レーザがレーザの需要を生むスパイラル効果

キャシー・キンケード、アレン・ノジー、ゲイル・オーバートン、デイビッド・ベルフォルテ、コナード・ホルトン

消費者向けエレクトロニクス製品、特にスマートフォンと自動運転車用ライダが、レーザメーカーとレーザ材料加工装置供給メーカーの成長を新たな高みへと押し上げ、それによって、さらに多くのレーザを必要とする市場が生み出されている。

単刀直入に言おう。2017年のレーザ市場を推進した主要要素は、消費者向けエレクトロニクス製品と中国で、技術として最も大きな成功を収めたのは、ファイバレーザ、ライダ(LIDAR:light detection and ranging:光検出と測距)レーザ、垂直共振器面発光レーザ(VCSEL:Verical Cavity Surface Emitting Laser)だった。こうしたトレンドは、レーザ材料加工や半導体製造用の装置を製造するメーカーと、それらのメーカーにレーザやフォトニクスデバイスを供給する多数のメーカーに、記録的な利益をもたらした。つまりレーザは、さらに多くのレーザを渇望する、半導体ウエハや消費者向け家電製品を作り上げる動きを加速化させるための重要な役割を演じている。業界の統合が続き、主要な実現技術の中から有効なものだけを手に入れることを目的に数多くの取引が交わされて、2016年はM&A(合併買収)が盛んに行われた1年だったが、2017年にはそのペースが落ち着きを見せた(1)。
 とはいえ、2017年がレーザ業界にとって素晴らしい1年だったことは、何ら驚きに値しないはずだ。本誌の集計値によると、2017年の世界レーザ売上高は2016年から1831%増加したと推定される。それを主に牽引したのは、売上高を前年比で26%以上と大幅に増加させた材料加工部門だった。材料加工用のファイバレーザだけで、34%増というすさまじい成長を示した。しかし、2017年は例外的な状況だったと本誌は見ている。2018年には、一部の材料加工レーザシステムに対する設備投資が落ち着き(2)、レーザ売上高の増加はより穏やかなペースに戻ると予測される。
 2017年の堅調なレーザ販売台数から、インダストリー4.0(Industry 4.0)とモノのインターネット(IoT:Internet of Things)は単なる流行語以上の存在になったと考えられる。たとえば、米
AIMフォトニクス(American Institute for Manufacturing Integrated Photonics)が2017年3月に公開したIntegrated Photonics Systems Roadmap(IPSR)(3)では、IoTアプリケーションが同市場に特に大きな影響を与えると予測されている。また、インダストリー4.0の機会(4)も次々に出現している。2017年には、独トルンプ社(Trumpf)がシカゴにスマートファクトリー(5)を開設した。板金プロセスチェーン用のデジタル接続の生産ソリューションに重点を置いている。また、ドイツ工作機械工業会(VDW:German Machine Tool Builders’ Association)は、ネットワーク接続された生産に向けたイニシアチブを開始した。
 以下に、業界を主導するレーザメーカー4社の業績を示す。どの企業も2017年に予測をはるかに上回る業績を上げた。売上高は15億ドル以上、前年比成長率も著しく、それに対応して株価も大きく上昇した。
 米コヒレント社(Coherent):同社は、最高の1年だったというだけでは足りないぐらいの業績を上げた。コヒレント社の2017会計年度第4四半期の純売上高は4億9030万ドル、純利益は7380万ドルで(6)、それぞれ前年同期の2億4850万ドルと3080万ドルからほぼ倍増した。年間の純売上高は17億ドル(前年度は8億5700万ドル)、純利益は2億900万ドル(前年度は8800万ドル)だった。コヒレント社の最高経営責任者(CEO)を務めるジョン・アンブロセオ氏(John Ambroseo)は、この素晴らしい業績の要因として、マイクロエレクトロニクスの受注を挙げた。具体的には、有機EL(OLED:Organic Light Emitting Diode)の導入と保守が好調を維持し、最先端パッケージングが緩やかな回復を示したこと、ロフィン社(Rofin-­Sinar)買収と自律的成長によって材料加工受注が増えたこと、診断と治療分野におけるOEM計測機器販売が好調だったこと、航空宇宙と軍用の市場が伸びたことが、好結果につながったという。
 中国ハンズ・レーザ・テクノロジー社(Han’s Laser Technology):2016 年上半期の売上高が、前年比22.7%増の31億人民元(4億5200万ドル)だったと報告した(7)ハンズ・レーザ社は、2017年には10億ドルの大台に届くと予測される。この成長の背景にある推進力としては、カナダのファイバレーザ供給メーカーであるコアクティブ・ハイテック社(CorActive HighTech)を買収して、ファイバレーザに関する自社の専門技術をさらに強化したことが挙げられる。中国のリサーチインチャイナ社(Research in China)が2017年3月に発行したレポート(8)によると、2016年の産業用レーザ世界市場(市場規模は推定31億6000万ドル)において、中国は17%を超えるシェアを占めるという。また、この傾向は続く見込みで、同レポートによると、産業用レーザ世界市場における中国のシェアは今後5年間のうちに20%を超えるという。
 米IPGフォトニクス社(IPG Photonics):ファイバレーザメーカーである同社の第3四半期売上高は、前年同期比48%増の3億9260万ドルで、同社の9カ月間の売上高は、2016年同期の7億2600万ドルから増加して10億ドルを超えた。その大部分は、前年同期比52%増の売上高を達成した材料加工部門によるものである。同部門の主要市場は、切断、溶接、3Dプリントの各用途だった。第3四半期の実績に基づき、年間売上高成長率は37 ~ 39%になると同社は予測しており、同社CEOのバレンティン・ガポンツェフ氏(Valentin Gapontsv)によると、6年間で最高の年間売上高成長率だという。当然の結果として、同社の株価は2017年の1月と11月の間に、1株あたり92ドルから200ドルと、2倍以上上昇した。
 トルンプ社:トルンプ・グループも2016/2017年で業績が著しく向上し、税引前利益は11.3%増加して3億9800万ドル弱、売上高は10.8%増加して過去最高の36億ドルを記録した。同社は販売好転の理由として、好調な世界経済を挙げ、「世界各地の政治情勢はこれまでのところ、欧州、アジア、北南米の事業にほとんど影響を与えていない」と述べた。しかし、同社CEOのニコラ・ライビンガー=カミュラー氏(Nicola Leibinger-Kammuller)は、慎重な姿勢をくずしてはいない。「広まる世界経済の好調感が、投資に対する潜在的な障害に勝っている。その障害とは、保護主義政策に関する公約、情報拡散に対する中国政府の方針、英国の欧州連合(EU:European Union)離脱交渉である」と、同社が2017年10月19日に発表した決算報告の中で同氏は述べた(9)。「しかしわれわれはやはり、中期的な投資情勢について、曇り空を予報する」(ライビンガー=カミュラー氏)。

