気候変動の実態を明らかにする大規模フローサイトメトリ

ジャレッド・E・スウォルウェル

海洋学における技術アプリケーションを劇的に広げるために、フローサイトメトリへの新たなアプローチでは光学が利用される。それにより、環境動態における真相解明が期待されている。

今後50年の地球がどうなるか、さまざまなモデルで異なる気候シナリオが予測されているという事実がある。その大きな理由として、環境を通して炭素がどのように移動するのかという理解が不十分であることが挙げられる。特に、海洋への炭素溶解量のメカニズムが大きな疑問である。これが解明できれば、気温や二酸化炭素(CO2)の変化に対して生命がどう反応するかを明らかにできると期待されている。
 生態系を理解するには、食物連鎖の基礎にある生物であり、エネルギーをバイオマスに変換する独立栄養生物の理解が欠かせない。外洋では、植物プランクトンがこの役目を果たす。優占種は、最小の植物プランクトンであるプロクロロコッカス属である。直径は0.5〜0.7μmで、水深約200mに多く存在しており、地球上で最も多い光合成生物だ(1)。しかしながら、その分布と濃度の情報を入手することは困難である。なぜなら、世界の海の表面積は3億km2を超えるからだ。
 そのような広大なエリアに生息するサブマイクロメートル規模の生物の個体数を信頼性高く推定するには、どのような計測方法があるのだろうか。その答えは、連続的なサンプリングだ。米ワシントン大(University of Washing ton)の研究者は、革新的な光学デザインを特徴とする、プランクトンを連続的にモニタリングできる装置SeaFlowをデザインした。これは、生物の地球的分布だけでなく、地球規模や地域規模の環境変化への反応も理解するための手がかりである。

スピードに向けた光学イノベーション

フローサイトメトリは、細胞計数と特性評価の技術である。一般的なフローサイトメータは、外側にあるシース液の流体力学的絞り込みによって、液体のサンプル中の細胞を細いストリームとして導く。単波長のレーザを解析部分に照射し、サイトメータは散乱光(通常は前方散乱と側方散乱)を収集する。
 フローサイトメータは、蛍光を検出するためにさまざまなスペクトルチャネルも搭載できる。ストリームは、サンプル中の各細胞をユニークに同定するために必要である。光電子倍増管は、個々の細胞における散乱光と特定の蛍光放射のスペクトル領域を計測する。そのスピードは、1秒あたり細胞数千個だ。光散乱はおおよそ細胞サイズに比例し、蛍光は色素や染色の発光スペクトルを反映する。
 過去30年間でフローサイトメトリは、海洋学において不可欠なツールとなっている。その理由は、個々のプランクトンの細胞の数、サイズ、蛍光特性を計測する際のスピードと感度だ(2)。この技術によって理論的には、全プランクトン群の密度を推定できるだけでなく、さまざまなプランクトンの種類を区別もできると、われわれは認識した。
 自動化フローサイトメータの現世代にはCytoBuoy(3)やFlowCytobot(4)などがあるが、主に沿岸水域の係留で使われており、航海中の船上で使用される例は少ない( 5)( 6)。しかし、従来のフローサイトメトリは、サンプル流におけるシース流の圧力によって定義されるサンプリング領域に、一度にわずか1個の細胞を流すことができる各機器の独自性を保証する。
 海洋学のアプリケーション向けにデザインされた装置には、サンプルの準備にも時間がかかる。海の広大なエリアのサンプリングでは、準備の時間はサンプル間の距離を意味する。そのため、スタンダードなアプローチでは、連続的なサンプリングで要求される条件に合わなかった。

光学的に特徴付けるサンプルの体積

SeaFlowの決定的な特徴は、われわれが開発し、Virtual Coreサイトメトリとして知られている光学システムである(7)。これにより、他のフローサイトメータの一般的な特徴であるシース流が不要になる。その代わり、事前に海水を100μmでフィルタし、直径200μmのストリームで動作する。こうして、連続的な計測方法が可能となっている。
 Virtual Coreサイトメトリでは検出器を3つ利用して、ストリームの中にある粒子の位置を特定する。2つの位置検出器が粒子の左右方向の位置を決定し、焦点面に対する縦方向位置は前方散乱光のシグナルと合わせてこれらの検出器に基づいて計測する。検出領域は、粒子を測定できるストリームの断面であり、200μmの広いストリームの一部を分析する。対物の大きさと視野絞りの幅によって定義される光学システムの視野によって、ボリュームセットを決定する。
 従来のフローサイトメータの検出領域は、サンプルボリュームの物理的な大きさによって決まるため、シース流に影響される。SeaFlowでは、検出ボリュームは光学、特に位置感度検出器と前方散乱検出器からのシグナルを比較することによって決定される(図 1)。最適配置された粒子(OPP)とは、測定ボリュームが決定されたものだが、これは各位置感度検出器からのシグナルと同一である。

図1

図1 SeaFlowの散乱光検出器は光学的にサンプルボリュームが決定される。この特徴によって連続的なデータ収集が可能になる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/09/bio01.pdf