アプリケーションの将来性の限界に挑むフローサイトメトリ

ジャコモ・ヴァッカ

フローサイトメータは、すでに病院やライフサイエンスの研究室に普及しており、生物学の構成要素についての知見をこれまでになく明らかにしている。そして、より低コストで性能高く、多くのことを行えるよう、絶え間なく推し進められている。

フローサイトメトリは、サンプル内の膨大な数の細胞を1細胞ごとにパラメータのセットで計測できる。ほとんどの機器において、多くの場合、蛍光分子で標識した細胞の液体懸濁液を細いストリームに流し込むことで1列になり、1秒あたり数千個の割合の細胞が1つ以上の検査レーザビームを通る(図1)。その結果生じる散乱光と蛍光によって、サンプル内の細胞を計数、特徴付けができる。
 フローサイトメータのもう1つの機能はセルソータである。散乱光と蛍光のパラメータを利用して細胞集団が同定されると、流れるストリームが粒子状となって噴出される。このとき、1つの粒子に1つの細胞が含まれている。粒子は、含まれている細胞の種類に応じて帯電される。帯電された粒子を静電気のプレートが穏やかに誘導し、採取チューブに回収したり廃棄したりする。ソートされた細胞は次の実験に利用できる。

図1

図1 この合成顕微鏡イメージでは、側面(散乱光により垂直方向のチャネル壁が見えている)からフローセルチャネルに照射されている488nmのレーザビーム(中段)と640nmのレーザビーム(上段)を示す。流れている3μmの蛍光ビーズのサンプルが 488nmのビームに照射される(中央の明るい楕円)。フローセルの背後に、蛍光の回収路(挿絵の同心円)がLED照明下に配置されている。

アプリケーションの歴史

フローサイトメータは、1980年代に世界がHIV/AIDSと戦い始めたときに、最初に生体臨床医学に最も貢献したものの1つである。感染が悪化するにつれて、ウイルスによって発症したか、そしてどのようにして発症するのか、それらの評価を支援する診断ツールが必要とされた。
 HIVウイルスは、白血球の一部であるヘルパー T細胞を攻撃する。ヘルパーT細胞の表面には、CD4という抗原(タンパク質)が発現している。ヘルパー T細胞は、感染への抵抗に重要な要素であるが、HIVウイルスはこのヘルパーT細胞を殺す。
 フローサイトメトリでは、細胞表面に存在する抗原に基づいて細胞を選別できる。これは、蛍光分子と連結する抗体(目的の抗原と結合するもの)である生化学的な標識を導入することで可能となる。抗体は、目的の抗原のみに結合できるものを選ぶ。抗体が運ぶ蛍光タグは、レーザビームで検査するときに発光する。
 抗原特異的CD4の標識抗体を用いると、フローサイトメトリでCD4陽性を精度高く検出、識別、計数できる。CD4陽性の細胞が少なくなるほど、AIDSが進行していることを意味する。数十年間、 フローサイトメトリはAIDSの診断や治療モニタリングでゴールドスタンダードだった。
 医療診断の分野においても、フローベースの技術は血液学の中心である。血液分析器は、赤血球(RBC)濃度、白血球(WBC)濃度、血小板などを含む全血球計算(CBC)を、1サンプルあたり1分以内で算出できる。
 さまざまな角度、主に血液分析器から向かって前方と90度で、個々の細胞からの散乱パターンの差異を分析することで、細胞のサイズ(血小板は2 ~ 4μm、RBCは5 ~ 7μm、WBCは7 ~ 15μm)、核の有無(血小板とRBCには核がなく、WBCにはある)、核の形状(丸か突出があるか)を計測できる。この情報は、細胞の分類や計数に利用される。毎年1億回もの試験が行われ、CBCは世界で最も普及しているオーダー診断試験である。

ハードウエアの進化

近年まで、従来のフロー機器はコスト、サイズ、複雑性の理由から、中心施設に独占的に配置されているか、部署や施設のユーザー間で共有されるかがほとんどだった。たとえば、米BDバイオサイエンス社(BD Biosciences)のLSRIIシステムは、液体を扱うカードを含めないで重さが525ポンド(約238kg)、ベンチスペースとして15平方フィート(約4.6m2)が必要だ。
 ほとんどの商業用ユニットは10万~50万ドルで販売されており、これにはメンテナンスや運用コストは含まれていない。そして通常は、ユーザーの代わりに高度なトレーニングを受けた専門家がサンプルを流すときに必要だ。これらの理由のために、一般の研究者が実施できる研究の数や種類に限りがある。
 過去10年間で、フローサイトメータはより小さくポータブルで、精度高く、安価で使いやすくなりながらも、科学的に要求される性能を維持するか、ときに超えている。この傾向は、後にBDバイオサイエンス社が買収した米アクリサイトメータ社(Accuri Cytometers)が2個のレーザ、6個の検出器をもつC6を発表した2008年に始まった。この機器は再アライメントを必要としない。さらに近年、米ベックマン・コールター社(Beckman Coulter)が2014年に買収した中サイトジェン社(Xitogen)は、コンパクトで3個のレーザ、15パラメータをもつCytoFLEXを生産した(1)。これは、蛍光感受性という意味ではこのクラスで最高とされている。2014年には、スタートアップの米ACEAバイオサイエンス社(ACEA Biosciences)がNovoCyteを発表した。これは、時分割多重化を用いて複数の蛍光チャネル間を個々の検出器で共有するコンパクトな分析器である。
 セルソータについても、従来は大きく複雑で操作しにくかったが、より小さいサイズで簡便なものが現れている。これは、治療用幹細胞の回収といった新規臨床アプリケーション向けだ。米バイオ・ラッド社(Bio-Rad)のS3eは、全システム(2個のレーザ、4個の蛍光チャネルソータ)が幅・奥行き・高さ2.5フィート(約76cm)に収められており、バイオセーフティなキャビネットに格納できる。
 市場を切り拓き始めているのは、日本のオンチップ・バイオテクノロジーズのFISHMAN-Rや独ミルテニーバイオテク社(Miltenyi Biotec)のTytoのような、よりコンパクトなマイクロ流体チップベースのセルソータだ。以前は分厚く、電力を大量消費するガスレーザが搭載されていたが、フローサイトメータの小型化が進んでいる。現在は、多くの固体レーザがシャツのポケットに収まりよく入るほどになったことで、システム設計者は過去の制約から解放され、非常に小さな設置面積の中に多くの部品を収めることができる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/09/feature06.pdf