フローサイトメトリーを拡張する新しい320nm紫外線レーザ源

ウィリアム・テルフォード、リン・ストリックランド、マルコ・コショレック

320nmレーザは高次元フローサイトメトリーをより簡便に、より安価にする。

フローサイトメトリーは、生物医学科学における基礎技術である。細胞に結合する蛍光タグ分子がレーザによって励起し、光電子倍増管(PMT)や他の光センシング技術を用いて検出する(図1)。細胞は、流体力学的に集められた液体ストリーム内で、レーザビームによって誘導される。
 いくつかのフローサイトメータは、細胞表面もしくは内部に結合する蛍光タグのみ解析する。蛍光活性化細胞選別(FACS)では、液体ストリームは水滴と
なり、水滴が静電的に帯電し、収集管に集められる。蛍光タグに基づく細胞の分離と回収が細胞選別によって可能となり、回収された細胞は機能研究やタンパク質・ゲノム解析に利用できる。
 フローサイトメトリーは、免疫系、がん細胞学、感染症の理解を広めるうえで決定的なツールとなっている。この技術において、細胞を標識するために使われる蛍光プローブは、複雑な混合物の中から個々の細胞の種類、さらに一細胞の物理的・生理学的特徴を同定できる。

図 1

図 1 基本的なフローサイトメトリーのオシレーションの概要を描いた。細胞は、ノズルまたは内にあるクォーツのフローセルによって流体力学的に集められる。そして、液体ストリーム内でレーザビームによって誘導される。シグナル収集光学は励起した蛍光シグナルを集め、シグナルはダイクロイックミラーと狭帯域フィルタを用いてPMTに進む。近年の装置では、レーザ伝送やシグナル収集にファイバ光学を利用できる。

フローサイトメトリー向けレーザの背景

フローサイトメトリーは、蛍光タグを励起するレーザ技術に完全に依存する(1)。初期のフローサイトメータは単一のレーザ(当時は巨大な水冷式イオンレーザ)が使われ、フルオレセインやローダミンなどのよくある蛍光色素を含む、せいぜい1種類か2種類の蛍光プローブを励起できた。最近のフローサイトメータは今や、紫外線(355nm付近)から赤の長波(700nm付近)まで、全可視スペクトルに広がる波長の固体レーザを使う。
 高度なサイトメータには、10種類もの異なる単一波長レーザを搭載でき、異なる励起と発光特性をもつ大量の蛍光プローブを励起できる。初期の装置は、1種類か2種類のプローブを励起、検出するしかできなかったが、現在の高度な装置では30種類以上の蛍光プローブを同時に検出できる。この高次元分析によって、免疫系に関する知見がかつてないレベルに広がっている。
 近年のフローサイトメータは、多くのレーザ波長と、それらに対応する蛍光プローブを用いて、20種類以上の細胞特性を同時に分析する。高度な装置は、シアンレーザ(488nm)、赤色レーザダイオード(640nm付近)、緑色、黄緑、黄色のダイオード励起固体(DPSS)レーザ(532nm、552nm、561nm)の使用が普通になるだろう。これらのレーザはすべて、多様な蛍光色素を励起する(図2)。
 紫色レーザダイオードは、BDシリゲン社(BD Sirigen)のBrilliant Violet(BV)ポリマー色素の発展とともに重要な励起源である(2)。7種類のBV色素(BV421、BV480、BV510、BV570、BV605、BV650、BV787)はスペクトル的に混合可能であり、同時に分析できる細胞マーカー数を劇的に増やした。紫外(UV)レーザは、近年開発された6種類のBri lli ant Ultra violet色素(BUV395、BUV496、BUV563、BUV661、BUV737、BUV805)を用いるフローサイトメトリーにおいて新たな重要性をもたらしており、同時に蛍光分析する合計数は30種類近くになった。UVレーザは現在、高度なフローサイトメトリー装置で重要なコンポーネントである。

図 2

図 2 フローサイトメトリーで用いられる蛍光プローブは、励起に必要なレーザ波長とペアになる。これらのプローブのほとんどはスペクトル的に混合可能で、レーザ波長を十分に配置した装置では同時に使用できる。Brilliant Blue(BB)、Brilliant Yellow Green(BYG)、Brilliant Violet(BV)、Brilliant Ultraviolet(BUV)色素はBDシリゲン社の商標、Pacific Blue、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 790はサーモフィッシャー社(Thermo Fisher)の商標である。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/11/P30_Lasers_for_the_Biosciences.pdf