臨床ケア向上を超えてOCTの経済的インパクト

エリック・A・スワンソン

光コヒーレンストモグラフィ(OCT)産業は、最初の25年間で大きく発展している。患者の臨床ケアにおけるプラスの影響は、OCTの成功を測る上で最も重要なことである。それだけでなく、職、税収、医療費削減への貢献も特筆すべきものがある。

光コヒーレンストモグラフィ(OCT)分野は、1990年代初めの発見以来大きく発展している。25年間続いているOCTの商業化、発展は科学的、臨床的、経済的に大きなインパクトをもたらしている。この成功には、多くの素要が関与している。様々な分野の診断や治療において、新たな費用対効果、高解像度、最小限の侵襲的イメージングソリューションへの臨床的ニーズが登場している。しかし同時に、この成功に対する重要なこととして、科学者、エンジニア、臨床医、職能団体、政府機関、政府からの資金援助、取締機関、起業家、ベンチャーキャピタル、生体医療光学産業やそれ以外の中小・大企業が絡む世界的なエコシステムが挙げられる。
 OCTのインパクトを観察、定量化する方法はいくつかある。眼科学の歴史においては、OCT以上に速く導入されたイメージング技術はない。OCTはまた、心臓病学、消化器病学、皮膚科学においてますます重要な研究、臨床ツールとなっている。
 眼科学では、OCTスキャンが年間約3000万回(1秒に約1回)実施されている。これは、陽電子放射断層撮像(PET)、コンピュータ断層撮像(CT)、磁気共鳴画像診断法(MRI)などのメジャーなイメージングモダリティと同等の頻度だ。眼科用デバイスの開発元である米オプトビュー社(Optovue)の創業者でありCEOでもあるジェイ・ウェイ氏(Jay Wei)は、「患者への臨床的恩恵と、医療機関へのワークフローは、社会に大きな影響を与えている」と述べる。
 心血管疾患は世界の死因第1位であり、心血管のOCT診断は年間10万件以上実施されている。これにより、心血管疾患の理解が進み、新たな機器の開発や介入において重要となり、日常的な臨床の意思決定に多く使われるようになっている。
 OCTは、死因第2位であるがんのいくつかの種類の理解、治療においても重要な役目を果たしている。

投資のリターン

政府による資金援助はOCTの発展のキーであり、将来においても重要だろう。この技術は、より広い医療分野を発展させる可能性を秘めているが、多くの分野で研究上あるいは開発上のリスクによって商業的な勢いが抑えられている。
 世界中の政府は、OCTの研究に過去10年間で合計5億ドル以上を投資している(1)。参考文献1に記載されている、政府からのOCT関連研究への補助金の多くはOCT技術開発向けではなく、研究分野におけるOCT使用向けのみであることは言及すべきだ。過去25年間において、OCTの論文が劇的に増加している様子を図1に示す。臨床の市販用製品の販売が、論文掲載数増加の明らかな触媒であることを意味するものだ。
 OCTシステム(生体認証を含む)の販売による2015年の売上は年間7億5000ドルと推定される(www.octnews.org)。今では、100以上の企業がOCTのシステムや部品を供給する。1996年に最初の市販用製品が販売されて以来、全OCTシステム(部品は含めない)の販売額の累計は52億ドルを超える。
 OCT研究への過去10年間にわたる政府の資金援助と、OCTの商業化による雇用関連税、法人税、その他の税からなる全税収を比較することは興味深い。この比較によって、政府の援助する研究における対価の一面を示すことができる。
 当然ながら、対価にはより重要な面が他にも多くある。多くの医療分野にわたる臨床的な理解や臨床ケアの向上は最も重要なものだ。この結果として、OCT診断を受けた数百万人、あるいは将来受けるであろうそれ以上の人々の、生活の質が向上する。
 OCTシステム企業の従業員によるOCTシステムサプライヤーが、直接的または間接的に政府の財源に支払う全税収を推定することは困難だ。連邦、州、地元自治体にわたって、税金には多くの種類があり、委任税務代理人も多い。例えば、米国は以下のものに課税する。法人利益、個人収入、社会保障制度、メディケア・メディケイド、失業保険税、連邦社会保障税(FICA)、販売税、消費税、輸送税、関税、その他多くだ。
 税金を推定するにあたり、参考として英プライスウォーターハウス・クーパース社(PricewaterhouseCoopers)のフレームワーク(2)を使うと、企業が負担する直接の税と、OCTサプライヤーの収益基盤からの法人税と個人所得税向けの企業から集められるパススルー課税の合計は5億ドルを超える。サプライチェーンの税と、間接的な雇用における税は、政府にとってさらなる歳入だ。
 同じほどのインパクトは、医療費の大幅な削減である。OCTの発案者の一人である米オレゴン健康科学大(Oregon Health & Science University)のデヴィッド・ファン博士(David Huang)は、「OCTは医療費を大幅に削減する。加齢黄斑変性症における抗血管内皮成長因子治療だけでも、不要な注射を避けることで年間数十億ドルを節約する」と話す(3)。
 税による、納税者投資から政府財源という素晴らしいリターンだけでなく、OCT市場が創出する直接的または間接的なOCT職の数字を推定することも興味深い。

図 1

図 1 1991年から2015年までの、OCTに注目したピアレビュー論文掲載数。眼科学と心臓学で明らかであるように、市販用製品の販売がしばしば論文掲載数増加のきっかけになる(ここで示す以前に、特定分野に絞ったOCT製品が登場したが大きな販売数とはなっておらず、それらの製品を販売した企業のいくつかはすでに存在していないことに注意)。

雇用インパクトを定量化する

OCTが雇用に与えたインパクトを推定するため、システムや部品の販売に関与する70社に、OCT製品の取り扱いを始めた年から1年ごとの「OCTに直結する」雇用統計資料の提供を依頼した。ここには、OCTに関連する職のあらゆる分野(R&D、エンジニアリング、製造、マーケティング、販売、一般、経営)を含めた。要望があれば秘密保持契約(NDA)に署名した。
 OCTのみを扱う企業は従業員の100%を報告し、複数の製品分野を扱う企業はOCT製品に直接関与する従業員の人数を割り出すよう依頼した。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/11/LFWJ1609bio.pdf