レーザ市場は世界経済の低迷を乗り切れるか?

ゲイル・オーバートン、アレン・ノジー、デイビッド・A・ベルフォルテ、コナード・ホルトン

ほとんどの経済予測筋が、世界経済は低迷するという一致した見解を示している。しかし、レーザ業界は今日のレーザ技術が提示する魅力的な ROIとエネルギー効率によって、他業界から一歩抜きん出たセールスを維持できる可能性がある。

21世紀のイノベーションに向けて着実に前進する能力に加えて、国際光年の勢いを新たに味方につけたレーザ業界は、約3%という世界の国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)予測を実際に上回って、世界経済の低迷を何とか乗り切ることができるだろうか。できる、というのが本誌の見解だ。2016年の世界レーザ売上高は4.2%増加して105億ドル弱に達すると本誌は予測している。
 レーザ市場を「強い不安」を抱えた状態に陥れた2008〜2009年の世界金融危機の幕開けから、7年以上の歳月が過ぎ去った。株式市場は回復し、中には一時的ながら高値記録を更新したケースもある。英国FTSE 100は、2000年、2007年、そして2014年から2015年初頭にかけて7000弱という最高水準に近い値を達成した。上海証券取引所(SSE:Shanghai Stock Exchange)は景気後退後に約2000ポイントまで下落したが、2015年半ばには5000台に達するまでに回復した。
 2015年終わりのダウ・ジョーンズ工業平均株価(Dow Jones Industrial Average)は、1万8000ドルを突破したが(2009年には約7000ドルまで下落していた)、世界各地に問題の兆候がうかがえる。欧州は相変わらず高い失業率の問題に加えて、新たに難民危機を抱えており、米国では量的金融緩和政策が終了して、米国の非国防資本財受注が2015年の最初の10カ月間で3.8%減少し、金利上昇懸念がくすぶっている。そして11月の時点で中国財新(Caixin)の製造業購買担当者景気指数(PMI:Purchasing Manager’s Index)は、9カ月間連続で好不況の分かれ目となる50を下回っている(訳注:2016年1月時点で11カ月連続)。
 経済協力開発機構(OECD:Organization for Economic Co-operation and Development)までもが2015年11月、「新興経済の課題、脆弱な貿易と潜在経済成長に対する不安を考えると、6月発表のOECDアウトルックと比べて、下ぶれリスクや脆弱性の高まりが考えられる」と述べ、「2015年の世界経済成長率は約2.9%に弱まり、長期的見通し平均をはるかに下回る」との予測を示した。
 それでも一部の企業は、平均をはるかに上回るレーザ売上高を達成している。米IPGフォトニクス社(IPG Photonics)が提供する材料加工用ファイバレーザは引き続き、従来の機械式の切断および溶接装置から市場シェアを奪い続けており、同社は2015年第3四半期売上高を22%増の2億4350万ドルにまで伸ばすという快挙を成し遂げた。一方、LAM(Laser Additive Manufacturing:レーザ付加製造)や3Dプリントシステムを提供する独EOS社は、400台のシステムを販売して2015年の売上高が53%増の2億8200万ドルとなり、26年前の創業以来の世界システム設置台数を2000台の大台に乗せた。
 これらの高い2ケタ成長率は、本誌が調査した主要レーザ企業15社の2012〜2014年の平均売上高増加率5.5%とはかけ離れたいわば異常値だが、ファイバレーザと3Dプリントシステムの世界的な成功は、決して異常なケースではない。これらは単なる2つの例にすぎず、先進国と新興国の両方でROIと製造効率を高めることにより、いかなる経済状況においても一歩抜きん出た業績をもたらすことのできる、優れたレーザ技術が他にも多数存在する。

