ビスマスドープ光ファイバ:活性媒体の進歩

エフゲニー・ディアノフ

効率のよい希土類ファイバレーザが存在しない1250〜1500nmおよび1600〜1800nmを含むNIR(近赤外)スペクトル領域の1150〜1800nmでビスマストープ光ファイバが有望な活性媒体となる。

フォトニック材料研究は大きな関心を引き続けている。これは、多くのアプリケーションで新しいレーザや光増幅器に対する需要が絶えないためである。特に、次世代の光ファイバ通信システムでは、このことが言える。さらに商用光ファイバ通信システムは、ファイバあたりの容量が最大10Tb/sとなっており、実験システムにおけるデータレートは約100Tb/sに達しているが、先進諸国の情報需要は毎年30〜40%増加している。このことは、10年でペタビットのデータ伝送が必要になることを意味している。
 こうした問題に対する多くのアプローチが、文献で議論されてきた。1つの可能性は、現在のデータ伝送ネットワークのスペクトル範囲をエルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)の利得帯域で規定される1530〜1610nmの狭い(80nm)スペクトル範囲から広げることである。それに加えて、シリカ(石英)ベースの光ファイバは、非常に広い範囲に低光損失領域(1300〜1700nm)をもっており、これはデータ伝送に利用できる(図1)。
 現在、効率のよいファイバレーザと光増幅器・高速光ファイバ通信システムに必要なコンポーネントが、1300〜1520nmと1610〜1700nmのスペクトル範囲には存在しない。近赤外(NIR)スペクトル領域で最も効率的な活性媒体は希土類ドープファイバである。しかし、そのルミネセンスバンドは、対象となるこれらのスペクトル領域における効率的なレーザや光増幅器には適していない。
 2001年、ビスマス(Bi)ドープアルミノケイ酸ガラスが、1000〜1600nmの非常に広範囲で発光することが分かった。ルミネセンスバンドは、極めて広い(200〜300nm)(1)。この発見によって様々なBiドープガラスの製造と研究が活発に行われ、2005年に初の連続波(CW)Biドープファイバレーザが実証されてから(2)、この潜在的に重要な活性利得媒体への関心は着実に強まった。

図1

図1 図は、シリカベース光ファイバの低損失スペクトルと高ビット伝送で使用されるスペクトル領域(緑)を示している。エルビウム増幅器は、望ましい伝送スペクトルの一部でしか動作していない。

Biドープレシピの研究

最初のBiドープファイバは、低損失光ファイバ製造で一般に利用されているMCVD技術を使って2005年に製造された。この初期のファイバのコアは、Biドープアルミノケイ酸ガラスで構成されていた。その後、様々なタイプのBiドープ光ファイバが開発された。コアがBiドープ酸化ケイ素と酸化ゲルマニウム(SiO2とGeO2)で構成されるファイバ、BiドープP2O5-SiO(リン酸塩)の 2ようなリン混合、BiドープGeO2-SiO(ゲ2ルマノケイ酸塩)やBiドープP2O5-GeO2-SiO(リンゲルマノケイ酸塩)ガラスの 2ようなハイブリッドブレンドのファイバが含まれる。
 全てのBiドープファイバは、可視光とNIR領域にいくつかの広い吸収帯を持ち、その吸収スペクトルはコアグラスの組成に依存する。様々なBiドープファイバの発光強度の等高線図を分析すると、例えばBiドープシリカファイバの基本的な発光状況が明らかになる。この場合、Bi2+イオンからのよく知られた赤い発光が600nmに見える(図2)。
 NIR発光スペクトルは、シリカガラスでは830nmと1430nmの2つのバンドで構成される。Biドープゲルマニウムファイバでは、2つの新しいバンド(Biドープシリカファイバのバンドと比較)が、950nmと1650nmに現れる。加えて、シリカガラスでは830nmと1400nmバンドも観察される。これは、ファイバ製造工程中のシリカクラッドからゲルマニウムコアへの少量のシリコン拡散によって説明できる。
 Biドープリンケイ酸塩ファイバの発光状況は、Bi2+に対応する750nmバンドを示しているが、シリカの830nmと1430nmバンドも見られる。リンに関連する1100〜1300nmのスペクトル領域でも広い発光バンドがある。
 Biドープアルミノケイ酸ファイバの発光状況では、750nmバンドがBi2+に対応していること、820nmバンドはシリカガラスが存在するためであり、1150〜1300nmのスペクトル領域におけるこれら3つの広いバンドはアルミニウム(Al)に関係している。
 Biドープファイバの広い発光バンド(100nm以上)を考慮すると、Biドープファイバの発光の総域は800〜1700nm(全スペクトル領域を通じて)に拡大することが分かる。1000nmより長波長の発光ではライフタイム値は数百ミリ秒(ms)と1000μs(マイクロ秒)の間、短波長側は、3〜50μsである。Biトープファイバの発光特性についての詳細な議論は、研究文献で見ることができる(3)。

図2

図2 等高線図は様々なBiドープ光ファイバの発光強度を示している。

Bi関連NIR発光

今日まで、Bi関連NIR発光中心の性質は明らかになっておらず、この状況がBiドープガラスを使った効率的な活性媒体実現を困難にしている。ビスマスは、4つの酸化状態: Bi5+, Bi3+, Bi2+および Bi+を持つ多価元素である。通常、Bi2O(酸化状態3+)がBiドープガラス 3合成の原材料として用いられる。
 溶融Biドープガラスでは2つのプロセスが起こる。酸化(より高い原子価状態)と還元(より低い原子価状態)である。したがって溶融ガラスのBiイオンは、酸化/還元(redox)平衡にある。これは、溶融温度、ガラス組成、雰囲気およびBi濃度に強く依存する。Biのこれらの特徴により、その原子価状態、それに続く、ガラスのBi関連NIR発光中心の正確な性質の決定が特に難しくなっている。
 これらNIR中心の起源(Bi+, Bi0,BiO, Bi2−, Bi22−,点欠陥、その他)についての仮定は多いが、どれも直接的に確認されていない。しかし、ガラス光ファイバにおけるNIR発光の起源に関してより決定的に結論づけることができる実験的事実がいくつかある。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/11/LFWJ1511_p32-34.pdf