超高速レーザがさらに掘り下げる神経科学

ジュリアン・クライン

赤外線におけるレーザパフォーマンスが大きく向上しており、次世代型の高ピークパワー超高速レーザが研究イノベーションの新たな波を巻き起こしている。遺伝的にコードされるカルシウムインジケータの継続的な開発と合わせ、2光子または3光子顕微鏡法を用いて、神経科学はこれまでにない深さに到達している。

神経科学は、脳の構造と機能をさらに解明しようとしている。技術開発によって感受性と選択性が向上し、より広大な脳内の神経ネットワークをより深いところまで観察できるようになり、ミニブレイン(脳の構造と機能を似せた細胞集団)、ゼブラフィッシュ、げっ歯類を含む幅広いモデルの研究が加速している。さらに、米コーネル大(Cornell University)のクリス・シュ氏(Chris Xu)のような研究者は、イメージングエンベロープを推し進めたいとする。たとえば、マウスにおいて、複雑な情報処理と関連する皮質や海馬を観察するといったことだ。
 多光子励起蛍光顕微鏡法(MPM)は、このような研究では一般的なものである。なぜなら、非侵襲的であり、脳の構造と、影響を受けやすい脳組織の活性の両方を観察できるからだ。赤外線(IR)波長域の照明は優しいため、観察領域にダメージや摂動を与えることなく、長期間の連続イメージングが可能である。
 さらに現在では、ウイルス感染や遺伝子発現によって、主要なモデル動物で多様な蛍光タンパク質を発現できる。特に神経活性の観察目的には、科学者は遺伝的にコードされたカルシウムインジケータ(GECI)を利用する。GECIは、神経活性のプロキシであるカルシウム存在下で、光学的励起に反応して蛍光を発する活性感受的な指標である。多光子顕微鏡法で使われる他の蛍光タンパク質同様、GECIはIR内のさまざまな波長で励起する。たとえば、GCaMPファミリは920〜950nmで、赤方偏移種(たとえばjRCaMP1a,b)は1000〜1100nmで励起する(1)。

2光子・3光子イメージング

2光子励起蛍光顕微鏡法(2PM)は、特に10〜100μの深さにおけるin vivo(生体内)の神経活性のビデオレートイメージングや直接観察によく適する。2PMで選ばれる励起源は、一般的に高繰り返し率のフェムト秒レーザであり、生きた組織内でIR侵入窓をカバーできる調整可能な高スペクトル出力をもつ。900〜1300nm間の波長は、主要な蛍光タンパク質に適した励起や、IRにおける散乱抑制に特に重要である。
  米スペクトラ・ フィジックス社(Spectra-Physics)のInSight X3のような、新たに導入されたレーザプラットフォームでは、このレンジで高ピークパワーのパフォーマンスが可能だ。近年のパワー増強により、このプラットフォームは、900nm以上の波長では古いチタンサファイアレーザより性能がよく、緑、黄、赤色蛍光タンパク質の2光子励起に対する有用性が証明されている(図1)。
 2PMで到達可能な最高侵入度はバックグラウンドノイズによって決まり、生きた組織内では通常1mmが限界である。これは、多くのマウスの皮質イメージングには適するが、1mm以下の深さにある海馬などの皮質下構造をイメージングできない。侵入度をより拡張するために、神経科学者は3光子励起蛍光顕微鏡法(3PM)に切り替える。その理由を簡単に説明しよう。
 3PM技術は、蛍光タンパク質がIR光子3つを同時に吸光するという非線形プロセスに依存する。このような励起には、狭い焦点ボリュームのみで実現しうる高い時空間的な光子密度が要求される。この空間的に限定される光学効果によって、2PMよりバックグラウンドレベルを数オーダー低くできる。IRレーザの励起波長は、対象となる主要な蛍光タンパク質やGECIの3光子吸光窓に合わせ、比較的吸水率の低いスペクトル窓に置く必要がある。リンヤン・シー氏(Lingyan Shi)と協働者が証明したように、より長いIR波長を操作することで、光学散乱をさらに減少させ、侵入度を拡張できる(2)。これらの理由により、3PMにおける最適な励起波長は、緑色タンパク質では1.3μm、赤色タンパク質では1.7μmとなる。
 3光子吸光プロセスは低確率のイベントであり、蛍光シグナルが発生するためには超高ピークパワーを必要とする。2PMと比べると、瞬間的なピークパワーと光子密度は数オーダー高くなければならず、一般的には1〜100MW範囲だ。このピークパワーの増加は、パルスエネルギーをマイクロジュールレベルにまで上げ、一時的なパルス幅を100fs以下にまで下げるときに最大に達するが、操作するときは適度な平均パワーレベル(通常は数十〜数百mW)である。これにより、損傷、特に平均パワー超過と関連する熱、光毒性、光損傷の影響を受けやすい構造のイメージングの適合性を確保する(3)。

図1

図1 スペクトラ・フィジックス社のInSightX3のピークパワーは、900nm以上の波長で古いチタンサファイアのピークパワー以上であり、in vivoイメージングにおける緑、赤色蛍光タンパク質やGECIが2PMで利用できる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/07/LFWJ1707_BIO1.pdf