レーザの進歩が特殊光学コーティング開発の原動力

チェンダ・シャオ、クイ・イ、ユアナン・チャオ、ヤンチ・ワン、メイピン・チュ

レーザ技術の進歩が光学コーティングの新たな発展を後押ししてきたが、次世代のハイパワーシステム、超高速システム、人工衛星搭載レーザシステムへの搭載に成功するには、コーティングの光学的、機械的特性は、進化を続けなければならない。

近年のレーザ技術の急速な改善が光学コーティングの無類の進歩を後押ししてきた。種々のレーザシステムのコーティングには、様々な仕様と要件がある。これには、ある波長域の透過・反射値、低波面歪曲、高いレーザ損傷閾値が含まれる。
 所望のスペクトルパフォーマンスを得る最初のステップは、まずは厳しいコーティング設計である。また、高度な商用設計ソフトウエアで特殊なスペクトルパフォーマンスを達成できるとは言え、ハイパワーレーザアプリケーション向けのコーティングでは高いレーザ誘起損傷閾値(LIDT)と低いコーティングひずみが達成されなければならない。
 中国・長春にある中国科学院(CAS)に誕生したグループは、1964年に上海に移動し中国科学院上海光学精密機械研究所(SIOM, CAS)の基盤となり、さらに光学薄膜コーティングR&Dセンターの前進となった。同センターは現在、高出力レーザ用材料の主要研究所グループであり、進化する光学コーティングに取り組んでいる。特に、ハイパワー、超高速、人工衛星搭載レーザシステム向けのコーティングである。

ハイパワーレーザコーティング

 1970年代から光学コーティングに対する電界と温度場分布の効果を調べ、酸化ハフニウム・二酸化ケイ素(HfO2/SiO2)多層コーティングには、HfO2層においては電界ピーク値が低いほど、また
空気界面から離れて最強の電界層を置くと、ますますレーザ誘起損傷閾値(LIDT)が高くなることを実証した(1)、(2)。機械強度を改善し、避けられない損傷形態を抑制するためにコーティングデザインにはオーバーコート層とアンダーコート層も用いた。こうしてLIDTが改善された(3)。
 多層コーティングにおける全応力は、個々のコーティング材料と界面の応力に起因するものである。各材料の応力は様々なので、異なるコーティング材料の厚さ比の調整は全コーティング応力を調和させる方法となる。したがって、われわれの系統的なコーティング設計法には、スペクトルパフォーマンスの最適化、電界分布、アンダーコート層とオーバーコート層が含まれ、コーティング層内の応力も調和される。
 コーティング設計と製造工程中、所望のスペクトルパフォーマンスを得るには綿密な層厚制御が最も重要である。われわれの光モニタリングアプローチは、観察ガラスを使う。これは特別に選択した順序で計測位置を示してくれる。厚さ誤差を減らすために、厚い層の中には2層に分けて、別の観察ガラスでモニタするものもある。提案した方法で、理論設計に近いスペクトルパフォーマンスが達成可能になる。
 レーザ誘起損傷閾値(LIDT)改善のために、レーザ損傷の起源を理解することが重要である。欠陥はレーザ照射下のコーティング損傷に関与している(4)。一般的には、欠陥密度を減らし欠陥に対するレーザ損傷耐性を高めるのがLIDT改善の効果的な方法であり、したがって製造工程に関わる各ステップをよく観察する必要がある。
 基板ハンドリングとクリーニングプロセスを例として使用すると、基板研磨工程で誘発されるナノスケール吸収欠陥が反射防止膜やビームスプリッタコーティングのLIDTを大きく劣化させる可能性があるが、基板の幾何学的構造が高反射率コーティングで内部亀裂や電界強化をもたらすこともあり、これが結果的にコーティングのLIDTを低下させることになる(5)、(6)。基板に起因する欠陥を減らすには、コーティングチャンバの外および内部のそれぞれで基板を洗浄するために、超音波洗浄やプラズマイオン洗浄を用いる。
 基板の問題だけでなく、コーティング材料の噴出も重要な欠陥起源となる。コーティング材料の前溶融プロセスを最適化することにより、またHfO2の代わりに金属ハフニウムを出発材料として用いると、材料噴出は大幅に減らせる。
 欠陥のレーザ損傷耐性を改善するために、相対的に高い酸素流と低速蒸着の利用がコーティング酸化に対して有利になる。最近、多層界面特性改善とコーティング応力解放のために共蒸着界面を提案した(7)。レーザ調整および酸素プラズマ処理を含む後処理工程も、LIDT強化に用いた(8)。
 光波面歪曲は、基板の表面形状、多層コーティングの応力コントロール、計測や運転環境によって大きく左右される。膜蒸着プロセス中の応力の発展を理解しコントロールするために、われわれは、あるがままの状態の応力計測システムを構築した。これは、2つのレーザビームの光偏向で計測されるウエハ湾曲に基づいている。このシステムは、蒸着パラメータを調整することによりコーティング応力をデチューンすることができる。

大開口コーティング

大開口ブルースター角偏光子コーティングおよびミラーコーティングは、中国のSG(Shenguang:神光)シリーズレーザファシリティのビーム操作に必要とされている。このファシリティは、米国の国立点火施設(NIF)やフランスのレーザメガジュール(LMJ)と同類である。従来の電子ビーム蒸着技術と組み合わせたプラズマイオンアシスト蒸着(PIAD)技術は、大開口コーティングの準備に使うことができる。大開口サイズに拡張でき、高LIDTを維持しながら光学コーティングの膜応力を調整できるからである。
 SIOMが開発したブルースター角偏光子は、SPIE 2012で開催された国際レーザ損傷コンペ(International Laser Damage Competition)、米コロラド州ボルダーで開催された2013 高出力レーザ用光学材料レーザ損傷シンポジウム(Laser Damage Symposia on Optical Materials for High-Power Lasers)に収録されていた(www.spie.org/conferencesand-exhibitions/laser-damage参照)。われわれのサンプル(41.7 J/㎝2)のs偏向LIDTは最高のものであり、最高値(テスト誤差範囲内)との比較でわずか1J/cm2低かった。また、われわれの29.8J/cm2 p偏向LIDTは、2012年に提出されたサンプルの最高成果であった。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/11/LFWJ1611ft5.pdf