触覚・3D形状・圧力センシングを可能にする医療用光ファイバセンサ

アンディ・ジルーリ

従来の光ファイバセンシングを乗り越え、センシングファイバの新タイプと構成により低侵襲手術に新機能を提供する。

医療産業は、光ファイバが初めて内視鏡に採用された1957年早期より様々な光ファイバ技術を使用してきた。それ以来、光ファイバを組み込んだ医療機器の範囲は比較的緩慢な技術成長のカーブを描いてきているが、業界の大半が重要視しているのは内視鏡と、切断、切除、アブレーション用に光パワーを送達する多様な方法である。これらの技術は、光ファイバの基本的メカニズム、光を一カ所から他所へ誘導する能力である。
 しかし、光ファイバは温度、ひずみ、圧力に対するそれ固有の感度を利用することで非常に高度な機能を提供することができる。過去5年間で、医療産業は歴史的に重要である光ファイバセンシング方式の採用で大きく前進し、体内環境でそれが利用できるようになった。
 ファイバセンサが医療産業に深く入り込む最近の技術進歩の主な領域は、低侵襲手術(MIS)である。このような手術は、侵襲性の高い外科手術に取って代わりつつある。例えば、心臓切開手術であれば、これは患者に長期の回復時間を強いることになり、大きな傷が残る。低侵襲手術後の短い回復時間により、病院のベッドの所要時間が短縮されたので、手術当たりの有効原価低減となり、同じ期間にさらに多くの手術が行えることになる。民間の医療センターでは、削減された時間とコストは、限られた予算内で老齢人口に対する高いレベルのサービス維持に決定的に重要になる。
 MISの利点は今では十分な根拠があり、新たなMIS手術開発、あるいは既存の方式のさらなる改善のために医療機器メーカーの投資を促進している。ここで取り上げる、最近開発された3件の素晴らしいMIS用光ファイバ技術は、触覚フィードバック、3次元(3D)形状センシングおよび圧力センシングである。

触覚フィードバック

MISは、体内に挿入する小型ツールの利用を必要とする。挿入は、手術のために作られた小さな入口あるいは自然の開口部を通して行われる。したがって医師の手は、処置が行われる場所に物理的に触れることはない。手術が遠隔操作の性格を持つとは、医師がツール端から最小限のフィードバック、あるいはまったくフィードバックを受けないことを意味する。
 外科医を支援するために、処置に対するある程度のフィードバックが得られるように様々な可視化技術が利用されている。腹腔鏡手術(キーホール手術として知られている)やロボットアシスト手術は一般に光ファイバ内視鏡、小型デジタルカメラを使用してツールの先端で体内を直接見る。これによって医師は視覚的フィードバックは得られるが、触覚はないので、ハーネスと様々な組織構造とを識別することは難しい。さらに、外科縫合で結び目を作るなどの単純な作業は、ヒトの手で行う場合と比べて、正確な、あるいは一貫性がある結果にはならない。こうした課題を克服するために、ファイバブラッググレーティング(FBG)が手術道具に進出してきている。これによって、ツールが受け取る力が、機械的な力のフィードバックあるいは可視化を通じて外科医に伝えることが可能になる。
 光ファイバコアに描き込まれたFBGは長手方向のひずみに対して高い感度がある。光ファイバに沿ってひずみが増すので、FBGの中心波長の反射応答が長波長側へ直線的にシフトするためである(図1a)。
 多数のFBGを利用する、あるいはFBG構造を操作することで、空間分布ひずみプロファイルが得られる(図1b)。そのようなFBGを外科ツールの長さに沿って適用すると、最も関心のある領域で触覚フィードバックが得られる。これの典型例は把持ツールに触覚センシングを付加することである。ここでは把持力と拡散力の両方を計測して医師にフィードバックし、どの程度強く把持しているか、組織をこじ開けるためにどの程度の力を加えているかを示すことができる(図1c)。
 そのようなツールには微小化と減菌が求められるので、標準光ファイバは、どちらかと言えば、そのようなアプリケーションには適さない。英ファイバコア社のクラッド径縮小、ポリイミド被覆SM1500(5.3/80)Pファイバのような極めて低い曲げ損失、高温耐性被覆の、特殊光ファイバならFBGをファイバのコアに描き込める。
 このタイプのファイバは、直径が標準通信用光ファイバの約半分であり、標準光ファイバなら機械的、光学的に問題が生ずるような展開状態にも耐えることができる。特殊ポリイミド被覆によってファイバは、性能劣化なく多くの加圧減菌プロセスを乗り越え、ファイバは使い捨て医療器具、半使い捨て医療器具の両方で使用可能になる。
 そのようなセンサのコスト低減と、機械的な信頼性改善を支援するために、ファイバコア社は、被覆を除去することなく、ファイバのコアにフェムト秒レーザでFBGを描き込んだFBGを提供してきた。これは、他のFBGメーカーの技術で必要とされるように、化学的エッチングで被覆を除去する必要がないので、ファイバの機械的強度が危険にさらされることはない。

図1

図1 FBGの中心波長シフトは直線的にひずみに反応しており、ひずみの関数としてプロットされている(a)。FBGの圧縮は負のひずみ領域で、伸長は正のひずみ領域で観察される。FBGの長さに沿ったひずみの空間的な分布が、FBG全体でひずみ勾配として示されている(b)。伸長と圧縮についてそれぞれ4回の計測が行われている。把持ツールのコンセプトは、ツールが観察するひずみを計測するFBGを含むものであり、これによって医師は力のフィードバックを得る(c)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/01/LFWJ1701ft5.pdf