バイオイメージングを向上させる超高ピークパワーのフェムト秒レーザ
ハイパフォーマンスのイッテルビウムベースのレーザと増幅器が、新たなバイオイメージング手法を可能にしている。またそれは、チタンサファイアのような他の技術をベースとする、高い繰り返し率をもつ既存製品を補完できるものである。スピード、スケーリング、特異度を劇的に向上させ、さらなるin vivoイメージングや光刺激を実現させる性能により、科学の進歩を手助けしている。
従来より、共焦点顕微鏡法や多光子励起蛍光(MPEF)顕微鏡法で得られる画像は、回析限界に近いミクロンサイズのレーザスポットを、数百ミクロンを計測する大量の対象物をスキャンして作られる。最新の多光子顕微鏡には、1秒あたり数百フレームを生成できる高速検流計やレゾナントスキャナが取り付けられている。通常は900〜1300nmの近赤外(NIR)波長域における多量のフェムト秒(fs)レーザパルスの非線形吸収によって発生する蛍光を蓄積することで、各ボクセルの情報は得られる。十分な数の連続レーザパルスが各ボクセルに寄与することを保証するため、超高速のレーザパルス源は20MHz以上という比較的高いパルス繰り返し率(PRR)を確保しなければならない。
逆に、MPEF顕微鏡の蛍光強度、イメージ明度、コントラストに対する実際のドライバは、試料に届くレーザのピークパワーである。レーザのピークパワーとは、ある瞬間の光子の密度である。
多くのバイオイメージングアプリケーション、特にin vivo イメージング作業では、熱や光毒性による標本のダメージを防ぐため、研究者はレーザの平均パワーを最大でも数百ミリワット(mW)に抑える。PRRまたはパルス幅を小さくすることで、ピークパワー(すなわち蛍光強度)は大きくできる。実用的な目的では、今日のほとんどのレーザ走査型多光子顕微鏡には、50〜100MHzのPRRと、数百キロワットオーダーのピークパワー(今日の点走査MPEFイメージングアプリケーションのスイートスポット)で動作する超高速レーザが装着されている。
可能性の現実化
第一線の研究グループは、これら確立したパラダイムを超えるアプリケーション枠を推し進めている。市販のイッテルビウムベースの高ピークパワーの超高速レーザ源は、多光子イメージング方法のニューウェーブとなりつつある。これらの新たなレーザプラットフォームは、比較的低いPRR(10kHzから10MHz)、数百ナノジュール(nJ)から数十マイクロジュール(μJ)というパルスエネルギーを提供することで、1〜100メガワット(MW)という強力なピークパワーをもたらす。そのような高ピークパワーレベルによって、励起場を調整したり拡大したりでき、あるいは複数のイメージングスポットに向けてピークパワーを分布できる。
ピークパワーの向上は、平均パワーではなくパルスエネルギーのスケールアップによって実現していることを強調するのは重要である。確かに、これらのレーザは超高ピークパワーへの維持経路を提供する。しかし、過度の平均パワーと関連する熱、光毒性、光ダメージの影響を受けやすい、もろい構造のイメージングに適切な平均パワーレベル(1〜5W)で動作する。
イッテルビウムレーザのオプション
従来のチタンサファイアと光パラメトリック発振器(OPO)をベースとした広い波長可変超高速レーザとは異なり、イッテルビウムでドープ化されたレーザと増幅器はシンプルさ、コンパクト性、費用対効果がうまく組み合わされたものである。高輝度赤外ポンプダイオードによって、イッテルビウムでドープ化された利得媒質(バルク結晶、薄いディスク、ファイバ)に直接エネルギーが与えられる。イッテルビウムベースのレーザをモード同期することで、1020〜1070nmのスペクトル域の超高速パルスが生成される。そのパルス幅は数百フェムト秒である。そのような発振器は、高いPPRを生成するので、点スキャン顕微鏡法(例えば63MHzで動作する米スペクトラ・フィジックス社のHighQ-2レーザ)(1)より長い光キャビティと低いPRRでより高いパルスエネルギーと高ピークパワー(例えば、同社のfemtoTrainの場合では10MHz、300nJ、1MW)と相性がよい。イッテルビウムでドープ化された再生増幅器もやがては、より高いパルスエネルギーと高ピークパワーレベル(例えば同社のSpiritプラットフォームはシングルショットで1MHz以下、最大40μJ、100MW)にすら届くことができる。図1に、レーザ技術とアプリケーション見地による、高PRRと高ピークパワーとのトレードオフを描いた。
イッテルビウムの超高速レーザと増幅器の重要な限界点は、スペクトル同調性を欠いていることであり、1μm励起に最適なアプリケーション利用に制限が生じる。この制限を軽減するため、
光学パラメトリック増幅器(線形OPA、非線形OPAのどちらでもよい)を、イッテルビウム増幅器の1μm放射波長の第二高調波(約520nm)または第三高調波(約347nm)でポンプするかもしれない。これにより、紫外線から中赤外域にかけての完全スペクトル範囲が得られる。高ピークパワーとスペクトルの柔軟性の両方を必要とするアプリケーションを可能として、コンパクトで2ボックスソリューションに収まる。
イッテルビウムレーザから得られるメガワット以上のピークパワーレベルは、新たなピークパワーに「飢えている」バイオイメージングアプリケーションのホストに適している。以下に例を述べる。
・二光子の光シート顕微鏡法としても知られている、二光子の選択的平面照明顕微鏡法(SPIM)
・二光子のスピニングディスクレーザ走査顕微鏡でも使われている、マルチビーム二光子励起とイメージング(2)。
・三光子励起蛍光顕微鏡法(3PEF)。
・巨大なニューロン集団の同時光活性化に向けたオプトジェネティクス、ホログラフィックパターン、瞬間的フォーカス。
これらのアプリケーションのいくつかについて詳しく紹介しよう。
明るい光シートの将来
二光子SPIMでは、円柱レンズを通した超高速ビームにフォーカスするか、ひとつの横断方向(仮想の光シート)でフォーカスされたビームを高速スキャンすることで、二次元の薄い光シートを作る。発生した蛍光は対物レンズを通じてシートに直交する方向に集められ、通常はCCDカメラで検出される(口絵を参照)。全3次元ボリュームを照射するため、シートは直交次元でスキャンされる(3)、(4)。
点スキャンMPEFに比べてSPIMは獲得スピードが速いため、サンプルが大きかったり光ダメージを制御したりするときには、特に重要である。さらに二光子の光シートには、非線形励起のよくある利点がある。すなわち、生体組織における侵入深さの向上(散乱の制限による)、縦分解能の向上(さらなる励起閉じ込めによる)である。1MHzのPRRをもつ高ピークパワーレーザによって、全シートを通して強い蛍光シグナルを作るのに十分なピークパワーを分布する光シートが作成できる。サンプルボリュームを通る光シートを比較的低速でスキャンすることで、平均して高いPRRのボクセルを必要とせず、「遅い」(メガヘルツ以下の)繰り返し率に適切である。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/11/LFWJ1511_p36-39.pdf