ポスドクは何処へ?

川尻 多加志

科学技術立国凋落の危機を救う若手研究者の活躍を推進するには

「任期付き博士研究者は、安定就職が困難な人々」と揶揄されるポスドク問題は、日本の科学技術の将来を揺るがす問題とまで言われている。3月17日(土)から20日(火)まで、早稲田大において開催された応用物理学会春季学術講演会の初日、同学会・男女共同参画委員会によって、この問題を議論する特別シンポジウム「『科学技術立国日本』の凋落危機を救う若手研究者の活躍促進」が開催された。

東工大 細野秀雄教授

東工大 細野秀雄教授

ポスドク問題を浮き彫りに

シンポジウムは男女共同参画委員長の松木伸行氏(神奈川大)の司会のもと、財満鎭明会長(名古屋大)が挨拶を行い、東京大の片山裕美子氏が「理工系の若手女性研究者の一人として」、NTT物性科学基礎研究所の松崎雄一郎氏が「企業の研究所で働くということ」、F-WAVEの髙野章弘氏が「企業における研究開発:いまだ道半ば」を講演、おのおのの経験を紹介した。基調講演は、文部科学省科学技術・学術政策研究所の松澤孝明氏が「博士人材の多様な活躍を目指して:課題と展望」を、東京工業大の細野秀雄氏が「昨今の研究環境と若手研究者のキャリアパスの課題について」を講演。そのあとにはパネルディスカッションも行われた。

日本人の博士が内向きに?

基調講演の松澤氏は、博士人材は持続的な科学技術イノベーションの主たる担い手だとしたうえで、自身の研究所のアクティビティを紹介した。
 日本の博士課程の約2割は外国人で、その約半分が中国人、博士課程全体の約9割はアジアからというのが現状で、半分は帰国してしまう。一方で、欧米先進国で活躍する博士卒業1.5年後の日本人は5%にも満たない。松澤氏は、日本人の博士がどんどん内向きになっているのではと危惧する。
 2012年度の人口100万人当たりの博士号取得者数は概算で米国250人、ドイツ330人、英国350人、韓国250人、我が国はわずか125人だ。いずれの国も2008年から増えているが、我が国だけが減っている。博士課程入学者も2003年をピークに減少している。博士課程に進学しなかった理由の3位は「博士課程に進学すると修了後の就職が心配である」だ。
 博士課程修了者の約6割はアカデミアに、約3割が非アカデミアに就職しているが、アカデミアの約6割は任期付き雇用で、非アカデミアの9割近くは正職員の安定した雇用に就いている。アカデミアに就職した人は、その後も約9割がアカデミアに留まり、それも任期付きのままが多い。
 ポスドクは2008年度の17,945人をピークに減っており、2015年度には15,910人になった。しかし、若手教員層の雇用形態は任期付き雇用が増えている。ポスドクから職を変える場合、任期なし職への就職率は年齢が上がるほど低下する。人生設計を考えるうえで、ポスドクが知っておくべき点だ。
 民間企業に就職した博士への企業評価では「期待を上回った」が9.4%、「ほぼ期待通り」は71.1%だ。一方「期待を下回る」は4.8%で、80%以上の企業が博士人材に満足している。ただし「期待を上回った」が伸びている一方で「期待を下回る」も伸びている。重要なのは、博士課程をどう過ごしたかだと松澤氏は指摘する。また、企業が博士人材に期待するのは、今の専門性よりも博士での経験を将来どう活かせるかで、これに対し博士人材側は今の専門性をどう維持するかを重視している。専門性に対する考え方にギャップがある。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/05/event_focus_posdoc.pdf