強気材料と弱気材料

「米国は、諸外国が苦しんでいる状況で輸出に頼ることはできない。原油安にもかかわらず中国は減速しており、中国への商品輸出に依存するオーストラリアやブラジルは景気後退の危機に瀕している。また欧州は、2%未満の成長率から抜け出せずにいる」と浜松ホトニクス社の米国現地法人ハママツコーポレーションでマーケティング担当副社長を務めるケン・カウフマン氏(Ken Kaufmann)と述べる。確かに世界各国は相互に絡み合い、互いに依存している。
 しかしそれでもカウフマン氏は、技術に関して強気の見解を示した。「人口高齢化に伴い、生体計測および医療業界は規模を拡大する。石油・ガス業界にはさらなる排出監視が求められるようになり、それに応じて、例えば検知計測機器や量子カスケードレーザ(QCL:Quantum Cascade Laser)といった技術に対するニーズが高まる。また、エレクトロニクス・カメラ・画像処理装置が、モノのインターネット(IoT:Internet of Things)の分野で急伸するだろう」(カウフマン氏)
 日本について、浜松ホトニクス社で海外販売管理担当ゼネラルマネージャーを務める辻村淳氏は、「日本経済は上昇している。企業収益と個人消費は高い水準を維持しており、有利な為替レートのおかげで輸出企業は価格競争力を維持している」と述べた。辻村氏は、全般的には景気が低迷しているにもかかわらず、フォトニクスやレーザによって実現される非侵襲型、非接触型、非破壊型の手法に対する需要は高いことを指摘した。「レーザやLEDに、当社の検出器、光電子増倍管(PMT:photomultiplier tube)、フォトダイオード、画像処理デバイスを組み合わせた製品への需要が続くと考えている」と同氏は述べる。
 米国ボストンを拠点とするコンサルティング企業ボス・フォトニクス社(BosPhotonics)の社長を務めるボー・グ氏(Bo Gu)は、「ウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)やニューヨークタイムズ誌(The New York Times)が、悲観的な展望を描いている。経済は、心理的な側面に大きく左右される可能性があり、景気悪化の脅威がその可能性を長引かせる。しかし、中国の都市化が今後10〜20年間でますます進むことによる将来の需要を考えれば、根底にある基盤は強固だ」と述べる。「毎年、約2200万人の新しい中国都市生活者が、住居、車、中流層向けの電子機器を求め、経済を活性化させる。中国の成長が減速していると世界は捉えるかもしれないが、それでも、中国が既に世界第2位の経済大国であることを考えれば、世界名目成長率が3%である中で6.8%はかなり高い水準である」(グ氏)

