コンパクトな超強度レーザとナノ構造が超高圧に道を開く

ジョージ・ J・ロッカ。共同執筆者、ヴャチェスラフ・シリャプツェフ、リード・ホリンガー、クレイトン・バーグステン、アレキサンダー・プーコフ、ヴラル・カイマク、リカルド・トマジーニ、リチャード・ロンドン、ジェボム・パク、マリア・ガブリエラ・カペルート

相対論的強度の超短レーザパルスと協調したナノワイヤアレイの放射は、ギガバール圧力で特徴づけられた超高エネルギー密度領域で物質を生み出し、高エネルギー物理学における新たな実験を可能にする。

物質を加熱して、ギガバールを超える圧力で特徴づけられる超高エネルギー密度(UHED)状態にすることは、例えば星の中心、国立点火施設(NIF)のようなレーザ駆動の慣性核融合(ICF)カプセルの球状圧縮に見られ、これは非常に難しい作業である。UHEDプラズマ状態は、核融合研究の関心事である。X線、ガンマ線、高エネルギー粒子、中性子も含まれるが、これらの強い閃光の生成、また極限環境研究所や天体物理学環境に見られる条件での原子プロセスの研究にとっても強い関心事である。
 残念ながら、研究室でのUHEDプラズマの実現は主に、ICF実験におけるこれら爆縮されたカプセルの主要ホットスポットに限られている( 1)( 2)、また今日のほとんどの強力なレーザでさえ、固体フラットターゲットに照射する際には、UHED状態達成には及ばない。このような従来のプラズマ加熱スキームでは、最先端の強力レーザパルスは、急速なプラズマ噴出を起こし、レーザパルスの残りが固体密度ターゲットを直接加熱できなくなる。今日のほとんどの強力な短パルスレーザを利用する高温電子による加熱は、UHED状態への境界を超えるだけである(3)。
 われわれは、コンパクトな超短パルス(USP)レーザを用いてUHED状態に至るための、違うアプローチを追及している。相対論的強度に集束した、ジュールレベル程度のエネルギーの超高コントラストフェムト秒レーザパルスで、高アスペクト比、垂直配向ナノワイヤアレイを照射する(図 1)( 4)( 5)。
 この戦略によって得られるのは、類例のない組合せである。つまり、ほぼ完璧なレーザ吸収と、半固体の平均密度ターゲットへの劇的に増強された光浸透との組合せである。ここでは光がトラップされ、ほぼ完全に吸収される。このため、材料は容量的に加熱されてUHED領域に十分に達し、繰返し放射可能なジュールクラスの卓上フェムト秒レーザを使ってUHEDプラズマ領域への明確な経路が得られる。

図1

図1 相対論的強度のフェムト秒レーザパルスと整列ナノワイヤアレイとの相互
作用が、UHEDプラズマを
生成する。(提供:コロラド州立大、リード・ホリンガー、アダム・ベアドール)

相対論的強度でナノ構造照射

グレーティング、「スモークトターゲット」(ガス雰囲気に蒸着・堆積された金属)、ナノスフィア、ナノワイヤを含む構造化ターゲットをうまく使ってレーザ照射吸収を増やした。これは強められたX線放出の観察からも明らかである(参考文献、18-24 in C. Bargstenet al., Sci. Adv., 3, 1, e1601558 [2017])。しかしながら、空隙なギャップで隔てられた高アスペクト比の整列されたナノワイヤアレイは、容量加熱を可能にする点で類例がない。これは、相対論的強度のフェムト秒レーザパルスを半固体密度材料に深く浸透させることによって加熱する。
 照射プロセスでは、強力なレーザ場によって電子がナノワイヤ表面からはがされ、レーザ場は電子を加速してワイヤ間のギャップに押し込み、これによって高エネルギーが得られる。電子とナノワイヤとの衝突が材料を加熱して極端な高温にし、ナノワイヤを爆発させ、プラズマ間のギャップを急速に埋める。ギャップが埋まると、連続的な臨界電子密度層が形成され、レーザエネルギーがさらに材料に結合することはできなくなる。
 相対論的強度のフェムト秒レーザパルスを利用することで、非常に効率的にエネルギーがナノワイヤアレイ深くに結合し、半固体密度材料の大容量を深さ数μmでマルチキロ電子ボルト温度まで加熱する。この容積プラズマ加熱アプローチにより、ギガバール圧力のUHED領域が、5×1018W/cm3の比較的控えめな強度で利用可能になる。
 コロラド州立大での実験では、垂直配向のニッケル(Ni)と金(Au)のナノワイヤアレイを約50fs幅の超高コントラストパルスで照射した。パルスは、周波数逓倍(λ=400nm)、高出力Ti:Sapphireレーザからのものである。超高コントラストは重要である。比較的低強度のプリパルスが、高強度超短パルスの到来に先立ち、臨界密度表面を形成することによってアレイを破壊することができるからである。
 5×1018W/cm2のレーザパルスを55から80nm径、固体密度約12%の平均密度ナノワイヤに集束させることによって得られるX線スペクトルは、強く電離したプラズマの生成を示している。垂直配向、55nmNiナノワイヤからのスペクトルは、強い発光の高イオン化プラズマを示している。強い発光は、2p-1s(λ=1.588Å)および、リチウム(Li)に似たラインとともに、ヘリウム(He)に似たNi(Ni+26)の相互結合ラインからのものである(図 2)。
 このスペクトルは、同じ条件で照射された、研磨されたフラットターゲットに対応するスペクトルとは著しく違っている。それは、1.658ÅでNi Kα線からの線放射を示しているだけである。Kα放射は、たいていの場合、高エネルギー電子で生成されるが、Heに似たイオン遷移は、強い裸イオンを生成して励起するには高温プラズマを必要とする。
 ナノワイヤターゲットからのHeに似た線放射が、この放射強度でKα線の強度を上回ることは注目に値する。銅(Cu)箔での以前の研究では、Kα線からの放射は、>2×1020W/cm2でようやく上回ったからである(6)。整列したNiナノワイヤターゲットは、この7-8keVスペクトル領域では、X線フラックスで50×以上の増加となった。以前の実験と一致して、1keVフォトンエネルギー領域でも同様の増強が観察された(7)。
 同様に、80nm径Auワイヤアレイを照射することで、著しく強く電離した半固体密度のAuプラズマが生み出された。Auナノワイヤスペクトルは、コバルト(Co)に似た Au(Au+52)からガリウム(Ga)に似たAu(Au+48)までの範囲のイオンからの、未解明の4-3ラインの強力なAu M殻放射を示している。同じパルスで照射されたフラット固体ターゲットに関しては、Auターゲットからのスペクトルと、フィルタ処理したフォトダイオードアレイ信号の両方とも、X線領域で飛躍的な増加を示している。

図2

図2 強度5×1018W/cm2で照射されたニッケル(Ni)ナノワイヤのシングルショットX線スペクトルを、フラット研磨Niターゲット(10倍拡大したスケール)のスペクトルと比較している。(出典:M. Purvis et al(4))

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/07/LFWJ1707_FT1.pdf