エキシマレーザ— 誕生40周年を迎え、ますます好調

ルドルフ・ヘルプスト

誕生してからすでに40年。今なおエキシマレーザは比類なき高出力UV / DUV光源として非常に重要ないくつかの応用で、重宝されている。

商用エキシマレーザは40年前、ラムダフィジック社(Lambda Physik、現在の米コヒレント社)によって初めて発表された。その開発者であるベルンド・ステイヤー氏(Bernd Steyer)とダーク・バスティング氏(Dirk Basting)はともに化学者で、光化学と色素レーザ励起用の光源を開発することを主な目的としていた。ラムダフィジック社は、エキシマレーザを市場に投入すると同時に、この強力な短波長紫外線(UV:ultraviolet)光源を他の用途にも適用できないか検討し始めた。
 エキシマレーザの当初の用途の多くは、すでに現在は使われなくなっているものもあるが、その後進化して活用されているものも多い。私たちの日常生活にエキシマレーザほどインパクトを与えたレーザ技術はほかに存在しないと言っても過言ではない。レーシック(LASIK:laser-assisted in situ keratomileusis)、フォトリソグラフィ、ディスプレイ製造は、エキシマレーザ特有の三大用途で、今も変わらず活躍し続けている。

特有の出力が生み出す、特有のメリット

エキシマレーザは、UV波長出力と高パルスエネルギーという独特の性質を併せ持ち、それが利用拡大の主な要因となっている。波長が長いほど回折が大きくなるため、光学分解能は波長の増加にともなって低下する。エキシマレーザは波長が短いので、微小な形状を非常に高い精度で生成することができる。また、高いパルスエネルギーと高速な繰り返しレートの組み合わせによって、処理スループットを高く、タクトタイム(製品1ユニットの生成にかかる総時間)を短くすることができる。
 固体UVレーザ技術もまたこの40年間で著しく進歩してきたが、こうした特有の特長を併せ持つエキシマレーザに置き換わるまでの新技術は出現しなかった。
 実用的な面では、この間メーカー各社が、出力特性の改良や、特定用途の要件に合わせた開発に多大な労力を注いだことから、エキシマレーザは市場における適合性をますます拡大していった。たとえば、初の商用エキシマレーザであるラムダフィジック社の「EMG500」は、最大繰り返しレートはわずか20Hzだったが、現在では、数kHzの繰り返しレートに対応するエキシマレーザが無数に存在する(図 1)。さらには、他のレーザやレーザ以外の技術に対するエキシマレーザの競争力の維持のため、メンテナンス性やコストなども大幅に改善されてきた。

図 1

図 1 初の商用エキシマレーザは、ラムダフィジック社の「EMG 500」248nmで220mJのパルスエネルギーを生成し、繰り返しレートは最大20Hzだった。

視力矯正

世界中で年間100万人を超える人々が、レーシック手術により完璧な視界を取り戻しており、数えきれないほどの人々の満足につながっている(図 2)。
 1989年に導入されたレーシックは当時、科学分野以外でエキシマレーザが利用された初めての応用分野で、今でもユニット数でエキシマレーザ最大の応用分野である。豚の目に対する粗削りな実験から始まったレーシックだったが、今では世界中の眼科医院やレーシックセンターに1万を超える高精度でコンパクトなテーブルトップ型レーザが導入されるまでに進化している。
 レーシック手術では、波長193nmのエキシマレーザパルスを使って、角膜から物質を除去して形を整えることにより、その屈折力を変えて近視、遠視、乱視の矯正を行う。
 レーシック手術では、外科的処置によって(フェムト秒レーザまたはマイクロケラトームで)、ヒンジで角膜とつながっている薄いフラップを角膜の外表面から持ち上げる。そしてエキシマレーザのビームを、高速走査ミラーを使って整形し、照射することにより、角膜物質を個々の患者の視覚矯正に必要な正確なパターンで除去する。その後、フラップを元の位置に戻し、目の前面を覆って保護する。
 正確で安全なレーシック手術を行うためには、193nmのフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザによる高精度のアブレーション処理が不可欠である。また、短いパルス幅(ナノ秒)と短い波長により、フォトアブレーションと呼ばれる比較的低温のプロセスで角膜物質を除去することができることが特長である。

図2

図2 レーシック手術は、毎年100万人を超える人々の生活の質を向上させている。

フォトリソグラフィ

エキシマレーザは、非常に微細な集積回路(IC:Integrated Circuit)の製造にも欠かせない。それによって、ますます小型で高性能で経済的なマイクロプロセッサが製造されるようになり、多大な影響を現代社会に与えている。
 ICそのものは、1枚のモノリシックな半導体ウエハ上に作製された無数の電子コンポーネントで構成されている。こうしたデバイスの微細構造は、フォトリソグラフィと呼ばれる処理にて1枚ずつ積層される。最初の工程は、半導体ウエハに感光性フォトレジストを塗布することである。続いて、必要な回路パターンを含むレチクル(マスク)にUVレーザ光を照射し、ウエハ表面にマスクパターンを投影する。その後、レジストの露光部分が現像され、ウエハが化学的にエッチングされることで、露光部分から材料が物理的に除去され、実際の形状が生成される。この処理を30回から40回繰り返すことによって、回路構造全体が完成する。
 当初はフォトリソグラフィ光源として水銀ランプが使用されていたが、より微細な形状を生成する必要性から、より波長の短い光源(ここでも回折が関係する)、特にエキシマレーザへの移行が進んだ。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/03/ft2_gas_lasers.pdf