分光法が示すアルツハイマー病のバイオマーカー
今世紀の最初の10年だけでも、アルツハイマー病(AD)による死亡数は68%上昇した。今やADは米国内の死因第6位であり、相当な科学研究にもかかわらず治療法は存在しない。事実、ADの分子機序ですらわれわれは理解できていない。しかし、新たな研究によって、ラベルフリーの光学分光法が洞察を可能とするかもしれないと示されている。さらには初期の診断によって、患者の認知機能があるうちに意思決定をしたり、悪化を遅らせるための治療を開始したりできるかもしれない。しかしながら、それまでの間、ADを有する多くの人々は未診断のままだ。
1984年、米ニューヨーク市立大(City University New York)のロバート・アルファーノ氏(Robert Alfano)とその仲間は、組織にある内因性の有機生体分子の蛍光度を読み解くことで、腫瘍を検出するラベルフリーの光学分光学の利用を開発した。後に研究室のメンバーはこの研究を広げ、ある種の腫瘍を診断するために、通常組織と病変組織にあるトリプトファン、還元型ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NADH)、フラビン、コラーゲンの基準を決定するために分光法を導入した。アルファーノ氏と、現在は米コロンビア大(Columbia University)のレイガン・シー氏(Lingyan Shi)が率いる国際チームが開発したラベルフリー光学分光法の新たな応用によって、脳組織の分子の構成要素と、それらがほかの組織と異なる理由が明らかになっている(1)。
分光法によるミトコンドリア異常の計測
エネルギー産生に欠かせないミトコンドリアの機能不全は、ADまたはそのほかの疾患と相関する。ADの脳組織では、トリプトファンのキヌレニン代謝と同様に、NADH関連のミトコンドリア酵素の所見が認められている。ミトコンドリアの機能不全が初期に同定できれば、ADの機序をより理解できるだけでなく、初期の疾患の検出にもつながる。
研究者は、細胞の酸化還元(レドックス)反応に重要な細胞内補酵素などが、代謝活性やミトコンドリア機能不全の内因性バイオマーカーになりうると仮説を立てた。
NADH、フラビン・アデニン・ジヌクレオチド(FAD)、ADを示すトリプトファンの可能性を調べるため、通常または初期ADのマウスにおける脳組織の標本を評価、比較する蛍光分光法を使用した。通常または疾患マウスの脳組織における、これら主要な分子の構成要素の蛍光スペクトルが初めて示された。
(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/03/wn3_bio.pdf