BRIC諸国の基盤

何よりもまず、ウォール街や欧州の経済界は、中国とその成長鈍化の話題で持ちきりとなっている。この新たな経済大国に多くの主要レーザメーカーが製品を販売しているためである。エコノミスト誌(The Economist)のインタラクティブチャートでは、中国のGDPが、GDP成長率、インフレ、人民元為替レートの増減に基づいて、いつ米国を抜くかを予測することができる。入力によって時期にばらつきが生じるものの、それはおそらく2020年頃になる見込みだ。国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)が中国のGDP成長率について、2015年の6.8%から2016年には6.3%に低下すると予測しているにもかかわらずである。とはいうものの、2015年の2.6%から2016年の2.8%へとわずかにしか上昇しない米国のGDP成長率に比べれば、かなり健全な成長率だといえる。
 米コヒレント社(Coherent)などの企業は、一部の市場分野における中国での成功によって引き続き利益を上げている。このことは、同社売上高の51%をアジアが占め、続いて北米が26%、欧州が17%であったことを考えると特に明らかである。コヒレント社の第4会計四半期(2015年10月5日締め)の売上高は8億250万ドルと、前年同期の7億9460万ドルからやや増加した。フラットパネルディスプレイ(FPD)加工用の「Linebeam」レーザシステムの販売が好調だったことが追い風となった。実際、中国への販売が好調で、米IHS社は、中国がFPD市場を独占し、2018年までに市場シェアは35%に達すると予測している。
 中国は、ディスクドライブ、CMOSイメージセンサ、サーバ、メモリチップ、高度な半導体パッケージングおよびテストサービスに関する技術やIPの買収も進めている。米ガートナー社(Gartner)は、半導体設備投資支出が2015年には1%減少し、2016年にはさらに3.3%減少すると予測しているが、中国のチップ製造は集積回路(IC:Integrated Circuit)市場全体を上回るペースで成長すると予測されている。中国政府が今後5〜10年にかけて1700億ドル近い投資を行うためである。
 これまで本誌の市場予測では、主に米国、欧州、中国を対象とした定性的概要を読者に提供してきた。しかし、残りのBRIC諸国(ブラジル、ロシア、インド)や、アフリカなどのその他の新興市場では何が起こっているのだろうか。これらの国はレーザ技術を輸入しているのか、それとも輸出しているのか。また、これらの国は新興国から先進国への進化によって、将来のレーザ販売の増加に向けた頑健な基盤を確立できるのだろうか。
 「いわゆるBRIC市場は、C市場へと集約している。レーザ販売に大きく貢献しているのは中国のみだ」と独ディラス社(Dilas Diodenlaser)セールスおよびマーケティングディレクターを務めるヨルグ・ノイカム氏(Jörg Neukum)は述べる。「ブラジルには、高出力レーザダイオードを組み込む大きなOEM産業は存在せず、レーザ加工におけるブラジルのニーズに対応しているのは、少数の地元のレーザ機器メーカーに加えて、主に欧州や米国のレーザシステム供給メーカーである。為替レートの問題から、ロシアの顧客による国外製品の購買力は低下しており、さらに重要な点として、ロシアはウクライナとの対立に起因する厳しい輸出規制下にあり、当社は長期顧客に対しても供給ができない状況だった」とノイカム氏は述べ、「インドは当社にとって主に科学分野の市場だが、入札や輸出ライセンスという境界条件が設けられている」と最後に付け加えた。
 インドに着目してみると、本誌が入手した情報によれば、高出力レーザ切断装置が中国の1500台以上に対して同国は70台程度と、その台数は中国のわずか5%程度しかない。インドでは、6000ドルの自動車が製造および販売されており、レーザ技術による恩恵を受ける余地があるにもかかわらず、同国のインフラと官僚的な開発方式は、オートメーションを避けてより大きな労働人口を維持することを支持している。
 今日、インドとアフリカに対する低出力レーザの販売の多くを手掛けるのは中国メーカーだが、米国や欧州を拠点とする供給メーカーは、これらの新興市場と、メキシコで急成長中の市場の動向を注意深く見守っている。メキシコには、自動車メーカーやエレクトロニクスメーカーによって多大な投資が行われている。また、供給メーカーはロシアについても、採鉱や石油・ガス事業を支える通信や、パイプの溶接およびクラッディングにおける適用機会をうかがっている。
 ビーム伝送が進化したことで高出力レーザは、厚みのある材料の切断に対して従来のプラズマ切断の能力を上回り、場合によっては4倍もの溶接速度を達成して、人件費が低い新興国さえをも惹きつける魅力的な製造効率をもたらしている。ファイバレーザ材料加工に対する切断、溶接、アブレーション、そしてAM(付加製造)といった主要な市場に加えて、さらに100種類ほどの医療機器処理やレーザプロジェクションといった応用分野が存在し、すべてのレーザ企業に非常に力強い成長機会を提示している。そこには、世界GDPを上回る成長の可能性が秘められている。

