光音響の商業化による広範な恩恵

キャシー・キンケード

レーザによる光音響イメージングが実現する組織深部の機能的可視化は比類なきものである。レーザが発展することで、高度に波長可変できる非侵襲的ツールが商業入手できるようになりつつある。このツールは、広範なアプリケーション、ひいては患者に大きな恩恵をもたらすだろう。

生体医学イメージングは大きく前進しており、裸眼では見えないものを可視化する方法を向上したいという要望をかきたて、そして実現している。X線や超音波から、共焦点顕微鏡法や光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)まで、それぞれの新たなモダリティ(撮画手法)は、われわれの身体を詳細に調べるための解像度、範囲、機能性の間でほどよいバランスが取れている。

組織深部に向けた二重奏

当然、あらゆるモダリティには制限がある。光学技術は光散乱によって実現するが、捕捉できる情報量や作成できるイメージの質が制限されてしまう。しかし、光音響イメージングは2つの世界を組み合わせることで、この制限を克服し、比類なき恩恵をもたらす。音響信号の光刺激によって、組織深部の構造や機能をマルチスケールで高解像度、かつ非侵襲的にイメージングすることが可能だ。「身体の内部を知るのであれば、650~1000nmの赤外線が必要だ。赤外線ならば、ヒトの身体表面から数cmの深さのことがわかるだろう。これは相当の深さだ」と、米オポテック社(Opotek)のCEOであるイーライ・マーガリス氏(Eli Margalith)は述べる。オポテック社はNd:YAGで励起する光パラメトリック発振器(OPO)を光音響イメージングシステムとして、研究機関や機器製造業者に提供している。音響信号を作るのにOPOを使用するため、多くの光音響イメージングシステムで波長を可変できる。そのため、一つのデバイスで複数のアプリケーションが実行可能だ。「光音響イメージングは、MRIやCTスキャンに置き換わる可能性を大きく秘めている」と、仏カンテル・レーザ社(Quantel Laser)の社長であるパトリック・メーヌ氏(Patrick Maine)は述べる。カンテル・レーザ社は、オポテック社のOPOで使用されているNd:YAG励起レーザを製造している。「この技術によって高解像度が可能となり、これがもたらす研究に強い関心をもっている。研究所から臨床アプリケーションに移行する始まりだと見ている」。
 光音響効果は、1800年代にアレクサンダー・グラハム・ベル氏(Alexander Graham Bell)によって発見されたが、技術として利用されるには1世紀を要した(1)。光音響イメージングでは、生体組織で超音波を発生させるために短パルスレーザが使用される。レーザのエネルギーが標的組織に照射されると、組織は加熱されて膨張し、音響信号が発生する。音響信号を再構成して、標的組織内の光学収差の分布を表示する。
 生体組織における超音波の散乱係数は、光学によるものと比べて振幅強度が2ケタも3ケタも小さい。そのため、高解像度の光学コントラストイメージングで見られる光拡散の限界(皮膚では1mm以下)を、光音響イメージングでは克服できる。散乱光子、非散乱光子どちらでも光音響信号を発生できるため、光音響波は組織深部の数cm、現在は1~7cmで発生できる(2)。その結果、深部組織が吸光する構造を、バイオマーカーを必要とせずに、光学的な手法よりも優れた解像度で検出、可視化できる。

機能を明らかにする比類なき性能

「重要なことは、光音響イメージングから機能性が得られることである」と、マーガリス氏は述べる。「超音波を用いれば、形態、異なる器官に関する情報、それらがどこにあるかわかるだろう。しかし、機能に関する情報は全く得られない。超音波と同時にレーザを用いれば、機能性が主な根拠となる。例えば、リアルタイムで血液の酸素化レベルを測定できる。他のイメージングモダリティでは決してできないことだ」。
 これを受けて、生体医学研究コミュニティは数十年もの間、光音響イメージングの可能性について期待を寄せている。前臨床アプリケーションには、非蛍光色素、血管形成、微小循環生理学、病理学、スクリーニング用の薬物応答、脳機能、血管内カテーテルのイメージング、化学療法のモニタリング、血流や血液の酸素化のイメージングが含まれている(図1~3)。
 例えば、米ワシントン大生体工学の教授であり、光音響イメージング技術開発のパイオニアであるリーホン・ワン氏(Lihong Wang)は、脳研究に大きく踏み込んでいる。彼の研究には約5000万ドルという資金が提供されており、そこにはBRAINイニシアチブの一部として3年間で270万ドルが含まれている。彼の研究室は現在カリフォルニア工科大に移ったが、機能的光音響トモグラフィ、3D光音響顕微鏡法、光音響内視鏡検査などを最初に報告したとされている。2015年の春には、さらなる光音響学のブレークスルーを発表した。マウスの頭蓋骨を傷付けることなく、脳の毛細血管1本を可視化し、血液の酸素化を見るというものだった。

図 1

図 1 皮下腫瘍におけるチロシナーゼレポーター下で発現するメラニンの光音響イメージ(ビジュアルソニックス社提供)。

図2

図2 マウス後肢における皮下KB腫瘍の、超音波(グレースケール)と光音響のイメージを重ねたもの。光音響イメージでは、ナノ粒子の微小分布(黄色)、還元ヘモグロビン(青)、酸化ヘモグロビン(赤)を示す(ビジュアルソニックス社提供)。

図 3

図 3 マウスの耳における血管の光音響イメージ。血管の酸素飽和度のマップを示している。赤では酸素飽和度が高く、青では酸素飽和度が低いことを示す(ビジュアルソニックス社提供)。

市場の登場

開始は遅れたものの、光音響イメージングの商業化がいよいよ勢いづいている。光音響学のパイオニアであるアレクサンダー・オラエフスキー氏(Alexan der Oraevsky)が設立したスタートアップの米トモウェーブ社(TomoWave)は、乳房をイメージングするレーザ・光音響・超音波イメージングシステムアセンブリ(LOUISA)を商品化した。このシステムは、レーザによって発生する超音波を共起させ、3Dフルビューの光音響トモグラフィを作成する。機能的、解剖学的なマップを高感度かつ高解像度で作成したうえで、アーチファクトやゆがみを最小限に抑える(3)。そして、オラエフスキー氏の最初の主要な特許に対する権利を獲得した米セノ・メディカルインスツルメンツ社(Seno Medical Instruments)は、この特許に基づいたハンドヘルドの2次元光音響・超音波デバイスの商業化をリードしている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/07/LFWJ1605_P40-43_bo02.pdf