モノリシックDFB QCLアレイの狙いはハンドヘルドIRスペクトル分析

マーク F. ウィティンスキ、ロマン・ブランチャード、クリスチャン・プルーゲル、ローラン・ディール、ビアオ・リ、ベンジャミン・パンシー、ダリューシ・ヴァクショーリ、フェデリコ・カパッソ

シングルチップに集積された多数のQCLが、爆発物、他の物質の非接触IR分光向けに完全電気波長可変を実証している。

赤外(IR)レーザ光源、光学部品、ディテクタの進展が、微量気体モニタリング、IR顕微鏡、産業の安全、セキュリティなど、化学分析領域における新しい大きな進歩を約束するものとなっている。その潜在力がまだ全開となっていないとは言え、光学デバイスの1つの重要タイプが、高速フーリエ変換赤外(FTIR)品質スペクトル検査向けの、真にポータブルな非接触(スタンドオフ)、化学的に多様なアナライザであり、ほぼどんな凝縮相物質の検査にも適応する。
 スタンドオフIR分光学独自の課題は、事実上IRハードウエアの進歩を超えて広がっており、いくつかの分野の専門技術の適切な統合を必要としている。最先端の光学設計とレーザ製造、集積レーザエレクトロニクス、熱効率のよい気密封止パッケージング、統計的信号処理方法、それに深い化学的知識などだ。
 ペンダーテクノロジー社でわれわれが採用したアプローチの中核には、モノリシック分布帰還(DFB)量子カスケードレーザ(QCL)アレイがある。米ハーバード大のフェデリコ・カパッソのグループが発明し、ペンダー社が独占的にライセンス供与を受けているその連続波長可変QCLアレイ光源は、非常に安定的な広帯域光源であり、反射分光学の光源として使える。アレイの各素子は個別に取り扱うことができ、異なる波長を発振するように設計することができる。
 外部キャビティ(EC)QCLに対する、こうしたQCLアレイの利点は、次の2点に由来する。①QCLアレイのモノリシック構造、②完全電気波長チューニング。可動グレーティングがなく、改善された振幅と波長安定性により、はるかに高速のアクイジションが可能になる。システムに搭載すると、ロバストで安定した、結果的に現場設置可能な製品になる。
 この技術の出現を可能にした重大進歩の1つは、QCLアレイの各レーザリッジの高歩留まり製造である。アレイは単一ウエハからとる。これにより、すべてのチャネルが、仕様化された波長、パワー、シングルモード抑圧比を同時に満たしている。これらのパラメータの各々は、効率的なビーム結合と、統合後の高品質分子分光法実現の両方にとって極めて重要である。
 このようなハードルをほぼ克服し、分光計パフォーマンスに関する成果は主に、<0.1%のパルスモードでショットごとの振幅安定性を実証にある。EC QCLの典型値と比較して50倍安定している。実験室で使用した時も同様である。最も重要な点は、DFB QCLノイズはランダムであり、平均化すると素早くディテクタノイズ限界のアラン分散限界になり、一般的な粉末の微量レベル(例えば、1〜50μg/cm2)で、高品質 のスペクトルがわずか100msで得られることである。

DFBアレイのさらなる利点

EC構成に対するDFBの安定性という利点は十分に確立されているが、DFBアレイにはあまり知られていない側面がいくつかある。DFBアレイは、現実世界の分光ツールに一層適している。特にポータブル分光ツールに適している。1つは、そのレーザアレイが全体として100%のデューティサイクルを維持していることである。一方、アレイの各レーザは、100/n(%)デューティサイクルの動作しか必要でない、ここではn はアレイの中のレーザ数を示す。言い方を変えると、パルスQCLだけで構成されるレーザアレイは真に連続システムとして動作可能である。したがって恐らく製造コストを削減しながら高い計測デューティサイクルが可能になる。
 関連する方法で、100%のアグリゲートデューティサイクル(例えば、32レーザを3%のデューティサイクルで使用すること)を持つアレイの発光では、光源の放熱要件が飛躍的に減少する。実に、われわれのパッケージプロトタイプは、システムが稼働できるように冷却するためのアクティブクーリングさえ必要としない。熱電冷却(TEC)はパッケージに内蔵されているが、温度安定化のためにのみ使用する。したがって、32波長は安定している(図 1)。
 最後に、QCLアレイは任意のプログラマビリティを持っているので、実験的最適化に多くの新しい可能性が開かれている。あるレーザは飛び越え、複数のレーザを一度に発振し、繰り返しレートやパルス幅を個別素子ごとに設定できる、などだ。このような利点は、QCLアレイがフルシステムに装着されている時にのみ実現される。
 この新しい機能をフルシステムに組み込む最適な方法を包括的にみると、フォトンを生成するための電子の利用、散乱して戻ってくるフォトンの収集、最後に生のスペクトル情報から化学的同定への変換を支配するリンク問題の設計図を描くことが極めて重要である。中赤外材料の同定の場合、特に重要な3つの側面が明らかになっている。①ツールが、重複情報あるいは無駄な化学情報を生み出すことなく、特異性が最大となるには、非常に広い波長域が必要になる(すなわち、いくつのレーザチャネルが使用されるべきか、それらが相互にどの程度離れているべきか、どんな波長状態で離れているべきか)、②測定装置の機械的、電気・光学的設計、③QCLアレイが実際に可能としている高速同定を維持しながら、基準スペクトルに対して、いかにして最高の性能帰還を得るか。
 関心のある波長域について(図 2)、IRスペクトルの大部分は、2つの帯域に集中している。一般に言われている機能グループ領域(ほぼ3.3〜5.5μm)とフィンガープリント領域(ほぼ7〜11μm)である。最初の方は、一般にある共通の結合基の伸縮モードによって占められている、一方後の方は、ある官能基のベンディングモード、巨大分子「バックボーン」の特徴である低周波モードを含む。例えば、多くの高エネルギー材料に見つかるトルエンリングのねじれモード。国土安全保障省(DHS)の広帯域可変赤外光源(WTIRS)プログラムおよび陸軍研究所の支援を受けて、ペンダー社は、7〜11μm(900〜1430cm−1)を完全にカバーするコンパクトなアレイを開発している。

図1

図1 ビームコンバインおよびパッケージング前の32QCLを持つ200cm−1プロトタイプQCLアレイを示している(a)。32隣接QCL からの実験スペクトルは、(b)に示した(ペンダーテクノロジーズ社提供)。

図2

図2 多くの一般的な爆発物のIRスペクトル群は、選択された波長範囲で、各々が少なくとも一つの固有の吸収特性を持つことを示している。青い影付き枠は、対流圏における強い水の干渉を示している。数字は意図的に1800cm−1以上に及んでいる。この化学的分類では、長波IR(LWIR)光源を中赤外(MWIR)に達するまで、さらにシフトしても、新しい情報が得られないとを示すためである。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/01/LFWJ_Jan16_ft02.pdf