コモディティ化に注意

Laser Focus World誌ではこの年次レーザ市場予測の執筆を始める際に必ず、業界や学界関係者らに「レーザ業界のトレンド」や「レーザ販売の大幅な増加につながりそうな『キラーアプリ』」をたずねることにしている。昨年までに得た回答としては、米JDSU社(現在はビアビ・ソリューションズ社[Viavi Solutions])が米マイクロソフト社(Microsoft)の「Kinect」によって収めた成功に代表されるゲームや近接センサ用の赤外線(IR:infrared)レーザ、光学火災検知用の低価格センサなどのIoTクラウドベースのアプリケーションや、あらゆる種類のフォトニクスやレーザ技術を駆使したスマートフォンアドオンなどがあった。
 実際、ほぼすべての街角やショッピングセンターに設置されている監視カメラの存在は、われわれの社会のいたるところに技術が存在することを示す典型的な例である。そしてカメラと同様にレーザも、普遍的な量産用途に対するOEM装置リストに加わりつつある。既に、100ドルの小型ライダ(LIDAR: Light Detection And Ranging:光検出と測距)システムは、すべてを見通すドローンや手頃な価格の自律走行車の実現を約束し、フリーフォームの光学部品は、車載レーザダイオード照明や、複雑なデザインのLED照明器具を実現している。
 残念なことに、さまざまな分野においてレーザの適用範囲が拡大し、製造量が増加し、必然的に製造コスト(と販売価格)が低下するにつれて、レーザの利幅は縮小し、コモディティ化/価格破壊の状況が訪れて、多くの通信コンポーネント供給メーカーや、CD /DVDなどの光ストレージ用レーザメーカーを悩ませている。
 これを象徴する1つの例として、米ゼネラル・エレクトリック社(GE:General Electric)は同社照明事業、特にLEDベースの電球の採算性モデルを見直すことを決断した。同社最高経営責任者(CEO)を務めるジェフ・イメルト氏(Jeff Immelt)は、GE社の2014年年次報告書の中のCEOからの手紙で、「照明は、弊社の最も古い事業である。LEDと分析技術の組み合わせによって、かつては電球が設置されていた場所にコンピュータが配置されるようになった」と記した。「世界中のあらゆる都市で、GEは街灯を都市生活の分析頭脳に転換する取り組みを進めている」(イメルト氏)
 Lux Review誌のある記事は、GE社が電球を、より収益性の高い照明サービスやインフラ事業における客寄せのための激安商品として利用するつもりだと推測している。LED電球の価格がこの3年間で25ドルから4ドル未満にまで低下した経緯を見れば、十分な利幅を得る余地があるはずもなく、また、20年間使用可能なこの製品に交換の市場機会はほぼないに等しい。この現実からは、量産レーザ用途の法則が容
易に導き出せる。つまり、実際には「ニッチ」な製品の方が、次の「トレンド」となるレーザ技術よりも収益性が高いかもしれないということだ。トレンド技術は必ず、売上総利益率の減少という憂き目に遭うためである。
 米光学会(The Optical Society)のシニアアドバイザーを務めるトム・ハウスケン氏(Tom Hausken)は、「何を求めるかに注意する必要がある。400Gトランシーバ、キロワットレベルのファイバレーザ、スマートフォンディスプレイにおける量子井戸レーザの技術には目を見張るものがある。普通の人々にとっては、魔法かと見まがうほどだ。しかし時にわれわれエンジニアは、悲しいことに賢くなりすぎてしまう。技術を急速に進歩させて、厳しい基準を設定することは、ある世代のR&Dによって十分な利益を回収しないまま、市場が次世代へと移ることを意味する場合がある。その良い例が、太陽電池でありLEDである」と述べた。「価格の引き下げに対する野心的な目標は達成したが、今では利益を得るのが難しい状況になっている。ばかげた『曲げ加工金属』製品と私があえて呼ぶものを販売する企業は、FTTH(Fiber To The Home)レーザやLEDなどの利幅の低い製品を購入してそれを顧客のニーズに合った筐体に取り付けた方が、より大きな利幅が得られる場合が多い」(ハウスケン氏)
 しかしハウスケン氏は、レーザの量産販売をしてはいけないと忠告しているわけではない。「市場に先に参入した企業が、高い価格設定、規模、ROI(Return On Investment:投資利益率)という点においてメリットを享受する。また、次の大ブーム(the next big thing)に対して優位な立場に立つことにもなる」と同氏は述べた。

