白内障レーザ治療の難題を明確にする

バーバラ・ゲフェルト

10年も満たないうちに、フェムト秒レーザ支援の白内障手術は、熱望されたものから冷静に考えるべき段階になっている。現在は需要が高まる一方で、開発者は障壁と向き合っている。

白内障手術向けのフェムト秒レーザが2010年にFDAから承認される以前から、この技術は眼科学で最も一般的になった外科手術を改善させる性能があると待望されていた。しかし近年、眼科医はその価値について議論し始めている。
 リチャード・L・リンドストロム医学博士(Richard L. Lindstrom)に私がちょうど5年前に取材したとき、彼はフェムト秒レーザ支援内視鏡手術(FLACS)の熱烈な支持者だった。その彼が所属する米ミネソタアイコンサルタント(Minnesota Eye Consultants)の9名の執刀医が、スイス・アルコン社(Alcon)のLenSx(図1)と米レンズAR社(LensAR)のLensARの両方のシステムを2年間使った後、FLACSの継続を止めたとリンドストロム博士が報告したと聞いたときには、やや驚いた。「アウトカムを評価し、顕著なベネフィットを見つけることができなかった」と彼は説明した。「もし、患者が何かに対して高額な料金を払うつもりならば、乱視や老眼を矯正する人工水晶体(IOL)のような付加価値を望むと決定した」(この手術はLASIKと同様、保険適用されないため、患者は片眼につき1500 ~ 3000ドルという高額を負担する)。
 この見解はかなり広まっている。米国白内障屈折矯正手術学会(ASCRS:American Society of Cataract and Refractive Surgery)の2016年の調査に回答した43%が、FLACSの臨床的ベネフィットに疑問を抱いた。どうあれ、リンドストロム博士と同僚は現在、「同じベネフィットをもつポテンシャルがあり、より安価で性能のよい代替」を探している。それは、米ミノシス社(Mynosys)のZeptoや、リンドストロム博士が取締役会のメンバーの一人である米イアンテック社(IanTech)のmiLoop(図2)のようなハンドヘルドの機械式ツールだ。
 だが、少し待ってほしい。手作業のツールが、高度で自動化されたシステムと同等のポテンシャルはあるのか。どういうことなのか。

図 1

図 1 アルコン社のLenSxは、世界中の白内障手術で、ほかのどのフェムト秒レーザよりも多く使用されており、2017年には100万回の手術に使われた。このシステムは白内障手術を自動化し、ガイド役として高解像度のOCTイメージングを作成する。(提供:アルコン社)

図 2

図 2 イアンテック社のmiLoopのようなハンドヘルドの機械式ツールは、FLACSシステムと同等のポテンシャルがあるのだろうか。

レーザにあってないもの

現代の白内障手術では、角膜を切開し、水晶体嚢を剥がす(嚢切開と呼ぶ)。濁った水晶体を細かく破壊するための超音波装置を挿入し、粉砕された水晶体を吸引する処理である水晶体超音波乳化吸引(短くphacoと呼ぶ)を行う。その後IOLを挿入することで、患者は生涯にわたって分厚い眼鏡に依存する必要がなくなる。
 レーザ支援がなくとも、執刀医は手術メスや他のハンドヘルドのツールを使用するが、相当のスキルと安定した手さばきが必要なのはいうまでもない。近赤外レーザシステムは前眼部を貫通し、イメージングシステムにガイドされて正確に構造の輪郭を描き、角膜を切開し、嚢切開とphacoを行う(1)。最新のシステムは完全なロボットであり、完璧な再現性が可能だ。しかし、リンドストロム博士のようなトップの執刀医が数十年の経験で積み上げてきたスキルとスピードが、最も高度なシステムですら超えるのが困難な障壁となっている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/01/bio_ft1_ophthalmology.pdf