消費者の需要

2017年の成長の最大の要因は、消費者向け製品とそうした製品の製造に使われるレーザと光学部品が増えたことだと言える。たとえば、「iPhone」(というよりも、ほとんどすべてのスマートフォン)の組み立てには、ガラスの切断、パーツのエングレービング、回路基板の穴あけなど、レーザを使用する加工処理が10以上含まれる。
 また「iPhone X」は、有機ELディスプレイを搭載する初のiPhoneでもあることから(ただし、初のスマートフォンではない)、有機ELディスプレイの製造に使われるエキシマレーザの主要な供給メーカーであるコヒレント社は、「かつてないほどの需要」(10)が今後生まれると、期待を高めている。OLED協会(OLED Association)も同意見で(11)、スマートフォンにおける有機ELディスプレイの普及率が2016年の20.5%から2017年には25.3%に増加すると予測している。スマートフォン用有機ELディスプレイの売上高に換算すると、2016年の約3億800万ドルから2017年には4億1000万ドルに増加することになる。
 加えて、「iPhone 8」を含む多くのスマートフォンに、3Dセンシングと測距用のVCSELが搭載されており、それがこれらのレーザの販売増加を促進する大きな要因になっている(12)。実際、VCSELはこれまで、データ通信、コンピュータのマウス、車載ライダシステムなど、スマートフォン以外の多くの用途で使われてきたが、スマートフォンは、重要な新しい機会となっている。
 「2017年は、消費者向け製品に牽引されて、VCSELが大躍進した年になったと言える。VCSELは、米アップル社(Apple)や韓国サムスン社(Samsung Electronics)をはじめとする、スマートフォンを製造するすべての企業にとって、3D画像処理システムの原動力である」と米ライトウェーブ・アドバイザーズ社(LightWave Advisors)の社長を務めるジョン・デクスハイマー氏(John Dexheimer)は述べた。実際、独フィリップス・フォトニクス社(Philipか Phoがonicか)が、2017年の終盤に2700万ドルを投じて、VCSELの生産規模を拡大するプロジェクトを完了したことは(13)、同市場の飛躍を象徴している。
 iPhone 8は、顔認証機能を搭載することでも注目を集めている。それは、モバイル深度センシング市場に好影響をもたらすと期待されている。深度センシングも、VCSELを必要とする用途の1つである。
 3Dカメラモジュールの売上高は、2022年に60億ドルに達すると予測されており(14)、レンズと照明コンポーネントは、それぞれ18億ドルと4億ドルの規模に達する可能性があると期待されている。2017年11月、iPhoneに使われるVCSELを多数供給する米ルーメンタム社(Lumentum)は(15)、3Dセンシング事業の成長に主に牽引されて、第1四半期の売上高が2億4300万ドルだったと発表した。また、アップル社の新しいiPhone Xと、(VCSELアレイプロジェクタを基盤とする)「FaceID」機能に関連して、VCSELデバイスの生産を拡大する企業が相次いでいるが、オーストリアのamか社が最近、その流れに続いて大規模な生産拡大計画を発表したと伝えられている(16)。同社はこれに先立ち、米プリンストン・オプトロニクス社(Princeton Optronics)を2017年に入って買収している(17)。

再帰的に拡大していくレーザの遍在性

