高出力シングルモードファイバレーザの進歩

トーマス・シュライバー、アンドレアス・タナーマン、アンドレアス・ソス

高出力ファイバレーザの課題を特定し、それを基に光ファイバを最適化することにより、4.3kWのシングルモード出力を達成した。さらなる高出力化と、新しい超高速レーザへの応用が進められている。

レーザ技術に明らかなトレンドが1つあるとすれば、それはファイバレーザの台頭である。ファイバレーザは、高出力CO2レーザだけでなく、高出力切断や溶接の分野においてバルク固体レーザからも市場シェアを奪っている。主要なファイバレーザメーカーは現在、さらに多くの市場を制覇するべく、多数の新しい応用分野をターゲットに開発を進めている。
 このような高出力レーザの中でも、シングルモードのシステムは、輝度が最も高く、数ミクロンにまで集光可能で強度が最も高いという望ましい機能を備える。また、焦点深度が最も深いことから、リモート加工に適している。しかし、製造が難しく、10kWのシングルモード出力を備えるシステムを提供するのは、市場をリードする米IPGフォトニクス社(IPG Photonics)のみである。残念ながら、そのビーム特性に関する詳しい情報は公開されておらず、特にシングルモードビームとともに存在する可能性のあるマルチモード成分については不明である。
 ドイツ政府の助成金を得て、独トルンプ社(TRUMPF)、独アクティブ・ファイバ・システムズ社(Active FiberSystems)、独イエナオプティック社(Jenoptik)、独ライプニッツフォトニック技術研究所(Leibniz Institute ofPhotonic Technology)の協力の下、独フリードリヒ・シラー大(Friedrich Schiller University)と独フラウンホーファー応用オプティクス&精密工学(Fraunhofer Institute for Applied Optics and Precision Engineering)の科学者チームは、このようなレーザを高出力化するための課題を分析した上で、その制約を克服する新しいファイバを開発した。同チームは、一連のテストを実施し、4.3kWのシングルモード出力を示すことに成功した。このファイバレーザ出力は、入力ポンプパワーのみによって制約される。

シングルモードファイバレーザの高出力化を阻む要因

このようなシングルモード高出力ファイバレーザの課題は、次の3つの分野に分類することができる。つまり、a)ポンピングの改善、b)光損失が低く、シングルモードのみで動作するアクティブファイバの設計、c)得られた放射の正確な測定である。本稿では、a)の課題は、高輝度半導体レーザと適切な内部結合手法によって解決済みと想定し、残り2つの課題に着目する。
 高出力シングルモードで動作するアクティブファイバを設計するには、ドーピングとサイズという2つの一般的なパラメータを最適化する必要がある。損失を最小限に抑えること、シングルモードで動作すること、そして最終的に高出力増幅を達成することを目的に、すべてのパラメータを決定しなければならない。完璧なファイバ増幅器は、90%を超える高い変換効率と完璧なビーム品質を備え、出力パワーは使用可能なポンプパワーによってのみ制約される。
 しかし、シングルモードシステムの出力を上げると、アクティブコア内部のパワー密度が高くなり、熱負荷が増加し、誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)や誘導ブリルアン散乱(SBS:Stimulated Brillouin Scatter ing)といった多数の非線形光学効果が生じる恐れがある。
 最も顕著なのは、イッテルビウムドープのシリカファイバにおいて一般的な効果で、ファイバ材料の純度が現在ほど高くなかったファイバレーザの初期の時代からよく知られている、光黒化効果である。レーザと材料の相互作用にともなって欠陥中心や色中心が材料に形成されるものである。これは寄生的な効果で、ポンプ光子が熱に変換され、その結果として増幅が低下し、熱負荷が増加する。
 アクティブコアのサイズに応じて、複数の横モードが励起および増幅される可能性がある。コアとクラッドの屈折率差を一定とすると、アクティブコアの断面が小さいほどそのようなモードの数は少なくなる。しかし、直径が小さくなるとパワー密度が高くなる。ファイバを曲げるなどのいくつかの対策は、高次モードになると損失が大きくなる。
 さらに、コア径が大きく熱負荷が存在する場合は、その他のモードも生じ得る。これらのモードは増幅時の作用に影響されやすく、最適な伝搬条件下になければ、出力プロファイルは空間的または時間的に不安定になる可能性がある。

横モードの不安定性

イッテルビウム(Yb)ドープファイバは、高出力シングルモードファイバレーザの標準的な伝送媒体である。しかし、一定のしきい値を超えると、横モード不安定性(TMI:Transverse Mode Instability)というまったく新しい効果が生じる。特定の出力レベルでは、高次モード、さらにはクラッドモードが突然出現し、エネルギーがこれらのモード間で動的に移動して、ビーム品質が低下する。出力ではビーム変動が生じ始める。
 TMIはその発見以来、ステップインデックスファイバからフォトニック結晶ファイバにいたるまでのさまざまなファイバ設計で観測されている。そのしきい値はサイズとドーピングによってのみ左右されるが、大まかには、出力パワーが1kWを超えるとこの効果が現れると推定される。その一方でこの効果は、ファイバ内の熱効果と結合し、光黒化効果と強い関連性があることが明らかになっている。また、ファイバレーザがTMIの影響をどれだけ受けやすいかは、コアのモード成分によって左右されるようである。
 ステップインデックスファイバのサイズに着目すると、多数のパラメータが最適化対象として挙げられる。コア径、ポンプクラッドのサイズ、コアとポンプクラッドの屈折率差のすべてがチューニング可能である。このチューニングは、ドーパント濃度に依存する。つまり、Ybのイオン濃度によって、アクティブファイバにおけるポンプ放射の吸収長が制御できる。他のドーパントを添加することにより、熱効果を抑制し、屈折率差を制御することができる。
 しかしここに、相反する要件がある。非線形効果を抑制するには、ファイバを短くしなければならないが、熱負荷を低減するには、ファイバを長くしなければならない。光黒化効果はドーパント濃度の二乗に比例するため、ファイバを長くしてドーピングを低くすることも望ましい。
 これらのパラメータに対する最初の提案値は、シミュレーションで決定することができる。熱動作などの一部のパラメータは、シミュレーション可能だが予測は難しい。特に、光黒化効果が意図的に低く抑えられており、加速試験では測定できないためである。そのため、ファイバ内で熱動作を直接測定することが、実験を計画する上で有効である可能性がある。図1は、標準的なアクティブファイバについて、ファイバ増幅器内の温度分布同時測定結果から抽出した熱負荷測定値と、熱負荷シミュレーション結果を示したものである。長期的な温度プロファイルを正確に予測するために、追加損失はわずか2dB/kmで、損失は非常に低いと仮定した。
 ファイバ設計におけるもう1つの重要なパラメータに、カットオフ波長がある。これは、アクティブコア内に複数のモードが存在し得る最長の波長である。この波長以上の高次モードはサポートされない。
 ファイバそのものの特性のほかに、ファイバの曲げ特性や、シードビームの時間およびスペクトル特性など、増幅プロセスと損失メカニズムに影響を与える複数の手段が存在する。

図 1

図 1 アクティブファイバの熱負荷測定結果を、追加損失ありとなしの場合のシミュレーション結果と比較した様子。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/09/feature02.pdf