フォトニクスはますます身近な存在に:光でウェアラブル技術の進歩を促進

ゲイル・オバートン

拡張現実や仮想現実、光る衣服、そしてヘルスモニタリングは、低コストで小型のオプトエレクトロニクス技術によって実現されたフォトニックウェアラブル業界のほんの始まりにすぎない。

情報を表示したり、フィットネスや健康状態に関する個人的なパラメータを追跡したりする多くのウェアラブル機器に、電気信号、化学反応、または材料変形技術が用いられている。しかし、多くのウェアラブル機器が光に依
存している。たとえば、光を皮膚に直接当てることによって、治療やモニタリング、さらには危険な病状の予測を行う。光る衣服は、アートとしての自己主張や安全対策を目的とする。また、スマートフォンや他のウェアラブル機器を充電するために、光を照射するのではなく吸収する、太陽光発電のウェアラブル機器までもが登場している。
 米ABIリサーチ社(ABI Research)は、スマートウォッチ、スマートメガネ、ウェアラブルスキャナを含むエンタープライズウェアラブル機器の売上高が、2017年の106億ドルという十分に高い状態から、2022年までに600億ドルを突破すると予測している。英アイディーテックエックス社(IDTechEx)にいたっては、ウェアラブル機器市場の規模が2027年までに1500億ドルを超えるとまで予測している。
 ウェアラブル機器を、フォトニクスのカテゴリに分類するのは難しいかもしれない。理論的には、レーザマーキングによるタグや、ペットの首に付ける発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)ライトが、このカテゴリに当てはまるだろう。それらに続いて、もう少し洗練されていて技術が駆使されたフォトニックウェアラブル機器がいくつか登場しており、この民生市場が数百億ドル規模に達するとする予測の信憑性を高めている。

個人の安全と表現力豊かなディスプレイ

まだウェアラブル機器として商用化されていないが、microLED技術に取り組む企業は、これを視覚的ディスプレイだけでなく、個人用のウェアラブルディスプレイや、指紋認証とジェスチャ認識に適用することを検討している。microLEDでは、直径1 ~ 10μmの微細なLEDを1mm間隔でピクセルに敷き詰めて発光させる。液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)や有機EL(OLED:Organic Light Emitting Diode)よりもエネルギー効率が高い。このピクセルをフレキシブル基板上に実装することができ、フレキシブル基板にはセンシング用の電子回路も集積することができる(図1)。米アップル社(Apple)や米オキュラス社(Oculus)などの企業がこの技術に賭けており、microLEDを手掛ける企業をそれぞれ買収している。
 米ルミニット社(Luminit)はさらに、ピクセル化されたmicroLEDを近くで見たときの視覚的な美しさを向上させるための微小な拡散技術を設計した。このディフューザは、ホログラフィック記録を行う光整形拡散板(LSD:Light Shaping Diffuser)の微細構造を、ポリエステルまたはポリカーボネートの薄膜に埋め込むことによって構成されている。このディフューザをmicroLEDの表面からわずか10μmの距離に配置することにより、選択されたLSD構造に応じた任意のビーム角で、光を拡散することができる。
 現在商用化が進められているウェアラブル製品があるが、それには、米コーニング社(Corning Incorporated)が開発した「Fibrance」という光ファイバ技術が採用されている。これについては2014年に本誌で紹介した。Fibranceは、光を最小限の損失で離れた場所まで伝搬するというものではなく、逆に損失の大きいファイバで、その長さ全体にわたって均等に発光し、microLEDや有機ELを採用する大きな光源や分散光源では到達できない場所に光を伝搬する。
 「コーニング社のビジネスモデルは、数百万kmの光ファイバを大企業に販売するものだが、当社の目的は、長さ数mのファイバを数百万の民生、ウェアラブル、ゲーム、自動車分野の用途に販売することである」と、シリコンバレーに新しく設立された米バーサルーム社(Versalume、「versatile lumens(多用途ルーメン)」という意味)の最高経営責任者(CEO)で創設者であるマリオ・パニッシア氏(Mario Paniccia)は述べる。
 バーサルーム社のソリューションは、レーザ、電子部品、ファイバ、バッテリ、ソフトウエアを巧妙な工業デザインに統合するもので、これによって顧客は、それぞれの応用分野に専念し、照明を搭載する製品を直ちに市場に提供することができる。単色製品には、赤、緑、または青色(639/515/450nm)のレーザが搭載されている。これに加えて、Bluetooth制御で「iOS」アプリが提供されたRGBスマートモジュールがある。加速度計、気圧計、温度モニタ、ジャイロスコープなどのセンサが搭載されており、連続波モード、点滅モード、フェードモード、音楽ビートモードで動作することができる。
 同社のソリューションは、接続オプションとしてFCまたはLCコネクタが選択できる。ファイバそのものは、コア径170μmでポリマーで被覆されており、10mm未満の曲げ半径と、0.5mから50m以上までの拡散長に対応する。開口数(NA:Numerical Aperture)が大きいので(0.53)、可視光、近赤外線、紫外線(UV)の半導体レーザとの低損失のカップリングが可能である。

図 1

図 1 高密度に敷き詰められた微細ピクセルをフレキシブル素材に実装して、個人用ウェアラブルディスプレイが構成できることを示す、microLEDパネル。(提供:オランダのホルストセンター [Holst Centre])

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/05/pa_wearable.pdf