目標は高く—各種行政機関の取り組み

米政府機関は、主要な科学的専門分野に的を絞って投資を行わなければ、次の大ブームは訪れないと確信している。そこで設計されたのが、米国製造イノベーションネットワーク(NNMI:National Network for Manufacturing Innovation)だ。新たな先進的製造技術に対する官民の投資を調整し、製造イノベーションの進歩と商業化の促進に向けて業界、学界、政府機関の連携を強化することを目的とする。
 オバマ政権によって既に設立されている7つの製造イノベーション機関(IMI:Institutes for Manufacturing Innovation)のうち、最初に設立されたのが、AMと3Dプリントを対象とするアメリカ・メイクス(America Makes)だった。2015年半ばには、ニューヨーク州立大(SUNY:State University of New York)が率いるコンソーシアムに、米国防総省による1億1000万ドル相当の助成金が交付され、IP-IMI(Integrated Photonics Institute for Manufacturing Innovation)が設立された。現在は、AIM Photonics(American Institute for Manufacturing Integrated Photonics)と呼ばれている。このIP-IMIは、フォトニクス集積回路(PIC:Photonic Integrated Circuit)の設計、製造、テスト、組み立て、パッケージングの最新技術の発展を目的としている。
 欧州では、先進的な製造および材料、産業用バイオテクノロジー、マイクロ/ナノエレクトロニクス、フォトニクス、ナノテクノロジーを対象としたフレームワークプログラム(FP:Framework Programme)や KET(Key Enabling Technologies)センターを基に、欧州連合(EU:European Union)の研究・イノベーションプログラム「Horizon2020」が開始された。2014〜2020年の間に(民間投資に加えて)850億ドル近くの資金が助成される。この助成は、社会的課題に対処し、研究機関のアイディアを市場に取り入れつつ、科学と産業に画期的進歩をもたらすことを目的としている。
 中国政府は、今後10年間で世界をリードする製造国になることを目指す「メイド・イン・チャイナ2025」(Made in China 2025)ロードマップの一環として、「レーザ産業の黄金の10年間」を築き上げることも計画している。中国HGレーザ社(HG Laser)社長のミン・ダヨン氏(Min Dayong)は2015年11月、第12回中国光谷国際光電子博覧会(Optics Valley of China International Optoelectronic Exposition and Forum)で、レーザは高度な製造ツールとして、世界をリードする製造大国に向けた中国の変革において重要な役割を担うだろうと述べた。
 国際的なフォトニクスプログラムは今後も、レーザ業界にメリットをもたらし続ける。光に基づく技術に対する認識を高めるとともに、願わくは大小両規模の企業の財政状況の改善につながることを期待する。

レーザ市場別分析

2015年のレーザ売上高は、材料加工とリソグラフィの分野が、通信と光ストレージの分野を上回る結果となった。上述のコモディティ化の問題がその主な理由である。売上高が3番目に高かったのは、科学研究と軍用の分野で、以下、医療と美容、計測機器とセンサが続く。エンタテインメント、ディスプレイ、画像記録の分野は、規模は相変わらず小さいが、重要なレーザカテゴリの1つである。

