マルチバンドコートフィルタが科学応用の性能基準の見直しを迫る

アランナ・ヨハンセン、ランス・フォーテンベリー、ピーター・エガートン、マイク・スコベイ、アンバー・チャイコフスキー

薄膜技術の進歩により新しいタイプのマルチバンドコーティングが可能になった。これにより、メーカーは競争力のある価格で改良された性能を提供できるようになっている。さらに、性能基準を見直し、様々な領域でイノベーションを促進するマルチバンドフィルタが可能になる。

マルチバンドフィルタは、固有の光学的諸問題を解決する様々なタイプに分類できる。個々のタイプには、それ独自の一連の製造課題がある。これが、実際に達成できるものの制約となっており、また薄膜製造工程の信頼性に影響を与えている。マルチバンドフィルタの科学的、産業的アプリケーションを理解することで様々なフィルタタイプや製造可能性がさらによく理解できる。

マルチバンドフィルタアプリケーション

全てのマルチバンドフィルタの共通点は、多波長ではあるが明確に区別できる波長域、一般にはUVから中赤外(MWIR)、すなわち280nm〜5μm程度の波長域を、その間の帯域を阻止しながら、透過する能力である(1)。この櫛状のスペクトル構造を示すマルチバンドフィルタは、様々な屈折率の材料層を基板に交互に堆積することによってできるハードコート、誘電体薄膜光学フィルタのサブセットである。
 マルチバンド光学フィルタは、ライフサイエンスのアプリケーションにとって重要である。蛍光顕微鏡では、単一サンプルでマルチ蛍光タグを同時検出するためにマルチバンドパス励起とエミッションフィルタが、多色ビームスプリッタとともに使用される。この分野では、新しいタイプの切り替え可能単色LEDやレーザ光源など、継続的な進歩がハイパフォーマンスマルチバンドフィルタの需要を後押ししてきた。こうしたマルチバンドフィルタは、極めて透過率が高く(93〜98%)、ディープブロッキング(光密度>OD5.5計測、設計では>OD8)であり、バンド間の遷移は急峻(<1%に迫るほぼ垂直のスロープ)である。
 レーザ蛍光とラマン分光アプリケーションにおけるさらなる進歩がハイパフォーマンスマルチノッチフィルタ需要の原動力になっている。こうしたフィルタは、マルチレーザラインを同時阻止しながら高帯域透過を維持する。蛍光体にエネルギーを与えて励起状態にするのに必要とされるレーザ光の量は、帰還ラマン信号レベルよりもはるかに大きい、これは励起波長の4乗に逆比例する。場合によっては、このことの意味は、励起強度よりも1012小さな蛍光マーカーを検出するということである。これは、レーザ波長の減衰の深さ(>OD6)によって達成される。ノッチエッジが十分に急峻でない場合、励起モードと放出モード間の波長の近さのためにレーザ波長に近い信号は失われる。
 ハイパフォーマンスマルチバンド薄膜におけるこのような躍進から恩恵を受ける他の分野は多く、これにはリモートセンシング、レーザブロッキング、半導体製造、産業用モニタなどが含まれる。例えば、ローパスバンドリップルであり、デュアルバンドからウォータバンド(2.7μm)における原則ゼロ吸収のIRフィルタは、気候の変化をモニタすることができる(図1)。こうしたフィルタの製造には、非常に安定したコーティングプロセスが必要になる、ほとんどの従来プロセスは堆積中に微量の水を含んでいたり、多孔性のためにコーティング後に水を吸収する傾向があるからである。
 パスバンドが10以上のフィルタから、特殊スペクトル形状に適合するように設計された精密薄膜コーティング、マルチパスバンドにわたり群遅延分散をコントロールするように設計されたフィルタまで、新しい技術が「マルチバンド」という用語を再定義しようとしている。
 マルチバンドパフォーマンスは、バンドの数、スループット、ブロッキングレベル、スペクトルエッジの急峻さに関して継続的に改善されている。いろいろな意味で、マルチバンド光学フィルタは今では、古典的なシングルバンドデバイスと競争している。同じフラットトッププロファイル、連続的なディープODブロッキングで肩を並べているので、設計者は、光学システムをよりコンパクトに、効率的にできるようになっている。
 マルチバンドフィルタの設計と製造は、シングルバンドの場合を考えても簡単なことではなく、建設的干渉/相殺的干渉原理の高度な理解、材料堆積をモニタし制御する精緻なプロセスを必要としている。米アラクサ社(Alluxa)では、マルチバンドフィルタを広く5つに分類している。①広帯域、②狭帯域、③エッジダイクロイック、④ノッチ、⑤任意のスペクトル形状を持つフィルタである。バンドの数が増えることで、各フィルタクラスに特有な複雑さが加わり、製造プロセスにおける変動主要因を考慮する必要が出てくる。

図 1 

図 1 気象変化モニタに使用されるデュアルバンドIRフィルタは、ウォータバンドにおける吸収が無視できる程度であり、低パスバンドリップルである。

マルチ広帯域フィルタ

20〜50nmの相対的に広いバンド幅をもつマルチバンドフィルタが、ライフサイエンスアプリケーションで普及しており、そのような例の1つとして、バイオイメージングシステムがある。このようなシステムでは、励起と放出のためにマルチ照射帯域が必要になる。
 透過はパスバンドで90〜95%の平均値となり、一方平均ブロッキングレベルはバンド間でOD5〜OD6である。一般的に、マルチバンドフィルタでは、パスバンドと阻止バンド間の遷移は波長の2〜3%であるが、もっと狭いスペクトル遷移も可能である。
 励起チャネル(EX)とエミッションチャネル(EM)は、干渉原理に由来する薄膜堆積法により相互に分離して製造されるが、連係動作するように仕様化されている。マルチバンドEXフィルタとEMフィルタは、透過チャネルと阻止チャネルの戦略的な配置を必要とする。これは製造中に維持される必要がある。すなわちエッジ位置の制御と精度が、システムの各バンドおよび各フィルタにとって重要である。エッジの位置は、高OD阻止から高パーセンテージT(カットオン)への中点遷移を規定、あるいは逆に、高い透過からディープOD(カットオフ)への遷移を規定しており、これによって各チャネルの境界が確定される(図 2)。
 EX/EMバンドのオーバーラップ、あるいはバンド間の不十分な阻止によってシステムにおける不要なクロストークが生ずる、これは設計段階で考慮し対処する必要がある。バンド間のODレベル全体が>OD6となるのが望ましいことを確認すべきである。ただし、>OD5も場合によっては許容される。
 カットオン/オフポイントの厳格な制御は、精密なモニタリング法によって達成される。ここでは誘電材料の個々の層が高(H)屈折率層と低(L)屈折率層を交互に堆積する際に、個々の層が計測されリアルタイムで調整される。最新のモニタリング技術で層の誤差をその場で修正することができる。これは、HL材料不整合の影響、波長に対する透過レベルの望ましくない変動であるリップルなど、一般的な製造誤差の除去にも役立つ。

図 2

図 2 フルマルチバンド蛍光フィルタセットを示している。ハイパフォーマンス5バンド励起(EX)、エミッション(EM)、およびマルチクロイックフィルタで構成。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/11/LFWJ1609pp1.pdf