高速で廉価なPOC診断を可能にする単光子計数モジュールの発展

バーニシー・フォン

シリコン製アバランシェフォトダイオードをベースにする SPCMによって、ヘルスケア応用に向けた多光子パラメータを高速に、効率よく検出する。

技術の急速な発展によって、単光子計数モジュール(SPCM)は新たな応用分野の幅広い領域で実用的となっている。つい最近まで、SPCMは制御環境下、ほとんどが研究室や研究開発環境で使われていた。今日では、SPCMは多くの実用的な応用向けとしてOEMデバイスに組み込まれている。そして、創薬、がん研究や遺伝子研究、臨床検査室における診断において、エマルジョン中や溶液中の環境毒素、タンパク質、ナノ粒子などの成分の検出や測定のために用いられている。
 同時に、ヘルスケアの発展によって、高速で廉価なポイント・オブ・ケア(POC)ソリューションのニーズが加速しており、新たな分析・生体医学イノベーションを刺激している。膨大な量のPOC市場が、より性能がよく、入手しやすい診断機器の需要を作り出している。その結果、ますます洗練されたPOC診断と分析機器によって、非常に複雑なデバイスの統合や配置といった大がかりな製造が要求されている。そこにはSPCMも含まれる。
 診断応用に必要な情報には、蛍光強度、拡散、寿命、偏光といった多様な光子パラメータを高速かつ効率的に検出することが求められる。これらのパラメータは、特定の遺伝子やタンパク質の特徴を区別する分子特性である。SPCMは、これらを含む因子を高速かつ効率的に収集、計測できる。

SPCM技術

SPCMは、単光子を特定し、計数できる超高感度な検出器である。検出器は、光電子倍増管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)、シリコン製光電子倍増管(SiPM)、超伝導ナノワイヤがベースとなり得る。理想的なSPCMは、安価であること、紫外線から近赤外線までのフルスペクトル光において光子検出効率(PDE)が高いこと、ダークカウント(ノイズ)、アフターパルス、不感時間がゼロであることだろう。
 現実には、検出器の性能とモジュールデザインのトレードオフによって、理想的な組み合わせは達成できない。それぞれのタイプには欠点があるのだ。PMTベースのSPCMは、紫外線スペクトルにおいて高いPDEをもつが、近赤外線では劣る。APDベースのSPCMは、他のデバイスに比べて同じアクティブエリアでもダークカウントが多い。SiPMの光子計数モジュールは、他のSPCMのタイプと比較してアフターパルスが多い。超伝導ナノワイヤの光子計数検出器は、非常に高価だ。
 シリコン製APDベースのSPCMは、パフォーマンスにおいて最小限の妥協に抑え、ベストな組み合わせを包含したものである。半径およそ150μmの小さなアクティブエリアで、ダークカウントは1秒あたり10カウント以下を実現する。このタイプのモジュールは、シグナルノイズ比のよいパフォーマンスで、紫外線から近赤外線までの波長に応答する。アフターパルスの確率は1%以下であり、クイックレスポンスに対する不感時間も非常に短く、比較的コスト効率もよい。
 光子計数では、単光子アバランシェダイオード(SPAD、ガイガーモードAPDまたはGMAPDとも呼ばれる)という特殊なAPDは「ガイガーモード」で機能する。ガイガーモードでは、APDは降伏電圧以上に偏る。降伏電流を制限することで、APDはダメージなしに絶縁破壊を超え、安定した「オフ」の状態を維持できる。搬送波から生成された光子がSPADの倍増領域内で放出されると、電子と正孔が放出、倍増され、衝突イオン化が起きる。単光子吸光によって、106個もの電子を生成できるアバランシェ降伏が生じる。
 APDが降伏電流でダメージを受けないようにするためには、ガイガーモードのAPDで連続するクエンチング抵抗が必要である。絶縁破壊中の抵抗を通じて電圧が上昇すると、APDの倍増領域内の電圧が減少し、最終的にAPDはクエンチされる。これはSPADの「受動クエンチ」と呼ばれている。一旦APDがクエンチされるかリセットされると、ダイオードは続く光子検出のために、降伏電圧を超えた状態で再び機能するための待機状態となる。この受動クエンチング回路の欠点は、次に光子検出できるまでの長い不感時間だ。そこで、APDをクエンチ、リセットするための高速トランジスタスイッチを使う能動クエンチングが使われ、より短い不感時間、より高い計数率を実現している。
 一般的に、ガイガーモードのAPDが効率よく動作するためには、温度安定性が求められる。そのため、フォトダイオードは熱電的に冷却されて温度制御されており、周囲の温度変化に影響されずに一定のパフォーマンスと最適なシグナルノイズ比を保証する。ほとんどのSPCMのエレクトロニクスでは、研究室の機器に組み込まれやすくするために、検出される光子についてはトランジスタ・トランジスタ・ロジック(TTL)パルスのかたちでパルスを出力する。

ヘルスケア応用

多くの新興ヘルスケア、バイオイメージング、ライフサイエンス応用では、650 ~ 900nmの波長領域における極めて弱い光シグナルや蛍光の検出が必要となる。高い感受性をもつ検出技術が要求されるが、そこには赤色から近赤外線で高いPDEをもつSPCMが含まれる。
 これらの応用ではまた、高いデータレート、高解像度、短い不感時間(20ns以下)、高速な計数率をもつSPCMが求められる。短い不感時間と短パルスをもつ、非常に高速な能動クエンチン
グ回路によって、SPCMはこの種の応用で要求される高速計数率を実現できるだろう。
 光子相関分光法は、ライフサイエンス領域においてタンパク質、ナノ粒子、分子の解析に使われる。この計測技術では、検出器におけるアフターパルスの低い確率が、正確な結果を得るのに必要不可欠だ。アフターパルスは、APDチップの結晶構造内の不純物が原因である。アフターパルスの確率は、前のアバランシェで補足された高エネルギー電子によって起こる電子雪崩の起きやすさを意味する。APDのウエハ増大プロセス、例えば入射レベルや拡散温度など、さまざまなステップがアフターパルスに寄与しうる。アフターパルスは、検出器の感受性を低下させ、使用目的に合わないものとさせてしまう。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/05/LFWJ1705_FT5.pdf