材料加工とリソグラフィ

2008 / 2009年の大不況以降で、世界製造業界の見通しがこれほどまで不透明だったことはなかった。世界経済はこの数カ月間で悪化の一途をたどり、中国、東南アジア、欧州、中東における最終財の需要が低迷して、米国西海岸の港を出る船舶が空のコンテナを積んでアジアに引き返す事態となっている。他国が苦しむ中でも好調を維持した米国製造業にさえも、非必需財に対する消費者需要の低下とともに輸出が減少したことによる影響が表れ始めている。
 そのため、2016年の産業用レーザ世界市場分析は、少なからぬ不安を抱きながらのやや重苦しい雰囲気に包まれた作業となり、世界の重要地域が世界製造業界に与える影響を、ビジネスメディアの見出しから拾い集めることが行われた。
 欧州では、厄介な経済ニュースが何カ月も続いた後にようやく安定化の兆しを見せ始めていたところで、世界有数の自動車メーカーによるスキャンダルやテロ事件の大惨事によって西欧諸国は大きな衝撃を受け、事態がエスカレートすればユーロ圏諸国の成長が抑制されるのではないかという懸念が生じている。アジアでは、中国と日本(日本は現在、企業優先の政策を打ち出す安倍政権の発足以来2度目の景気後退にある)における混乱した市場状況に引きずられる形で景気が低迷しており、新興諸国や世界のその他の国々による期待していた寄与が得られなかったことで、その流れにさらに拍車がかかった。
 このような気の滅入る状況とは裏腹に、産業用レーザ業界では、各種主要メーカーによる好調な決算発表に牽引されて楽観的な姿勢がうかがえた。まずその基調を打ち出したのは、産業用レーザ/システムの供給メーカーとして最大規模を誇る独トルンプ社(Trumpf)だ。同社のレーザ技術(Laser Technology)グループは、2014 / 15会計年度に9億4600万ドルと、前年比16.8%増もの売上高を上げ、同社全体としては2015 / 16会計年度について、1ケタ成長の見通しを示すこととなった。
 市場をリードするトルンプ社に挑むのが、ファイバレーザメーカーのIPGフォトニクス社である。同社は第3四半期売上高が前年同期比22%増という素晴らしい業績を報告し、季節調整後の第4四半期売上高予測を合わせて、同社の売上高は10億ドルの大台近くまで達する見込みとした。同社に続いて、コヒレント社(売上高は8億200万ドル、前年比1%増)と米独ロフィンシナール・テクノロジーズ社(Rofin-Sinar Technologies)(売上高は5億2000万ドル、前年比2%減)がある。
 ここではいったい何が起きているのだろうか。レーザ業界は市場の強さという点において、世界製造業界とは同調していないのだろうか。それとも、技術のこれまでの活発な進歩がその展望を曇らせているのだろうか。結局のところ、四半期ごとに力強い2ケタ成長を示しているのは、IPGフォトニクス 社 の1社のみである。IndustrialLaser Solutions誌では、世界中の40社を超える公開企業の業績を調査している。全般的には好調な四半期業績と不調な四半期業績が入り混じっているが、最大規模を誇る複数の企業が3四半期を通して成長を見せた。これらは、ファイバレーザと超高速レーザの供給メーカーである傾向が高い。しかし、それらのレーザを使用するのは、上述の経済的難局を抱える市場分野のメーカーではないのか。
 実はそうとは言い切れないのである。ようやく世界の工作機械販売と足並みを揃えるようになったレーザ業界だが、主要市場分野の好調な販売が2016年上半期の売上高まで続くことから、再びその成長曲線を引き離す可能性がある。ファイバレーザと超高速レーザが特定の業界でかなり売上高を伸ばしており、業績の劣るそれ以外のレーザの売上高を牽引する形になっている。
 2014年の売上高は、2015年1月に発行されたIndustrial Laser Solutions誌の値から調整されている。本誌のパートナー企業であるストラテジーズ・アンリミテッド社(本稿データの集計元でもある)が、技術の進歩を反映してカテゴリを変更したためである。また、高出力ディスクレーザの売上高が、固体レーザのカテゴリに集計されていることにも注意してほしい。
 2015年には、マクロ加工用のファイバレーザが引き続き力強く成長(22%)したことに牽引されて、産業用レーザ売上高が6.9%増加した。マクロ材料加工は、産業用レーザ総売上高の約半分を占める。これらのレーザは通常、ユニット当たりの販売価格が高いため、当然の結果といえる。全体的には、溶接用レーザの設置数が17%増加したことを受けてマクロ材料加工は9%の成長を示した。
 ファイバレーザは2015年に入っても高い成長率を維持し、炭酸ガスレーザ(CO2レーザ、5%減)と固体レーザ(増減なし)と引き換えに、市場全体に占めるシェアを拡大させた。ファイバレーザはあらゆる分野にわたって増加し、マーキング用の低出力レーザで6%、微細材料加工用の中出力レーザで10%、マクロ加工用で22%増加した。そのうち、金属切断の増加は5%と、その業界の成長率と一致する結果となった。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/03/LFWJ1603_P16-29_marketplace.pdf