分光法をスマートフォンに取り入れるためのフィルタアレイ技術

スティーブ・サックス

バイナリマルチスペクトル(BMS:binary multispectral)製造技術によって、マルチスペクトルのバンドパスフィルタアレイの量産が可能となる。

宇宙に存在するあらゆる材料に、それ独自の光スペクトル特性がある。材料に既知の光を当てて反射を調べることによって、それを観測することができる。反射光のスペクトルには、その材料組成に関する情報が含まれている。色はそのような情報の1つの側面だが、人間が視覚できるのは、およそ400〜700nmの範囲の波長(紫から赤)だけに限定される。
 一連の色を含むこの範囲に隣接するのが短波近赤外領域(SW-NIR:shortwave near-infrared)で、およそ700〜1100nmの範囲にわたる。SW-NIRは、身の回りの材料組成に関する情報の宝庫である。
 偶然にも、安価でどこにでもあるシリコン光検出器はSW-NIRの光に対する感度が高く、身の回りの世界に関する目に見えない情報を一般消費者に提供できる可能性を秘めている。最大の課題はコストとサイズだが、技術の進歩によってそのような問題がまもなく解決され、不可視で重要な情報がスマートフォンに提供されるようになると思われる。
 分子分光法とは、分子振動に対する光の作用を研究するものである。一般的な材料の多くは、電磁スペクトルの約3〜50μmの波長範囲のIR(赤外)領域に分子振動の基本周波数がある。最も簡単な方法としては、既知の光源で材料に光を照射し、反射光または透過光のスペクトル成分を分析し、測定したスペクトルを既知の材料のデータベースと比較して、そこから組成を予測する。
 IR領域で直接測定を行えば、最も正確で詳細な結果が得られるが、波長が短くなると基本周波数の倍音または高調波が観測される。およそ900〜1700nmの範囲を対象とする近赤外分光法(NIRS:near-infrared spectro scopy)は、かなり以前に学術的に確立され、産業界に導入された手法である。ベンチトップ型の計測器に基づくNIRSはこれまでに、農業、食品や飼料の加工、製薬、石油やガスの生産、材料加工といった多岐にわたる分野で活用されてきた。
 シリコン検出器に基づく分光法はそれよりも新しい手法だが、民生製品の非常に厳しいコストとサイズの要件に比類なく合致する。シリコン光検出器やイメージセンサはこの10年間で、目覚ましい技術革新の恩恵を享受してきた。デジタルカメラ技術のこの10年間の進歩を見るだけで、スマートフォンのカメラにほぼプロ並みの画質をもたらしたこの偉大な技術革新を十分に理解することができる。
 技術革新の多くは画像処理とソフトウエアにおけるものだが、シリコンイメージセンサも目覚ましい進歩を遂げ、スペクトル検出に理想的なレベルにまで進化した。具体的には、裏面照射型イメージセンサ(BSI:backside illuminated imager)の登場によって、前面照射型イメージセンサでは一般的に25%だった有効集光面積が100%に増加した。最先端のイメージセンサメーカーからは現在、特殊用途向けのハイブリッドCCD-CMOSイメージセンサが提供されている。CCDの集光効率と電荷を保存する性質を、CMOSのオンチップ処理能力とともに利用するものである。このハイブリッドアーキテクチュアによってCCD集光の深度も深くなり、NIR感度が高まって、可視域外の分光法にさらに適したイメージセンサが構成される。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/09/feature01.pdf