LIRIC:次世代の屈折矯正レーザ手術

レン・ヅエレズニヤク

30年前に登場して以来、レーザ角膜内切削形成術(LASIK)は屈折矯正手術を変革した。そして今、LIRICと呼ばれる、より低侵襲的な術法が LASIKの制限を克服し、より広い適応につながりそうだ。この術法は、視力矯正の新時代を先導するだろう。

屈折矯正手術は、生体医学の光学、フォトニクスへ最も大きな影響を与えたものの一つである。屈折矯正手術のもっともポピュラーなものであるレーザ角膜内切削形成術(LASIK)は、角膜の形状を変えるために193nmのエキシマレーザを用い、患者が眼鏡やコンタクトレンズを使う必要性を減らす、もしくはなくす。眼科外科医は、エキシマレーザとこの手術がなかったら、屈折矯正手術は今日において主流ではなくニッチになっていただろうと考える(1)。LASIK手術は世界で4000万人以上の患者に行われたが(2)、視力矯正を必要とする人々のわずか2%しか手術を受けていない。LASIKの対象となる多くの人は、合併症のリスクを恐れて手術を受けないでいる(http://bit.ly/1br7mlyを参照)。

レーザで屈折率を変える

米ロチェスター大(University of Rochester)の光学研究所の元ダイレクターで、光学・物理・材料科学・視覚科学の教授であるウェイン・ノックス博士(Wayne Knox)は、超高速レーザの分野で40年以上研究しており、屈折率を変えるレーザ(LIRIC)の使用に基づく術式を、自身が見てきたあらゆる分野の中で最も興奮する応用だという。「全く異なるアプローチであり、LASIKより安全でフレキシブルなものになるだろう。 そして、現在ではLASIKが使えないか、LASIKに反発する、より幅広い患者に対して、視力を矯正する新しい解決法となる可能性を秘めている」と話す(図 1)。
 レーザによる屈折矯正手術は、あらゆる種類において、角膜で環状の「フラップ」をカットし、間質を露出させる。そして、間質にエキシマレーザを照射して蒸散させる。一般的には、単一光子吸収メカニズムを用いる。この処置によって角膜前面の形状が変化し、屈折特性と光強度が変化する。レーザ屈折矯正角膜切除術(PRK)では、間質を蒸散させる前に上皮を取り除く。
 これに対してLIRICは、「完全に非侵襲的だ」とノックス博士は述べる。LIRICでは、 カットも蒸散もない。LIRICは、角膜の形状を変化させるのではなく、フェムト秒のレーザを用いて角膜の屈折率(RI)を変化させる。また、LASIKとは異なり、LIRICの術式では角膜を薄くしないため、加齢による視力矯正を繰り返すことができる。さらに、このアプローチはコンタクトレンズだけでなく、白内障の手術中に濁ったレンズの代わりに使う眼内レンズ(IOL)にも等しく作用する。白内障手術の50%では、IOLの配置が難しく、また手術後のIOLの移動(1mm移動するごとに約1ジオプタの視力が変化する、図 2)(3)によって、屈折障害が起きる。

図1

図1 LASIKは、レーザを用いて組織の層を切除して角膜の形状を変化させることで視力を矯正する。一方、LIRICは角膜内光学の焦点能力を非侵襲的に変化させる。

図2

図2 年間2000万回行われている白内障手術の50%以上で、屈折障害が残る。このような不満足なアウトカムを経験する患者は、LIRICからのベネフィットを享受できるだろう。

プロセスを開発する

開発に向けた基礎研究と手術テストは2006年に始まった。青色組織内屈折率形成(Blue-IRIS)と呼ばれる処理を用いて、400nmの(青の)フェムト秒のパルス光による角膜組織への屈折率(RI)パターン書き込みが2010年に報告され(4)。この方法によって、5mm/sのスピードにおいて屈折率を0.037変化できた(4)、(5)。
 Blue-IRIS手術の動物モデルとして、生きたネコが使われている。ネコの角膜はヒトの角膜に似ており、しばしば眼科的手術の試験に用いられているためだ。サヴェージ氏(Savage)らの報告では、超高速レーザ(400nm、80MHzの繰り返し率で100fsパルス)をそれぞれの眼の角膜に照射し、3層の2.5mm四方のマイクロレンズに屈折率、側方勾配率(GRIN)を書き込んだ(図3)(6)。内在性の二光子吸光処理によって、この術式は角膜間質のRIを変化させる。
 チームはその後、パターンの光学効果を追跡した。シャックハルトマン型波面センサを用いることで、RI構造は、少なくとも意図した分の視力改善(乱視度数で1D)をもたらすことが証明された。次に、ヒトにおいてこのアプローチが応用できることを確立するためには、変化が安定的であることが欠かせない。そのため、LIRIC手術後12カ月にわたって生きたネコの眼の波面を追跡し、パターンの安定性を調べた。その結果、屈折率の変化は、調査した12カ月間は安定だったことがわかった。また、光学コヒーレンストモグラフィ(OCT)を用いて、この手術は角膜の厚さや屈曲に有意な影響を与えないことが実証された。

図3

図3 ネコの眼にin vivoで刻まれた屈折率(RI)パターンは、最初の数分以内は見えるが、やがて見えにくくなる、もしくは見えなくなる(a)。同じ眼で、手術前、翌日、1カ月後のシャックハルトマン型波面センサが収集したスポットアレイパターンで、赤の円は刻まれたパターンのおおよその位置を示す(b)。(提供:サヴェージ氏ら(6))

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/01/LFWJ1701bio2.pdf