ポリゴンビームスキャナが可能にする重要アプリケーション
レーザビームの反復的高速直線スキャニングの実現は大抵の場合、回転ポリゴンミラーが最適だ。
レーザスキャニングシステムは、2Dや3Dプリンティングから材料加工、ライダなど、用途は多い。レーザビームのスキャニングは、ほとんど常に1個以上の可動ミラーでビームを反射することで達成される。たとえば、1つのアプローチは、1個以上の振動ガルバノメータ(ガルボ)ミラーを使う。これにより1次元、2次元でビーム位置の任意の制御が可能になる。
しかし、必要とされるものが反復リニア(直線)スキャンだったら(すなわち、ステージのゆっくりした動き、あるいは垂直方向の第二ミラー、2Dラスタースキャン)、簡単にするには回転ポリコンミラーに勝るものはない。リニアスキャンに必要な、より複雑な制御系をもつ振動要素がないからである。fシータレンズはポリゴンミラーの定角速度をワーク表面で線速度一定(CLV)に変換するが、fシータレンズと組み合わせて、ポリゴンミラー(とその関連モータ)は、簡単に高精度スキャンを生み出すことができる。以下は、同技術の商用例の一端である。
静圧気体軸受回転スピンドル技術
米ケンブリッジテクノロジーリンカーンレーザ社、プロダクツ部門のエンジニアリングリーダー、グレン・シュトゥッツ氏(Glenn Stutz)は、同社が製
造する、ポリゴンミラーベースのレーザビームデリバリシステムについてのバックグラウンド、設計、製造、一般的なポリゴンミラーの用途を説明している。
「これらのミラーは、光学面を造るために、一般にシングルポイントダイヤモンド加工技術を用いてアルミニウムから造られる」と同氏は言う。「アプリケーションによっては、超高速ゆがみに対処するために、ベリリウムが使われることがある。後加工、薄膜金属、あるいは多くの場合、誘電体がミラー面にコーティングされる、これはミラー性能を特殊アプリケーション向けに調整するためである」。
スキャナ組立内部では、ポリゴンミラーの回転は、ブラシレスDC電気モータを介して行われ、ボールベアリング、または空気ベアリング回転スピンドルで支持されている、とシュトゥッツ氏は説明する。ミラースピンドルは、厳しい基準値に対して設計、製造されているので、反射レーザビーム内でひずみを最小化する滑らかな回転動作を保証する。「ブラシレスDC駆動モータは、低コギングトルクを生み出すように設計されており、ポリゴンスキャナは、数rpm(1分あたりの回転)から最大55,000rpmを超える速度の範囲で滑らかに回転する」と同氏は付け加えている。
ポリゴンスキャナは、多くの多様なアプリケーションで見つけることができる。これには、皮膚処置や網膜スキャンなどの医療アプリケーションが含まれる。他の用途は、印刷、マーキングやコーディング、計量、材料加工、アディティブマニファクチャリング(AM)技術、農業の選別、ライダなどがある。
アプリケーションの中には現在、スキャニング速度をかつてない増加率で速めているものがあり、将来世代の医療や産業用レーザ工具用途に向けたものである。「残念ながら、ボールベアリングの性能は、これら高速アプリケーションの多くでは、許容できないレベルにある」とシュトゥッツ氏は言う。「もっと小さなミラーでは、最大速度55,000rpmまでの動作で、空力軸受回転スピンドル技術を利用できるが、もっと大きなミラーの高速利用では、最近まで選択肢がなかった。これら新興の要求に対処するために静圧気体軸受回転スピンドル技術が開発され、高速化された回転速度でより大きなミラーのペイロード要件に応えられるようになった」。
静圧気体軸受(ベアリング)回転スピンドル技術は、空力ベアリングで一般に使用される回転スリーブではなく、回転シャフトを組み込んでいる。この静圧気体固定スリーブデザインは、支持を最適化するためにベアリング面に沿って配置された2つの空気ジェット列を持つ、また動作中のベアリング圧力損失の場合の損失を緩和するために空気力学的特徴も備えている。最高の回転速度を実現するために、スキャナの光学チャンバは、静圧気体ベアリング空気圧源を利用したエダクタ真空発生システムで囲まれ、部分的に減圧されている(図1)。
