生物医学診断に変化をもたらす緑色レーザダイオード

ペドロ・ミュノツ

波長 488nmの緑色ダイレクトレーザダイオードは、フローサイトメトリーシステムにおいてそれよりも複雑なDPSSレーザに置き換わり、将来的には、より低コストで可搬性に優れたサイトメータや診断装置を実現可能にする。

DNAや細胞を分析するためのツールは、新しい薬物療法やライフサイエンス研究の探求に欠かせない存在となっている。診断ツールは、大型で複雑で高価な装置から、コンパクトでシンプルで費用対効果の高い機器へと進化した。レーザダイオードなどの技術の飛躍的な進歩に支えられたその変化は、生物医学業界に革新を生み出している。
 独オスラム・オプト・セミコンダクターズ社(Osram Opto Semiconductors)が初となる緑色ダイレクトレーザダイオードを2012年に発表した後、低コストの診断ツールが次々と開発された。たとえば、オスラム社の波長488nmの青緑色レーザダイオード「PLT5」は現在、生物医学分野においてダイオード励起固体レーザ(DPSS:Diode Pumped Solid State)に置き換わりつつある(図 1)。この488nmレーザダイオードは、優れた遠視野像(FFP:Far Field Pat tern)を持ち、波長誤差範囲が±2nmと狭いので、複雑さとコストを抑えたデザインを実現することができる。

図 1

図 1 オスラム社の488nmレーザダイオード「PLT5」は、ダイレクトエミッティング設計を採用し、生物医学分野におけるさらにシンプルで費用対効果の高いデザインを可能にする。

生物医学診断におけるレーザの歴史

458、476、488、497、502、515、529nmの標準的なアルゴンガスのレーザ線が、蛍光プローブの励起に使用される。このプローブは生物医学研究に有効である。細胞またはDNA配列の特異構造に優先的に結合するので、細胞と分子の両方のレベルでテストを行うことができるためである。蛍光プローブは、特定波長の光源によって励起され、その局所反応が検出器によって明らかにされる。上記の波長が今でも最もよく使われており、488nmがそのなかでも特によく利用される波長の1つである。
 DPSSレーザはかなり以前から、アルゴンガスレーザに代わるレーザ源として一般的に使用されるようになってい る。DPSSレーザは、赤外(IR:infrared)レーザダイオードを用いてアクティブな固体媒体を励起する。それによって、高い出力レベルにおいてもビーム品質に優れたレーザが照射される。このレーザは、幅広い範囲の異なる波長を出力するように調整することができる。しかし、DPSSレーザは、温度の影響を受けやすく、長期的な安定性が低く、ノイズの問題がある。またその設計上、必ず一連の複雑な光学部品(非線形水晶を含む)で構成され、アラインメントが必要となる(図 2)。アクティブ部品は高額でもあるため、DPSSレーザの製造は難しいだけでなく、コストもかかる。
 一方、レーザダイオードは小さく、電流制御ドライバによって(100MHzをはるかに上回る周波数で)簡単に変調できる。DPSSレーザのような複雑な構造を設けることなく、高いシングルモードのビーム品質が得られるので、はるかに低いコストで製造することができる。
 DPSSレーザの代わりにレーザダイオードを使用することを妨げる最大の問題は、波長範囲が限られており、求められる波長のすべてを提供できないことである。ブルーレイの光学ドライブ用の短波長の青色レーザや、オスラム社の450nmレーザダイオードが開発された後も、いわゆる「グリーンギャップ」によって、アルゴンガスレーザの多くの波長が、レーザダイオードレベルでは利用できなかった。

図 2

図 2 販売終了されているオスラム社のDPSSレーザの構成図。20個を超える部品で構成されている。複雑に組み合わされた多数の光学部品をアラインメントする必要があるため、製造は難しかった。

初めての緑色ダイレクトレーザダイオード

オスラム社の波長520nmの緑色ダイレクトレーザダイオードは、レーザダイオード技術をアルゴンガスの波長にまで拡大したという点で、画期的な進歩だった。より最近では、488nmの中心波長が選択可能なレーザダイオードを発表している。488nmは、ライフサイエンスの研究分野で最も一般的な波長である。488nmまたはそれに非常に近い波長で励起するように特に作成された蛍光体が、多数存在するためである。
 こうした生物医学用途では、レーザの光とプローブからの蛍光が、異なる光学経路をたどる必要がある。異なる光源は、小さなバンドパスフィルタを備えた二色性光学部品によって分離される。そのためレーザダイオードは、明確に定義されていて誤差範囲の狭い波長を持つ必要がある。オスラム社は、一貫した励起と適切な光分離を確実に達成するために、このデバイスの誤差範囲を±2nmとしている。波長は、標準的な用途で求められる25mWまたは
60mWの光出力で測定されている。
 ここで必要となるレーザダイオードを考えた場合、次のような課題が生じる。商用化されている波長が求められているとすれば、縦シングルモードのレーザダイオードが、100mW未満の出力を必要とするシステムに対しては理にかなった選択である。シングルモードレーザダイオードのビーム出力は一般的に、非常に拡散性が高く非対称的だが、エミッタのサイズは通常1μmよりも小さいので、比較的簡単に、非常に小さな光学部品でビームをコリメートして、シングルモードファイバに結合することができる。
 しかし、一部のレーザダイオードでは、ゴーストサイドローブという望ましくない現象が生じる可能性がある。サイドローブは一般的に、光全体の1 ~ 2%を占める。このゴーストサイドローブは非常に弱いものだが、光学システムと相互に作用して、測定を簡単にゆがませてしまう可能性があるので、光学設計ははるかに難しくなる。ゴーストサイドローブは一部のレーザのみで現れ、サイドローブの強度もレーザダイオードによってまちまちとなる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/05/ft4_visible_laser.pdf