表面プラズモンのモデリングで有機EL設計を改良し、効率損失を低減

サラ・フィールズ

表面プラズモンのモデリングとナノ構造電極の設計によって、有機EL(OLED:Organic LED)システムの光出力と効率が向上できる可能性が高い。

有機ELは、さまざまな形状やサイズの軽量で極薄の発光パネルに使用できるため、高い関心を集めている。フレキシブルであったり屈曲可能であったりする発光デバイスの製造に使用でき、そのようなデバイスは、自動車の尾灯などのパーツ、建築照明や特殊照明、その他の光源を製造するための平面や曲面に適用される。
 しかし有機ELは、無機化合物を使用するLEDほど輝度やエネルギー効率は高くない。そこでコニカミノルタの研究者らは、高まる需要に対応する設計を開発している。同社は、画像処理や光学系用の最先端有機ELデバイスの開発を支援しており、日本を代表する大学と提携して取り組みを進めることも多い。
 レイミン・ワン氏(Leiming Wang)率いる米コニカミノルタラボラトリーUSA(Konica Minolta Laboratory USA)の研究者らは、数値シミュレーションを用いて、有機ELにおける光損失のメカニズムを解析することにより、設計を改良するための方法を実質的にテストしている。確かに利点を備える有機ELだが、制約も多く、研究者はそれらの制約を最小限に抑えようとしている。最も影響が大きいのは、複雑なプラズモンの結合(カップリング)現象で、デバイス内部の相互作用による光損失の40%を占める。

有機ELの仕組み

有機ELは、有機半導体が正電極(陽極)と負電極(陰極)の間に挟まれた構造をしている。図 1に、有機ELデバイスの階層を示す。透明な酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)でできた陽極、3つの有機層(正孔輸送層[HTL:Hole Transport Layer]、発光層[EML:Emitting Layer]、電子輸送層[ETL:Electron Transport Layer])、そして銀の陰極で構成されている。これらはすべて、デバイスがオンの時に光を通す、ガラス基板上に作製されている。
 電流を印加すると、電子が陰極に、正孔が陽極に注入される。電子と正孔は互いに向かって層内を移動し、発光層で結合して光子の形でエネルギーを放出する。電流が流れている間にこの現象がすばやく生じることで、連続的な光が得られる。
 しかし、一部の光子は決して外に放出されない。有機ELの光損失は、複数のメカニズムによって生じる。例えば、各層の屈折率の違いによって、光が外に放出されることなく、層内で反射する可能性がある(図 2)。
 ワン氏のチームは主に、ひとつの損失モードを調査した。つまり、陰極と有機材料層の間の境界における双極子放射と表面プラズモンのカップリングである。表面プラズモンとは、導体表面で振動する電子の波のことである。有機ELでは、発光層において放射双極子(分子励起子)から発せられる光が、陰極の電子振動にカップリングし、それによってスペクトルの赤外域または可視域に電磁波が生じる可能性がある。これを、表面プラズモンポラリトン(SPP:Surface Plasmon Polariton)と呼ぶ。この波は、ガラスを通して放射されることなく、減衰しながら陰極表面に沿って移動する(図2a)。
 ここで注意すべき重要な点として、最近SPPに関心が集まっているのは主に、回折限界を超えて電磁エネルギーを強く閉じ込めることができるためである。その結果、近接場光学系、バイオセンシング、メタマテリアルの多数の分野で、SPPは大いに活用されている。

図1

図1 複数層からなる有機EL構造の概略図。さまざまな種類の光損失が示されている。

SPPによる光損失

しかし、有機ELの最適化という観点からは、SPPは最大の損失要因である。金属陰極が有機発光体の近くに存在するため、一部の光が陰極の電子に吸収されて、電子振動が生じ、SPPが形成される。最終的にはこれが熱として放散され、多大なエネルギー損失につながる。SPPによる損失を低減することができれば、有機ELのアウトカップリング効率を高めることができ、より高品質で効率的な光が得られることになる。
 SPPは表面に沿って伝播するが、どのような表面でもよいというわけではない。SPPは、誘電率の符号が互いに逆である2つの材料の境界に沿って生じる。空気、水、プラスチック、紙など、多くの一般的な材料は正の誘電率を持つ。金、銀、アルミニウムなどの金属の誘電率は負であるため、SPPは、例えば金と空気の間の境界に存在し得る。
 しかし、その境界にSPPが存在し得るからといって、その生成や制御が容易というわけではない。レーザなどの従来光源でSPPを生成するのは、SPPを可視光に変換するという、有機ELとは逆のプロセスであるため、もう少し複雑な処理となる。

図2

図2 (a)は、有機ELにおける表面プラズモンと双極子放射のカップリングを示す概 略 図。 光 子 は、 有 機ELガラス基板を通して放出される代わりに、SPP波に結合してしまう。(b)は、SPP 分 散 曲 線 を 示 すCOMSOLソフトウエアのグラフ。黒色の対角線は光線、緑色の水平線は表面プラズモンの周波数を表している。青色のSPP分散曲線はこれらの線に、それぞれ周波数の下限と上限で漸近的に接近する。赤色の矢印は格子を表す。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/05/LFWJ1705_FT6.pdf