フェムト秒時間尺度で測る超高速光サンプリングスコープ

アルブレヒト・バーテルス、トマス・デコージィ

非同期光サンプリング(ASOPS)と呼ばれる超高速光学時間領域分光に対するアプローチの改善により、オプトメカニカル時間遅延がマスター /スレーブ構成と組み合わさった非同期パルスに置き換わる。

技術の進歩によって、日常生活を支配する多くの機能オブジェクトの規模が時間とともに微小化している。結果的に、研究者やエンジニアがミクロな、果てはナノスケールの長さで物理過程の動力学の理解を高めることが肝要になる。このことは、コンピュータチップのトランジスタレベルでの伝熱や放熱、また、太陽電池、フレキシブルスクリーン向けの有機半導体などのプロセスについての知識を含む。さらには、新しい光原子時計で使用される原子雲などの電磁場に浮遊しているメゾスコピック物体における動力学についての知識も含まれる。
 関連する時間スケールは、10fsから数100psまでの範囲となることがよくあり、カメラ、オシロスコープなど要求時間分解能がサブピコ秒の測定器では簡単にアクセスできない。研究者は、これまでは代わりに、光相関技術を用いて超高速時間領域分光学(TDS)に役立てていた。その技術は、極短レーザパルスを使って対象に非平衡状態を作り、さらに第2の時間遅延パルスを使って、所定の励起後に励起に対するサンプルの反応の瞬間画像を記録する。この方式が、繰り返し、しかも時間遅延を変えながら適用されると、データをスティッチしてサンプルの反応「映像」(ムービー)を作ることができる。

従来のアプローチ

超高速光TDSへの古典的アプローチでは、1個のパルスレーザとビームスプリッタを使って、空間的に分離したビームでポンプパルスとプローブパルスを作る。1つのパルスが、相対的な飛行時間(TOF)調整ができる可変長のパスを進み、次に両方のパルスがサンプルに到達する。ほとんどの場合、タイミングは、移動範囲が数センチから1mまでの機械的平行移動ステージのレトロリフレクタでコントロールされる。
 これらのステージには問題があり、扱いにくい。と言うのは、これらのステージは大きな時間軸調整誤差、残留調整不良、また移動中のピッチやヨーによるビームウォークオフが生ずる傾向があるからだ。300μradミスアライメントあるいはピッチ、これは最先端のステージで非常に現実的な値であるが、これは1/1000程度のタイミング(その結果、周波数)エラーとなり、サンプルにおいてハーフビーム径でポンプとプローブビームのウォークオフが生じ、大きな画像の乱れとなる。
 さらに、データを急いで(つまり、動作中に)採ると遅延段階ではノイズが加わり、データポイント間で音響雑音を避けるために増速、減速する必要があるならば、それは時間の無駄になる。このデッドタイムは、ステージの大きな物理量を思い通りに速く動かせないという事実とともに、基本的にその計測速度を制限する。したがって、急激に変化する環境あるいは物理的条件(例えば、パルス磁場、あるいは急激な温度または圧力変化)、あるいは動的現象の探求下での計測は不可能であり、超高速光学TDSは、不当に長いアクイジションタイムを必要とする。