素晴らしい数値の数々だが、それらは民生分野におけるレーザの氷山の一角に過ぎない。これまでにも言われてきたことだが、再度指摘しておこう。レーザはますます、私たちの日常生活のいたるところに浸透し、もはや私たちがその存在に気づくこともない域に達している。日々の通信や購入する製品(18)の設計から、自動車、自宅、医療、食料品店、ゴルフコース(19)、近くのリンゴ園(20)にいたるまでのあらゆる場所に普及しているようだが、多くの場合、私たちがその存在に気づくことはない。
 VCSELに加えて、レーザを使用する民生分野の筆頭に新たに躍り出たものの1つがライダ(21)である。ライダの市場規模は、今後5年間で2倍に拡大すると予測されている(22)。それを主に牽引するのはたった1つの新興用途、つまり自動運転車である。ライダは何年も前から、測距計、航空マッピング、物体や空間の3Dスキャン、エアロゾル速度のモニタリングに使われてきた。しかし、ライダ新興企業である米ルミナー社(Luminar)のCEOを務めるオースティン・ラッセル氏(Austin Russell)によると、自動運転車は数十億ドル規模のこの市場を、数兆億ドル規模にまで拡大する見込みで、こうした自動車用のライダセンサの市場シェアは、他のすべての用途を合わせたシェアよりも大きくなるという。
 ますます競争が激化するこの分野(23)において(米フォード社[Ford]のAI部門が米プリンストン・ライトウェーブ社[Princeton Lightwave](24)を買収し、米ゼネラル・モーターズ社[General Motors]がライダを開発する米ストローブ社[Strobe](25)を買収したことに着目してほしい)、ルミナー社は、自動運転車を特にターゲットとして同社がゼロから設計して構築した、シングルレーザ(1005nm)、シングルレシーバ(InGaAか)のライダセンサが、形勢を一変させる製品になる可能性があると信じている。同社は、米トヨタ・リサーチ・インスティテュート社(Toyota Research Institute)(26)を含む4つの自動運転車開発プログラムと提携しており、通信レーザ用にもともと開発されたファブ・インフラを活用して、同社センサの量産能力をより迅速に拡大
することを目指している。ルミナー社は2017年末に、フロリダ州オーランドにある7万平方フィートの同社施設において、1万台規模の生産を開始する計画だった。従来のライダセンサ生産と比べて、前例のない規模である。
 今後については、注目に値する新規応用分野が他に2つ存在する。量子技術と、拡張現実/仮想現実(AR/VR:Augmented Reality/Virtual Reality)である。量子分野では、2つの主要イニシアチブが2017年に発表されている。1つは、独トプティカ・フォトニクス社(Toptica Photonics)が率いる光シングルイオン時計プロジェクト「QUTEGA」(27)(原子時計を冷却するための優れた代替手段としてレーザを捉えている)である。もう1つは、英国政府が2億0000万ドルを投じて推進する(28)、量子物理学研究成果を商用製品に転換するための取り組みで、GPS通信、量子センサ、量子通信、量子コンピューティングを向上させるチップスケールの原子時計に着目するものである。
 またAR/VRは、今後数年間で巨額の投資による恩恵を受けると見られている。IDC(29)によると、AR/VRに対する支出総額は2017年の114億ドルから、2021年には2000億ドル超にまで増加する見込みだという。これは、フォトニクス結晶、オプトエレクトロニクス、回折光学素子に対して主に重要な意味合い(30)を持つものだが、そうした製品用のレーザ材料加工装置の利用を増加させ、また、視標追跡(31)やプロジェクション(32)用にAR/VRヘッドセットにさらなるレーザを搭載する動きを促進することにもなる可能性がある。ここでも、レーザによって、さらに多くのレーザに対する需要が生
み出されている。

