チューナブルダイオードレーザでマイクロ構造・ナノ構造を研究

ルドルフ・ニューハウス

光励起マイクロキャビティ、先進的量子技術、量子ドットの活用は、フォトニクスに大きな影響を与える可能性があるチューナブルダイオードレーザの応用である。

マイクロ構造とナノ構造が基礎研究や応用量子技術にとってますます重要になってきている。そうした構造の顕著な例はマイクロキャビティや量子ドットである。また重要な応用例には、シングルフォトン光源、エンタングルフォトン光源、量子コンピュータ用の量子ビット、および様々なセンサがある。そうした構造によって、量子限界、つまりマイクロキャビティ内の量子振動など、量子ドットの量子電磁力学(QED)、あるいはキャビティにシングル量子ドットを持つキャビティ QED研究さえも可能になる。
 多くのアプリケーションが、適切なチューナブル連続(CW)レーザを用いた共鳴光励起を必要としている。適切な波長でマイクロキャビティを光励起することで、微視的コヒレント周波数コムや短パルスを作ることさえ可能になる。これは、フォトニクスに大きな影響を与えることが期待されている極めて有望なアプリケーションである。

マイクロキャビティ

量子特性は、特殊サンプル形状や冷却を用いなければ、環境デコヒレンスのためにマクロ的な対象では通常は観察できない。例えばマイクロキャビティを利用すると、相対的に大きなマイクロメートルスケールの構造で量子効果を観察することができる。図1は、隔絶したドーナツ型、~ 30μm径のガラスマイクロキャビティを示している。これはマクロ的な機械的オシレータとリング形状の高Q値光キャビティを統合したものである。エバネセント場でキャビティに結合された光は、全反射によりドーナツ壁を跳びはね、放射圧力によって構造に小さな力を伝達する。
 こうして、結合光は構造の振動挙動に影響を与えることができ、逆も可である。この特性によりマイクロキャビティは、量子研究にとって胸を躍らせる対象になる。例えば、研究者は光振動と機械的振動の間のパラメトリック結合を観察した(1)。またそうしたマイクロキャビティのアクティブフィードバック冷却のためのオプトメカニカル結合に基づくセンサも利用した(2)。
 サイズが小さいのでマイクロキャビティの自由スペクトル領域(FSR)は相対的に大きく、わずかな偏差がキャビティ共鳴の大きなスペクトルシフトを起こす。したがって、マイクロキャビティの共鳴周波数を見つけて研究するためには広帯域モードホップフリー可変レーザが貴重なツールである。また、キャビティの単一FSRを超えて掃引するためのツールでもある。さらに、不要な励起振動を疑似的に回避するために、レーザはパワーと周波数においてローノイズでなければならない。
 マイクロキャビティの共振周波数のサイズや他の環境パラメータへの依存は、有望なアプリケーション、溶液内の個々の生物学的分子のラベルフリー検出に活用できる。これは、広帯域可変モードホップフリーレーザ(トプティカ社のDLC CTLのような)と組み合わせたマイクロトロイド光共振器を使うことで可能になる。研究者は、そのようなレーザがマイクロトロイド光共振器に対してどのように周波数安定化されているか、また共振器に結びついている分子によって起こる光共振周波数シフトがどのように観察されるかを説明している(3)。このような方法で、半径2 ~ 100nmの粒子が検出され、識別される。
 成果は、さらに非侵襲的腫瘍生検分析試料作製に拡張され、溶液の光質量分析計の基盤となる。このアプリケーションでは、広帯域モードホップフリーチューニングが必要となるだけでなく、マイクロキャビティに対してレーザを簡便に安定化する機能も必要になる。例えば、CTLレーザは、組込み、オールデジタル安定化エレクトロニクスを持っており、オプションで高帯域アナログ、もしくは高速デジタルロッ
キングエレクトロニクスを利用できる。

図 1

図 1 マイクロトロイドは同時に、光共振器であり、機械的共振器でもある(提供:EPFL、トビアス・キッペンベルク氏)。

マイクロ共振器ベースの周波数コム

マイクロ共振器も、光周波数コム開発のためにますます有効活用されるようになる。誘導光フィールドの小さなモード体積と1010までの高Qファクタのために、これら共振器の強度が非常に高いので、非線形効果が極めて強くなる。マイクロ共振器は、非線形四光波混合(FWM)によりCW励起光を他の周波数成分に変換できるので、これにより周波数コムを作ることができる(図2)。
 結果としての周波数コムの特性は、励起レーザ波長に強く依存する。CWレーザがソリトン状態とともにインコヒレントな高ノイズ状態を励起できるからである。ソリトン状態は好ましい結果としてコムがコヒレントになり、極めてローノイズで狭線幅、短パルスという特徴が得られるからである。励起レーザをより高い周波数から低い周波数まで掃引すると、異なるソリトン状態間で急なステップが生ずる。各ス
テップは、マイクロ共振器内で周回するソリトン数の連続的な減少に対応している。レーザに対するフィードバックにより、マイクロコムはこれらのステップのひとつで安定化でき、安定したソリトン動作が可能になる。図3は、チューナブルレーザダイオードで励起した、そのようなマイクロキャビティの光シングルソリトンスペクトルを示している(4)。マイクロキャビティは、窒化シリコン(SiN; 図4)でできている。
 結晶ベースのマイクロ共振器は、特徴として最高のQファクタでるため、特に有望である、これまでは、結晶ベースのマイクロ共振器の励起はローノイズファイバレーザだけを利用していた。そのようなファイバレーザは、広帯域可変ではなく、また従来型のチューナブルダイオードレーザは、ノイズがもっと高いので、適切ではなかった。しかし今では、新世代の連続可変ダイオードレーザの特徴は、超低ノイズ電流ドライバと低ドリフトで10kHz以下の狭線幅を可能にするレーザ共振器である。このようなチューナブルダイオードレーザを用いると、結晶ベースのマイクロコムでさえ励起できる。高帯域アクティブ周波数安定化を利用すると、レーザの線幅は1Hzレベルにでき、マイクロコムの励起レーザにおけるノイズ効果を調べることができる。
 マイクロ共振器の分散特性を明らかにすることは、理想的な特性のマイクロ共振器設計に極めて重要である。ここでは、究極のツールはモードホップフリーチューナブルレーザである。レーザは、シフトが厳しく制御された安定化たコム(5)にロックされている (6)。

図 2

図 2 周波数コム実現のための連続波(CW)光によるマイクロキャビティ励起(提供:トビアス・ハー氏、CSEM社)。

図3

図3 ローノイズコヒレントマイクロコムの光スペクトル。マイクロ共振器は、短パルスで、適切なCW励起をコヒレント・フォトニックチップベース光周波数コムに変換する(提供:EPFL、ビクター・ブラッシュ氏)。

図4

図4 マイクロコム作製用SiN集積マイクロキャビティ(提供:EPFL、マイケル・ガイゼルマン氏)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/03/ft3_diode_laser.pdf