量子センシングのペースが速まり利用空間も拡大

アンドレアス・ウィッチ、マルクス・クルツィック、アンドレアス・ソス

暗号化、量子コンピューティングなどの量子技術が最も注目を集めているが、量子センシングが最初に産業化される可能性がある。たとえば、ベルリンのある共同研究は衛星動作のためにレーザ技術の小型化を進めている。ここでは、量子センサがナビゲーションや通信を著しく改善する。

独トルンプ社(Trumpf)の副会長兼CTO、ピーター・ライビンガー氏(Peter Leibinger)は、ミュンヘンで開催されたLASER World of PHO TO NICSで基調講演を行い、フォトニクスにおいて次なる目玉は量子技術であると強調した。そのトレンドは、政治家にも投資家にもよく知られている。各国政府と、中国、米国、カナダおよびヨーロッパの業界巨大企業は現在、量子技術でリーダーとなるための競争で後れをとらないように資金計画を調整している。

財源は数十億ユーロ

2017年3月、英エコノミスト誌は、量子研究の現状について印象に残る批評を掲載した。同記事には量子技術(QT)に取り組む人員数が含まれており、2015年、総予算15億ユーロで約7000名がQTに取り組んでいる(マッキンゼーの数字)。欧州連合(EU)のそれに続く概要は、5年以内にその予算が50億ユーロに増加すると推定している。
 2016 年、EUは、Future and Emerging Technologies(FET)量子技術フラグシッププロジェクトを開始した。その10年間、10億ユーロのプロジェクトは、2013年グラフェンで始まり、次はHuman Brain Projectだった。Quantum Technologies Flagshipと量子宣言は、2018年第1四半期に予定の資金提供申請を提唱している。このプロジェクトは、20を超える国家戦略をともなう。
 量子技術では、近年中国が最も進展している。Micius(墨子)プロジェクトで中国は、衛星と地上との量子通信を成功させた。それは、小さなスプートニクショックを世界に与えたが、それは中国の数ある活動の1つの成果にすぎない。
 2017年、中国科学アカデミーは、安徽省にInstitute of Quantum Information and Quantum Technology Innovationを開設した。米国ジェイムスタウン財団、中国の活動批評は、中国におけるQTプロジェクトには「実質的に無限の資金」があると主張している。この報告は、10年以上前から行われている量子センシング分野の多くの活動を挙げている。特に、量子レーダーと量子ナビゲーションについてである。
 これには中国最大の民間投資家の最近の活動は含まれていない。2017年10月、アリババ(Alibaba)グループは、今後3年で新技術研究に150億ドルを超える投資を行う計画を発表した。これには、人工知能と量子コンピューティングが含まれる。同グループは、中国、米国、ロシア、イスラエルとシンガポールに7研究所を開設する計画である。
 長期にわたり、米国がQT研究の最前線にいた。しかし、このリードは、中国における現在の開発によって非常に疑わしくなっている。2017年夏、米国国家フォトニクスイニシアチブ(U.S.National Photonics Initiative)は 、 国家量子構想(National Quantum Initiative)と5億ドルの財政支援を求めるホワイトペーパーを発表した。これは、米国下院の公聴会、10月24日、「量子技術におけるアメリカのリーダーシップ」(American Leadership in Quantum Technology)に発展した。公聴会には、IBM、米国政府機関、学界の代表も含まれていた。さらなる進展は、今後の課題である。

量子センシングはすでにある

有名なシュレディンガー(Schrödinger)のネコ(同時に生きており、死んでいる=生死は、それぞれ50%の確率)のような奇妙な量子現象の議論は約100年の歴史があるが、産業的な活用はまだ見られない。そのような第2の量子革命(量子技術の発見を第1とする)では、いくつかの技術が議論中である。量子暗号や量子コンピューティングが最も関心を集めていることは確かであるが、原理実験の証明成功はあるものの、応用はまだ非常に限られている。
 量子的に強化されたイメージングや量子センシングはあまり人気がないが、実用化に最も近いかもしれない。両方とも、基本的限界で最大精度を提供する。量子イメージングは、軍事目的(ゴーストイメージング)、ナノリソグラフィ 、新しい医療診断(Q­OCT)目的で研究されている。
 量子センサは、物質の量子性質を利用して、周波数、加速度、回転率、磁場、あるいは温度などの物理量を最高の相対正確さ、絶対正確さで計測する。これらの計測により、自然定数、つまり基礎定数に直接関係する局所的な、再現性のあるキャリブレーションが可能になる。
 これは、時間あるいは重力の基本計測に、最高精度で関係している。1番目は、ナビゲーションシステムに必要であり、2番目は慣性航法を可能にする。ここでは精密な加速度計算を使って位置データを手に入れることができる。あるいは、石油、水などの隠れた自然資源の詳細なマッピングを含む、地質学的アプリケーションをサポートすることもある。
 前例のない精度で時間を計測することは、量子技術の最初に広く普及したアプリケーションの1つであった。今ではそれは、地球の軌道に進んでいき、ここでは大きな経済的利益が見込まれている。新しい世代のナビゲーション、
あるいは通信衛星は、原子時計から積極的に利益を引き出す。

量子効果測定に必要なものは何か

量子センサは、その核心部では、原子またはイオンの量子力学的振る舞いを利用している。レーザは、個別の試料の特殊量子状態を準備するための一般的なツールである。通常、連続波(CW)レーザを利用して原子を冷却し、量子特性が熱効果に対して優位に立つようにする。次に、レーザパルスは、試料の分光学的特性をテストするために利用できる。
 原子干渉計では、たとえば、冷却原子の波動関数は、光スリット実験からわかるように、光波とまったく同じに干渉することが可能である。フォトンと違い、原子は有限質量であり、従ってその干渉縞は重力に依存する。それゆえ、干渉縞は超精密重力測定に利用することができる。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/05/ft1_quantum_technology.pdf