ASOPS

非同期光サンプリング(ASOPS)は、上記の問題を回避する超高速光TDSへのアプローチである。これは、1987年にピコ秒レーザ(1)を用いて開発され、繰り返しレートfR 1GHzのフェムト秒レーザ2台を利用してフェムト秒の世界にもたらされた。これは、わずかなオフセットΔfR2があるマスター /スレーブ構成としっかり組み合わさっている(2)。このオフセットは、通常は1~10kHzの間であり、これがレーザからのパルスペア間の遅延の原因となる。したがって、個々のショット、例えば10fs at ΔfR=10kHzで、Δτ=ΔfR/fR2だけ増加する。
 そのレーザが次にポンプやプローブレーザとして使用されると、時間遅延が自動的に生じ、ポンプとプローブパルスペア間の遅延Tは、リアルタイムtの関数として、リニアランプτ=t×ΔfR/fRを経験し、ΔfRによって与えられるレートで自らを複製する。図 1は、テラヘルツTDSセットアップの原理を説明している。レーザは今度は、移動ステージが不要であるということを除いては、古典的なセットアップで使われる。時間精度はここでは、繰り返しレートオフセットを計測し安定化させる能力によって決まる。10万分のいくつかのレベルの不確かさが達成されるが、これは一般には機械的な遅延生成器よりも数ケタ優れている。
 ASOPSアプローチの重要な特徴はスピードであり、これによって機械的な遅延生成器では不可能なアプリケーションが可能になる。典型的なシステムは、1-ns長TDSトレースをサブ100-fs分解能でスキャンする、アクイジションタイムは100μsと短い。比較すると、同じ結果を得るには、移動ステージは平均速度1500m/sで5cm移動しなければならない。このことは、ユーザーが自由にシングルショットでデータを高速に連続取得できること、また任意の数のスキャンをアベレージングして信号対雑音比(SNR)を強化できるということである。ASOPSのさらに良い点は、古典的セットアップでは非常に時間のかかる作業、経時ゼロ点を探す必要がないことである。
 ASOPSがその利点を示すアプリケーションは、過渡的差分反射データに基づくウエハマッピング、テラヘルツ分光、過渡的マルチテスラ磁場の分光である。

図 1

図 1 ASOPSベースのテラヘルツ-TDS実験の光学的レイアウトでは、1つのレーザパルストレインがテラヘルツ照射のエミッタを励起し、二番目がテラヘルツパルスを光ゲートディテクタでプローブする(サンプルとの相互作用後)。繰り返しレートオフセットの結果、各パルスペアの信号の様々に進むデータポイントをプローブレーザがサンプリングする。

ウエハマッピング

ウエハ計測あるいは多層ナノ構造の成長モニタリングの一般的な方法は、レーザ誘起ピコ秒超音波の利用である。この場合、強いレーザパルスが熱線(即ち、高周波超音波)をサンプルに送り込むが、通常は金属トランスデューサを介して行う。すると、埋め込みインタフェースから戻るエコーがサンプル面の反射率変化により検出される(3)。この技術を用いて、製造後の成長の均一性を調べるためにX線ブラッグミラーをマッピングした。ミラーは、シリコンウエハにスパッタリングした60のシリコン/モリブデン(Si/Mo)層で構成されている。名目的なレイヤ周期は6.8nm、スタック全体の厚さは408nmである。
このサンプルの反射特性は図2aに示している。最初のピークは時間ゼロでの励起パルス。それに続くリンギングは、内部スタック界面からの多重反射の干渉特性であり、多層周期は振動数から計算できる。
 130psディレイ付近のエコーは、ミラーと基板の界面から来るもので、スタック全体の厚さを示している。ウエハエッジでは、50×50ピクセルエリアを200μm間隔でスキャンした。結果として得られるミラー周期分布は図2bに示した。詳細な分析から、スタック中央の変動は0.1nm以下であることが分かっている。また、エッジ方向への成長の不均一のために、大幅な周期縮小も明らかになっている。この2500ピクセル画像に必要なアクイジション時間は4時間程度(6秒/ピクセル)だった。これは長いように見えるが、比較すると、移動ステージでの計測なら総アクイジション時間は2日程度となっていたはずだ。多量マッピングアプリケーションには4時間は不十分かも知れないが、それでもASOPSはピコ秒超音波に基づくウエハマッピングへの実際的適用では差をつけている。

図 2

図 2 X線ミラーの反射率変化は、次の光学的励起の後にプロットされている(a)。高速振動の周波数(挿入図)は、ミラーの構造周期を示している。130ps付近のエコーの位置は、スタック全体の厚さを示している。ウエハエッジ近傍のX線ミラー周期のマップは均一性および成長プロセスにおけるエッジ効果を示している(b)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/07/LFWJ_Jul16_P018_021_feature02.pdf