分光光度計、ハイエンドハードウエアの現状

井上 憲人

分光光度計は、材料の反射率、透過率を計測する測定装置。このような測定を必要とする光学材料、光学部品には、ディスプレイ材料、ガラス、太陽電池、メタマテリアルなどがある。計測機器に求められることは、まずは精度であるが、測定が生産現場に近くなればなるほど、生産性が重視されるようになる。

多角度可変自動測定分光光度計

現状の分光光度計のハイエンド製品は、アジレント・テクノロジー社によると、同社が2013年に製品化したCary 7000UMSであると言う(図1〜3)。UMS(Universal Measurement Spectrophotometer)のユニバーサルには「万能、自在」の意味が込められていることは自明と言ってよい。この装置がユニバーサルであるのは、図1にあるように、Cary 7000の右前に装着されているアクセサリUMA(Universal Measurement Accessory)に負うところが大きい。ここに、サンプルを設置するステージと検出器が内蔵されている。測定時の「多角度可変」も「自動測定」もUMAによって可能になる。
 この装置の主な特徴を、同社営業本部市場開発グループ、マーケティングマネージャー、スペクトロスコピー担当、遠藤政彦氏は3つ挙げている。

1. 広い入射角度、検出角度の設定が可能
2. サンプルを着脱することなく絶対反射率と透過率両方の測定が可能
3. 紫外-可視-近赤外までの波長に対応

 特徴の1と2について、遠藤氏は、「サンプルをセットすると、6種類のモードを全自動で測定する」と説明している。特徴2の「サンプルを着脱することなく」の重要性については、「サンプルを置き換えることは、光学特性を見るポイントがずれる可能性がある。UMSの場合は、同じポイント、同じ光の特性で光学特性を計測する」。これは、従来のアプローチと比較すればUMSの優位性が一層明確になるポイント。例えば、「薄膜の光学特性解析」についてのアプローチの違いについてアジレントの説明は、次のようになっている。
 従来アプローチは、「相対反射アクセサリを使用して、決まった角度、いくつかの角度条件について測定する」。この場合、薄膜評価では、「得られた結果を絶対値に補正、限られた角度で測定されたデータから、それ以外の角度のデータを予測する」、また「透過率のデータ不足、あるいは制限されているため、推察による評価」となる。
 同社が指摘している「従来アプローチ」が、どのレベルの製品であるか、どの時代の製品であるかは明確ではないが、ここで問題になっているのは「測定角度」。Cary 7000 UMSは、「細かな角度制御と自動化により、絶対反射率と透過の両方を任意の角度で取り込むことができる」。
 「検出器の回転角度は、0.02°でコントロールできる。検出器は10〜350°まで、ステージの周囲を回転する、サンプルは360°回転する。任意の入射角での任意の透過または反射した光を測定できる」。言い換えると、補正や推察に頼らなくてもよいハードウエアである。
 全自動の威力について遠藤氏は、「データを取る時は、帰社前にセットしておけば、出社するとデータが取れている」と表現している。測定スピードも速いが、人手の介在も不要なので、人為的なミスもない。先進国の中では著しく労働生産性が低いことで知られる日本にとって、「生産性の向上」にも貢献する測定システムになっている。

図 1

図 1 Cary 7000 多角度可変自動測定分光光度計UMS。特徴は3つ。①幅広い入射角度および検出角度の設定が可能、②サンプルを着脱することなく絶対反射率と透過率両方の測定化が可能、③紫外-可視-近赤外までの波長に対応(190〜2800nm)。

図2

図2 ソフトウエア。Cary 7000 UMSには、Cary WinUVソフトウエアが付属している。図の左、円の中央にある長方形がサンプルを示している。0°から入射光をs偏光またはp偏光で入れ、円周上の方形が検出器を示している。図の右は分析レポート。データ表示は2Dおよび3D。ソフトウエアはモジュール式。要件に合わせたアプリケーションの構築、操作の簡略化、データ解析の拡張が可能であるため、ユーザーの生産性が向上する。絶対反射率、透過率測定の設定、サンプルや検出器の正確な配置ができる。

図3

図3 視覚化ツール。コーティングの入射角度と波長に対する依存性を視覚化、2D疑似カラー表示。例えば、1500nm(横軸)の反射率が最少となるのは、入射角(縦軸左Angle)が70°の時。反射率が最大、最小となる条件を視覚的に捉える際に便利。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/03/LFWJ1603_P14-15_marketwatch.pdf