、A3とラベル付けされた3つのフリーフォーム面がある。プリズムBには、B1とB2の2つのフリーフォーム面がある。

ヘッドセットのサイズと重量を考慮した設計

VRとARの両方の業界でよく見られる課題の1つが、ヘッドセットをさらに小型かつ軽量にしたいという要求である(2)。ヘッドセットが小型で軽量になれば、より快適に装着できるようになる。光学設計者は、さらに思い切ったフリーフォーム形状を採用した設計を追求することによって、さらに薄く軽いプリズムを実現しようとしている。また、より軽量で屈折率の高い材料や、ホログラフィックレンズなどの光学部品も試用されている。
 システムのサイズ、体積、重量は、光学設計のシステム最適化の段階で、直接計算して検討することができる。光学設計ソフトウエアパッケージでは現在、バイコニック面、トロイダル面、ゼルニケ多項式(Zernike polynomial)、チェビシェフ多項式(Cheby shevpolynomial)など、数十種類ものフリーフォーム面がサポートされている。図2に示したプリズム面は、米ゼマックス社(Zemax)が提供する「Optic Studio」の拡張多項式のサグ方程式を用いて設計したものである。Zemax OpticStudioは、最大230項までのXとYの多項式をサポートする。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/07/ft_freeform.pdf