新しいレーザビームデリバリファイバ

ジェフ・ヘクト

細心の注意を要する手術から高出力レーザ加工装置まで、光ファイバは必要なところに光をデリバリする。新しいファイバは、ハイパワー超高速パルスを含む一段と要求の厳しい課題に対処可能である。

「光ファイバ伝送が私の命を救った」とある地質学者が数年前に話してくれた。光ファイバによって医師は、別の方法では不可能だった、細心の注意を要する頭蓋骨内の手術を行うことができた。その話の詳細は思い出せないが、生きていることの彼の喜びを今でも共有している。
 光ファイバビームデリバリの結果が、それほど劇的なことはめったにない。したがって、その重要性は簡単に過小評価される。腹腔鏡手術から溶接までの作業はレーザビームの精密な動きを必要とする。以前は、歯科用ドリルに似た大きな多関節アームが必要だった。現在は、手術室では熟練した医師の手が柔軟な光ファイバを容易に、正確に操作できるようになっている。あるいは製造ラインでは、光ファイバはプログラムされたロボットアームによって操作される。新しいファイバ設計は、さらなる改善を約束するものである。

パワーと柔軟性

ファイバビームデリバリは、1990年代に登場した。ファイバは、コア径が大きなステップインデクスマルチモードファイバで、連続波(CW)、ハイパワーダイオード、固体レーザからの光を産業アプリケーション向けにデリバリするものだった。ロボットアームは、加工対象全域にファイバ先端を動かすことができ、レーザと加工対象は固定のままでよかった。ファイバビームデリバリは、ファイバレーザが産業用パワーレベルに達したときに、自然にファイバレーザに適合するものとなり、今では、キロワット範囲までのCW出力を利用する多くのアプリケーションで標準となっている(1)。
 最も広く使われているビームデリバリファイバは、ピュアシリカで、コア径100μm、NA 0.22程度、外径360μmである。ビームデリバリに広く用いられる他のファイバは、コア径が数μmから1mmのものがある。現在の課題は、厳しい要求に対処できる新しいファイバの開発である。これには、高いピークパワーの超高速パルス、デリバリビームを厳しい要求に適合できるように調整することが含まれる。

フラットトップデリバリファイバ

SPIEフォトニクスウエスト2016で、米ヌーファン社(Nufern)のクレメンス・ジョイベ氏のチームが、モードをかき混ぜてシングルモードをフラットトップ出力ビームに変換する新しいタイプのファイバを発表した。コア径50、100、200μmのファイバでは、ビームパラメタ積2、4、8mm-mradのフラットトップ出力ビームとなった(2)。図1は、フラットトップファイバを示している。その100μmシリカコアは、未知のモードミキシング要素を含んでおり、より低い屈折率、フッ素ドープ層およびピュアシリカクラッドで囲まれている。モードミキシング要素を加えることで、ファイバの減衰がわずかにピュアシリカを上回っていたかも知れないが、損失は750~1330nmの範囲で5dB/km以下であり、ピュアシリカコアファイバのロットごとの変動幅に収まっていた。ファイバは、ファイバに入力されるシングルモードレーザ出力をBPP 3.8mm-mradのフラットトップビームに変換することができた。標準ビームデリバリを同じ光源に結合したとき、出力はBPP 2.6mm-mradだった(図2)。フラットトップファイバは、マルチモードレーザ光源のビームプロファイルも滑らかにした。
 ヌーファン社のジェフ・ヴォトキヴィ氏(Jeff Wojtkiewicz)は同社がフラットトップファイバを「新技術として提供しており、まだ標準製品としてではない」と話している。

図1

図1 フラットトップビームデリバリファイバの構造(提供:ヌーファン社(2))。

図2

図2 シングルモードレーザ光源の出力、上方の標準デリバリファイバ通った後と下方のフラットトップファイバを通った後の比較。ビーム均一性の著しい違いに注目(提供:ヌーファン社(2))。

中空フォトニック結晶ファイバ

CWビームでは効果があるソリッドコアシリカファイバは、高いピークパワーの超高速パルスのデリバリにはあまり適合していない。シリカは、光学損傷が起こりがちで、高い色分散があり、強い非線形性の影響を受ける。
 代替の1つに、反射が大きくなるように内部に金属被覆した中空ガラスキャピラリを使ったビームデリバリがある。実際にフェムト秒パルス伝送が行われたが、中空が曲げ損失の影響を受けやすく、可視や近赤外アプリケーションには厳しいことが判明した(3)。
 もう1つの代替は、中空フォトニック結晶ファイバのコアに沿って光を導波するフォトニックバンドギャップの利用である。2005年の実験では、記録的な低減衰1.7dB/kmを達成した(4)。しかし、1%程度のコア導波モードがクラッドと重畳しており、閾値をレーザ誘起損傷まで下げることになるので、強力な超高速パルスでの利用は制限される。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/07/LFWJ_Jul16_P022_025feature03.pdf