「この静圧気体軸受設計は、ミラー最大質量500gで最大速度4万rpmでの試験に成功し、双方向、いずれの方向でも動作可能である」とシュトゥッツ氏は話している。
材料加工用ポリゴンスキャナ
ガルボミラーはビームを方向付けるために材料加工で広く用いられているが、米プレシジョンレーザスキャニング社長、ジョージ・ヘルサー氏(George Helser)の認識によると、材料加工アプリケーションの一部で用いられるレーザは非常に強力であり、パルスレートが極めて高いので、従来のガルボスキャナにはレーザの潜在力を十分に利用できるほどの高速性がない。
「ポリゴンミラーの本来の大量販売市場は、1970年代のレーザプリンターだった」。同氏が言うには、「ポリゴンスキャナはラスタースキャンの高速X軸成分であるが、レーザプリンターの要件は、材料加工向けとはかなり違っている。材料加工用の当社のポリゴンスキャナは、大きなスポットが、ターゲットの小さな点に強く集束するように大開口をもっている」。
強力なモータが大開口ポリゴンミラーを1万rpmで回転させる、これは直線速度で秒速数100mに相当する(注:同社は、最大7万rpmで動作する小さな低雑音ポリゴンスキャナも造っている)。「ポリゴンスキャナは、大面積除去によるパターニング、表面処理、クリーニング、塗装剥離などの高ピクセル密度アプリケーションでは最も効率的である。大開口と高rpmという特徴は、検査やライダなどの非材料加工アプリケーションでも必要とされている」と同氏は説明している。
材料加工用で同社の最も人気のあるポリゴンスキャナ、イーグルアイ(Eagle Eye)は、21mmアパチャ(開口)である。ほぼすべてのアプリケーションに十分な大きさのファセットである、とヘルサー氏は主張している(図2)。コントローラは、従来の台形駆動ではなく、サイン波駆動を使用する。「サイン波駆動は、EMI(電磁干渉)が少ないが、もっと重要な点は、非常に広い速度範囲で極めて滑らかに回転することである」と同氏は説明している。「10:1速度範囲が標準であるが、20:1も選択できる。ほとんどの内蔵アプリケーションでポリゴンスキャナは、動作速度は1つ、TTL(トランジスタ-トランジスタ・ロジック)インタフェースで動作する。材料加工では、動作速度は工程によって決まる。ある材料は比較的低いスキャン速度を必要とするが、高速スキャンを必要とするものもある。イーグルアイの先進的コントローラは、USBとRS-232インタフェースを持っているので、ハイレベルシステムは、ポリゴンを容易に制御できる」。
ガルバノメータスキャナは、ヘルサー氏の指摘では、絶対エンコーダを使って精度を出すが、ポリゴンスキャナは、スキャン開始検出器(SOS)を使って精度を出す。レーザプリンターのSOS検出システムはポリゴンスキャンヘッドではうまく機能しない、これは明るい作動ビームからの干渉のためである。プレシジョンレーザスキャナは、材料加工システムにおけるSOS検出の問題を解決するSOSキットを開発した。それは、集束不要の小さな、低出力赤色レーザと、コンパクトなSOSディテクタボードを組み合わせている。SOSディテクタボードは、迷光を阻止するライトチューブバッフルと、SOSビームだけを透過するオプションのフィルタを含む。ポリゴンスキャンヘッドは、ハイパワーレーザで運用する際には暖まりやすいので、SOSボードのディテクタは、加熱によるドリフトを除去するバイセルディテクタとなっている。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/11/P34_Laser_Scanning.pdf