全光学式の高精度機能的オプトジェネティクス

パトリツィア・クロック、マイケル・メイ、ニック・ロビンソン

細胞レベルの解像度で機能的に定義するオプトジェネティクス(光遺伝学)は、かつては不可能なコンセプトとされていたが達成されつつある。これにより、神経操作と行動との因果関係についての深い知見が得られると期待される。

脳で起きている処理を細胞レベルで知ることは、認知の生理学的基礎の解明に寄与するだけでなく、現在では治療が困難または不可能な脳疾患を治す希望にもなり得る。脳の機能的ネットワーク構造と、その構造が認知と行動にどう関連するかを解明するには、膨大な数の神経細胞の活動を記録し、その活動を操作・精査する能力が必要である。
 英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)のマイケル・ホイザー教授(Michael Häusser)のグループの神経科学者は、画期的な実験において、前例のない光遺伝学の手法で、定義した細胞タイプの活動を観察・制御することに成功している。この研究では、光感受性プローブの重要で新しい進歩と、遺伝学的にコードされた活動センサ、新しい光学ハードウエアを利用し、神経回路活動の記録と操作を同時に行うことができる。脳を傷つけることなく、光のみを使用して単一の神経細胞と単一の活動電位の精度が得られる。
 基礎的な実験ループには、行動タスク、脳内の活動パターンのイメージング、機能的に定義された特定の神経細胞で同じパターンを再現すること、が含まれている(図 1)。研究者の成功によって、細胞レベルの解像度で機能的に定義された光遺伝学のコンセプトを、「夢の実験」から「現実の応用」に発展させ、神経細胞コミュニケーションについてさらに深い知見を得ることが可能になる。

図1

図1 全光学式セットアップでは、行動実験、脳内の活動パターンのイメージング、機能的に定義された特定の神経細胞の操作における相互作用に注目している。

深部組織のイメージングと光刺激

神経細胞活動の基礎的なメカニズムは明らかになっているが、特定の神経細胞や神経細胞グループの複雑な相互連結、これらと行動パターンとの関係はよくわかっていない。このため、研究には新しく学際的な技術が必要とされる。ホイザー教授のチームは、1000以上の単一神経細胞の活動を同時に観察し、100の標的神経細胞の活動を操作することで、その活動が行動との関係においてどの程度再現性をもつのか調べている。
 神経細胞は、細胞膜でシグナルとして起きる活動電位を通じて、お互いにコミュニケーションをとる。細胞内外におけるプラスまたはマイナスに帯電するイオンの存在量で活動を制御する。活動電位がトリガーされると、カルシウムイオン(Ca2+)が膜にあるチャネルを通って神経細胞内に流れ込む。
 ホイザー教授のチームは、2つの異なるタンパク質を導入することで、マウス脳を遺伝学的に改変した。1つはカルシウム感受性の蛍光分子であり、もう1つは光感受性のイオンチャネルである。細胞膜に導入されたイオンチャネルは、細胞内にナトリウムイオン(Na+)が流れ込むように光学的に誘発することができ、結果として神経細胞の活動電位が起きる。活動電位によって電位依存性チャネルのCa2+チャネルが開き、Ca2+が細胞内に流れ込むと蛍光が増強する。蛍光は容易に観察できるため、刺激の成功、そして神経細胞の活動を確認しやすい。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/01/bio_ft2_neuroscience.pdf