EUフラッグシップ集合体の支援でグラフェンフォトディテクタが進歩

ソフィア・ロイド

グラフェンの広帯域光学応答と優れた電気伝導特性により、高感度、広いスペクル範囲、高速ダイナミクスのフォトディテクタが実現する、これは10年以内にオンチップディテクタプラットフォームの商用化につながる重要な進歩である。

グラフェンは、炭素の安定した同素体であり、その中では炭素原子が単原子厚の六方格子で整列している。グラフェンの基礎物理学についての画期的な実験は、2010年アンドレ・ガイムとコンスタンチン・ノボセロフのノーベル賞となった。際立つ電気的、光学的、熱的、機械的特性で、グラフェンは、フレキシブルエレクトロニクス、高周波エレクトロニクス、エネルギー生成と蓄積、複合材料、オプトエレクトロニクスデバイスを含むアプリケーションで有望視されている。
 2013年、欧州連合(EU)はFuture and Emerging Technology Graphene Flagshipを立ち上げた。重構造の遷移金属二カルコゲン化物とsilicene(Siの2D同素体)などの新材料を含む、グラフェンおよび関連材料(GRM)に基づいた新技術の研究加速が目的である。ヨーロッパ23カ国から150を超える産業と学術パートナーが、この10年、11億3000万ドルプロジェクトに参加し、実験室の研究をGRMに基づいた商用化可能な技術に変えることを目標にしている。
 グラフェンは、オプトエレクトロニクスアプリケーションには特に魅力的である。これには、通信コンポーネント、テラヘルツアンテナとディテクタ、レーザ、プラズモンセンサ、フォトディテクタなどが含まれる。グラフェンのギャップレス電子構造は、非常に広帯域の光吸収に行きつき、またその高いキャリア移動度により超高速応答時間が可能になる。グラフェンのコンパクトな性質、高い室温移動度、シリコンとの親和性は、こうした機能がオンチッププラットフォームに集積可能であることを意味する。つまり、大きなオプティクスや冷却システムが不要になる。
 単原子厚にもかかわらず、グラフェンは、入射光の2.3%を吸収する。グラフェンベースのデバイスには、いくつかの異なる光検出メカニズムがある、光起電電流生成、ボロメータのコンダクタンス変化、光熱電(PTE)効果、外部光吸収体を使うフォトゲーティング、プラズマ波アシストディテクションが含まれる(1)。多様な商用アプリケーションを提案するために、Graphene Flagshipは、多様な周波数範囲にわたりグラフェンベースフォトディテクタでこれらのメカニズムを開発している。

赤外イメージングと分光測定

グラフェンを伝導チャネルや別の増感層として利用することは、高速、広帯域イメージングセンサへの有望な道である。増感層の光応答は調整可能であり、一方でグラフェンの優れた電気特性がディテクタの全般的な応答度を強める。
 特定のターゲットは可視から短波長赤外(SWIR)域のハイパースペクトルイメージングである。これは、セキュリティ、暗視、マシンビジョンアプリケーションにとって重要である。超高応答ハイパースペクトルディテクタは、高いスペクトル分解能の分光計測でも可能性がある。
 グラフェン製造会社であるスペインのグラフェニア社(Graphenea)と協働して、同じくスペインのICFOは、読み出しICを持つ(ROIC;図1)CMOSチップに完全垂直統合したグラフェン−量子ドットフォトディテクタを実証した(2)。388×288ピクセルカメラが、300 ~ 2000nmのUV-可 視-SWIR範囲で動作する最初の製品である。
 フォトゲーティング効果に基づいて、フォトディテクタアレイは107の高利得、108A/W応答速度であり、たとえば硫化鉛(PbS)コロイド量子ドットベースのイメージセンサの0.5A/Wよりも著しく高い。参照ピクセルは、>80dBのダイナミックレンジ、<1msの応答時間を示しており、フレームレート1000を超えるフレーム/秒 (frames/s)に適している。しかし、カメラの性能は、既成のROICに制限された。
 フィンランドのエムベリオン社 (Emberion)はNokiaからスピンアウトした研究&開発会社で、さまざまな CMOS集積フォトディテクタを開発している。これらは、グラフェントランスデューサと光アクティブ結晶ナノ材 料をベースにして、可視-SWIRスペク トルで動作する。これらのアプリケーション特有のディテクタアレイは特注ROICを集積しており、これらグラフェンベースディテクタのフル機能を利 用することができる。
 可視-SWIR領域を超えて、グラフェンベースのディテクタは、中赤外領域でもイメージングと分光測定を改善する。英ケンブリッジ大とエムベリオン社は、高感度中赤外ディテクタを実証 した。これは、15cm離れて人の手の 存在を検出することができる(3)。そのディテクタは、光吸収で加熱される焦電性基板上のグラフェンチャネルで構成されている。フローティングゲート電極は、焦電場をグラフェンチャネルに集中させ、放射原理による検出を可能にしている。
 ピクセルサイズと形状により感度とスペクトル応答を調整することで、20× 20μm2までの小型ディテクタは、高空 間分解能赤外線イメージングに適しており、より大きなディテクタの高感度は、高いスペクトル分解能の中赤外お よび遠赤外で分光測定の可能性を開く。室温動作であるので、その高感度分光計は、危険物質やガス検出アプリケーションで役立つ。

図1

図1 モノリシック集積グラフェン-量子ドットフォトディテクタでは、アレイは、可視-SWIR範囲で高分解能カメラとして機能し、ハイパースペクトルイメージングを可能にする(ICFO/D. Bartolome)。

テラヘルツイメージング

周波数範囲0.1から10THzは、セキュリティスクリーニング、非破壊試験、欠陥分析、化学センシング、生体医用イメージングでますます重要になっている。これらのアプリケーションが、可搬、室温動作が可能な、高速で高感度のテラヘルツコンポーネントの必要性を推進している。
 DyakonovとShurは、2D電子ガス電界効果トランジスタ(FET)を伝搬するプラズマ波をベースにしたテラヘルツ照射の検出メカニズムを提案した。グラフェンFETは、それ以来、伊CNRとケンブリッジ大が、共鳴フォトディテクタと広帯域テラヘルツフォトディテクタの両方に適していることを実証した(4)。
 一般的なプラズマ波アシストグラフェンフォトディテクタでは、グラフェンFETのソースとゲート電極がアンテナのローブに接続されており、テラヘルツ信号をFETのサブ波長エリアに導き、グラフェンにプラズマ波を生成する。共鳴ディテクションは、プラズマ波がFETチャネルを通過する際に起こる。運動緩和時間よりも短い時間で通過するとき、ソース−ドレイン光起電力を生成し、一方で過減衰しプラズマ波が広帯域ディテクションを可能にする。
 CNR、伊IIT、およびケンブリッジ大は二重層グラフェンFETテラヘルツディテクタを実証した。これは、高応答性1.2V/Wまたは1.3mA/W、低雑音であり、商用テラヘルツディテクタに対して競争力がある(5)。さらに、CNRと 伊Fonda zione Bruno Kesslerがシリコンカーバイド上にエピタキシャル成長させたグラフェンベースのテラヘルツディテクタは、イメージング向け集積ディテクタと大面積ディテクタアレイの大規模製造が有望視されている。しかし商業的に競争力を持たせるには、応答性とノイズ性能を高めるためにさらなる研究が必要とされている(6)。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/09/feature04.pdf