最先端技術の進歩を支える冷却赤外線検出器

クレア・ヴァレンティン

赤外線(IR:infrared)イメージング技術の進歩によって、防衛、セキュリティ、研究、生物医学、製造の分野に新たな機能や用途が生まれている。特に、ピクセルピッチとパッケージの進歩は、冷却赤外線検出器の進化を促進している。

冷却赤外線(IR)検出器は何十年も前から、防衛システムにおいて脅威を検知、認識、識別する能力を高めるための主要な要素だった。この種のセンサは夜間でも動作可能であることから監視目的に広く利用されており、宇宙ベースの防衛と地上防衛の両方の分野で活用されている。
 今日では、携帯型のサーマルイメージング機器(HHTI:HandHeld Thermal Imager)、無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)、小型ジンバルといった小さなサイズの製品が登場し、さらにコンパクトで消費電力の低い冷却IR検出器に対する需要が高まっている。エンドユーザーは、信頼性や性能はそのままで、使いやすく、冷却時間が短く(5分以内)、携帯性に優れ、ノイズ音が低い機器を求めるため、メーカーはさらなる技術的進歩に力を入れている。

SWaPの検討

現行世代の検出器、冷却器、読み出し回路、近接センサボードのすべてに、サイズ、重量、消費電力(SWaP:Size,Weight, and Power)を削減するための技術革新が盛り込まれている(図1)。
 SWaPを削減することの最大のメリットは、物理的面積と重量が明らかに減少することである。これによって携帯型IR検出器システムの全体的なフットプリントが縮小し、ここ数年で20%小さくなった。携帯物が1kgでも増えると負担が増す兵士にとっては、リュックの中身が減るので非常にありがたい。部品の小型化によってUAVの積載量にも余裕が生まれる。しかしそれでも、IR検出器(焦点面アレイ[FPA:Focal Plane Array]と冷却器と電子部品)は今後、体積と重量を少なくともさらに30%削減することが求められている。
 ふたつめのメリットは、各部品の消費電力が低いこと(3W未満)から、携帯型システムのバッテリ動作時間が長くなることである。これによって兵士は携帯する予備のバッテリ個数を減らしたり、任務時間を延長したりできる。今後の目標としては、IR検出器の消費電力を少なくとも25〜30%低下させることが求められる。
 最後に、信頼性が高くなることから、任務を中断することなく実行できるようになる。定期的な保守にかかるコストは、瞬く間に膨れ上がる。同程度に重要な項目が、検出器の設計である。これを最適化することにより、製造コストが低下し、製造歩留まりが高まる。

図1

図1 VGA、15μmピクセルピッチ、デジタルインターフェース搭載の中波長赤外線(MWIR:mid-wave infrared)検出器。SWaP(サイズ、重量、消費電力)が最適化されており、重量は0.40kg、冷却時間は3分20秒となっている。

さらに高い画像解像度を求めるトレンド

特に可視光領域を対象とするイメージング装置は、高精細度(HD:High Definition)の画像フォーマットと相まって、さらに高い画像解像度へと大きく進歩した。数年前までは、30μmに続いて15μmのピクセルピッチが、IRセンサにおける最先端技術だと考えられていた。しかし、ピクセルピッチ技術がさらに進化を遂げて10μmに達したことで、冷却IR検出器は現在、さらに高い画像解像度と高画質の両方を実現できるようになっている(図2)。
 ピクセルピッチが10μmの赤外線検出器は、システムレベルで得られるメリットを活用して、高性能用途をターゲットとする。ピクセルピッチの小さいHD画像フォーマットは、あらゆる用途に対してシステムレベルでのレンジ改善、小型化、軽量化といった重要なメリットを間違いなくもたらす(図3)。
 ピクセルピッチ15μmのVGAから、10μmのXGAまたはHD720に画像フォーマットを変更すると、解像度とレンジ(検知、認識、識別[DRI:Detection,Recognition, Identification]の正式な範囲、DRIレンジ)が高まるか、または視野が広がる。例えば、15μmピクセルの検出器をベースにf/2の光学部品を搭載するシステムを使用している場合、ピクセルピッチが縮小されれば、システムサイズをさらに小さくするか、識別性能を引き上げることができる(図3)。
 別の例として、DRIレンジを60%向上させるには、光学部品を再設計して焦点距離と瞳径を33%増加させることにより、f/2の焦点距離値と1280×720の場合で、ピクセル数がVGAの2倍の画像を生成することができる。
 DRIレンジを30%向上させる場合は、同じ光学特性(同じ焦点距離値と瞳径)で、視野は33%広くなり、ピクセル数はf/2でVGAの1.5倍となる。
 また、システムサイズをさらに小さくするには、同じ視野の光学部品を再設計することによって焦点距離を33%短くすることができる。
 監視、赤外線捜索追尾(IRST:InfraRed Search and Track)システム、認識、照準ポッドには、大型フォーマットの検出器が使用される。これらの戦術的な用途は、保守周期の影響が非常に大きく、任務に必要な稼働時間との関連で保守時間の確保が厳しい場合もある。また、冷却器や真空装置を頻繁に修理しなければならないとすれば、保守コストは瞬く間に膨れ上がる。

図 2

図 2 10μmピクセルピッチのHD(高精細度)MWIR検出器。空中、海上、地上の軍用機を含む、16:9のHDフォーマットを必要とする用途向けに設計されている。

図3

図3 10μmピクセルピッチを採用することで、IR冷却検出器の性能の柔軟性が高まる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/11/LFWJ1611ft4.pdf