レーザ市場別分析

本誌の年次レーザ市場分析において今回初めて、純粋な産業用レーザ(リソグラフィ用レーザを除く)の売上高が、通信と光ストレージ用レーザの売上高を上回った。通信分野は、帯域幅需要にともなって成長しており、2017年終盤には短期的に売上高が減少したが、2018年にそれが繰り返されることはないと予測されている。その他すべてのレーザ部門で売上高は増加し、特に美容医療と新しい外科施術用のレーザが好調だった。

材料加工とリソグラフィ

政治的、文化的、社会的ニュースがひっきりなしに飛び交った2017年だったが、経済的にはほぼ平穏な1年で、健全な成長がほとんど気づかれることもなく経過していった。一言で言えば、世界の主要経済国は2017年、予測を上回る成長率を達成し、2018年もこの傾向が続くと予想されている。Bloomberg Businessweek誌が今後1年間の展望をまとめた特別号(33)に記しているように、「世界経済は2018年も順調に成長するはずだ。誰かが何かバカなことをしでかさない限り」。その一言がすべてを総括しているので、以下では、産業用レーザ材料加工の世界市場だけに着目する。
 産業用レーザ業界は、売上高を力強く2ケタ成長させた高出力ファイバレーザ、ディスプレイ用チップのレーザ加工に牽引されて売上高が急増したエキシマレーザ、そして著しい増加を示した超高速パルスレーザによって、またしても成長を遂げた1年となった。この成長の裏で、18%の増加を果たした固体(ディスク)レーザに押されて、CO2レーザは売上高を減少させた(14%)。「その他」のカテゴリに含まれる高出力ダイレクトダイオード/エキシマレーザは56%増加した。エキシマレーザは、スマートフォン関連の加工に用いられたことで、短期的に大きく増加し続けている。
 産業用レーザ売上高は、自動車、航空宇宙、エネルギー、エレクトロニクス、通信の各部門で継続的な成長を示した。マーキングは、レーザ総売上高の約15%を占めた。増加したのは主にファイバレーザである。微細加工(出力500W未満のレーザを用いるすべての用途を含む)は、レーザ市場全体に占める割合を32%にまで増加させた。エキシマレーザを必要とするディスプレイ用途を含む微細加工部門は、56%もの成長を果たしたためである。マクロ加工の中では、生成される売上高という点で、切断が最も重要な用途である(66%)。切断部門は2017年に売上高を29%増加させた。2018年はそのレベルには届かないと業界では予測されている。
 微細加工部門において、付加製造(より具体的には、金属蒸着とプロトタイピング用のレーザ付加製造[LAM:Laser Additive Manufacturing])は、2017年に30%の成長を遂げた。航空エンジン
業界で採用されたことが促進剤となった。同業界では、中出力と高出力のCO2レーザとファイバレーザが使用されている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/03/ft1_marketplace.pdf