CO2レーザ - 多様な過去からアプリケーション特化の未来へ前進

ヨン・チャン、ティム・キリーン

他の技術では簡単には達成できない独特の波長でCO2レーザは平均出力値をうたう提案からアプリケーションに特化した市場に前進している。こうした市場では、超高ピークパワー、特殊波長、動作安定性が顧客の期待に応えることになる。

1964年ベル研のチャンドラ・クマール・パテル氏(C. Kumar N. Patel)が発明した二酸化炭素(CO2)レーザは、フォトニクス業界の基準では古典的技術である。しかし長い歴史にも関わらず、CO2レーザ技術は存続しつづけ力強く成長している。理由は、波長、パワー、スペクトル純度の独自の組み合わせにある。
 多くの自然材料および合成材料は、CO2レーザの及ぶ9~12μmスペクトル範囲に、強力な吸収特性を持つので、材料加工や特殊分析で多くのチャンスが存在する。これらの波長は大気透過率でも重要なウインドウに含まれ、多くのセンシングや広範なアプリケーションにとって理想的である(図 1)(1)。
 一般的なCO2レーザは、CO2分子を含むガス混合の大量放電からなる。分子振動と回転のエネルギー準位が密接しているので、これらの準位間の遷移の結果として放出されるフォトンは、可視や近赤外(NIR)光と比べてエネルギーが低く、波長が長い。
 二酸化炭素レーザのパワーレベルはミリワットから数十キロワットが可能であるので、計測あるいは強力な切断に同じように適している。CO2レーザは非常に高いスペクトル純度であり、放射線幅は<1kHzでパワートレードオフはなく、変換効率10%が可能である。
こうした特徴があるのでCO2レーザは、新興のアプリケーションに取り組むことができる、材料加工、光検出や測距 (ライダ)、熱視覚補助、標的治療アプ リケーションである。
 発明以来数十年で数十万のCO2レーザが、医療、製造、化学研究で使用さ れてきた。その範囲は中国の高速製造ラインで水のボトルに印字する4ケタ コードからドイツではメルセデスベンツ車用のコンポーネントパーツの溶接 まである。ファイバレーザが類似のアプリケーションで人気を博しており量子カスケードレーザ(QCL)によって構築された新しい最前線がある今日でも、CO2レーザがアプリケーション特化の領域に前進できれば、市場で最も広範に導入されるレーザの1つにCO2レーザはとどまることになる。

図1

図1 二酸化炭素(CO2)レーザは、大気透過率の共通ウインドウ、電磁スペクトル内の赤枠(a)で発光する。周波数および波長範囲は、9個のCO2同位体のレーザ遷移(b)で示している(出典;C.Freed(1))。

競争に挑む

こうした長期的な優位性にも関わらずCO2レーザはいくつかの前線で挑戦を受けている。以前にCO2レーザが優位を占めていたアプリケーションの一部に、ファイバレーザやQCLが進出してきた。
 産業用アプリケーションでは、ハイパワーファイバレーザの方が、安価で価格競争力があり、高効率で、金属による吸収も優れている。しかし非金属材料はファイバレーザのNIR波長を吸収しないため、CO2レーザは多くの非金属材料の加工では唯一の方法である。
 量子カスケードレーザ(QCL)もコンパクトサイズであり、2~12μmの波長を出力でき、分光学の最適ツールとなっている。しかし、8~12μmの長波赤外(LWIR)域の多くのセンシング、スペクトル感度のある産業及び医療アプリケーションは、ハイパワー、スペクトル純度、優れたコヒレンス、安定した空間モードの組み合わせを必要としており、これはCO2レーザしか提供できない。
 技術的な課題に加えて、主に中国の拡大を続けるレーザ産業からの価格低下圧力が価格をますます押し下げている。標準的なCO2レーザは完全なコモディティになりつつあり、参入障壁も利益も急速に低下している。わずか3年前、中国の企業は米国製の30WCO2レーザを4500ドルで購入していた。今では、中国のレーザメーカーが、2000ドルのCO2レーザで市場に参入してきた。
 これらの事実は、「ワットあたり1ドル」時代の終わりを告げている。こうした時代で企業が製造するレーザは、特殊な平均パワー、数え切れないほどの作業をこなす能力、供給するワットに比例する価格を特徴とする。この戦略を利用して大きな成功を収めているシンラッド社、コヒレント社、ロフィン社などの企業は、数ワットから数十キロワットのレーザ群を開発し、CO2レーザが使用される、プラスチック製造工場、歯科医院、携帯電話組み立てラインなどの産業を生み出している。
 万能ソリューションとして競争するCO2レーザの能力は終わりに近づきつつあるが、われわれは新しい世界が突きつける課題に直面している。それは新材料であり、ますます要求が厳しくなる産業および科学的加工である。こうした加工には、新しいアプリケーションに特化したレーザパラダイムがあり、ここではレーザが提案する真の価値に対する非常に深い理解が求められており、CO2レーザをどのように製造して市場に出すかについて別のアプローチが必要とされている。
 製造面では、この新しいパラダイムはCO2レーザの幅広い仕様を活用して特殊な顧客要件に厳密に適合させる。マーケティング面では、優勢な価値提案としての平均パワーや1ドル・パー・ワットから、顧客固有のソリューションにシフトしていく。ここでは、パルス整形、ピークパワー、波長特化、運用の安定性が特殊材料やアプリケーションのニーズに適合する。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/01/LFWJ1701ft1.pdf