光ファイバによる商用幹線網の監視

デイビッド・ヒル

光ファイバ分散型音響センシング(DAS:Distributed Acoustic Sensing)は、幹線道路、鉄道、パイプラインを監視するための効果的な手法である。この新しい機能は、ギャップのない持続的な監視によって、通信ネットワークに対するより安価な監視と管理を可能にする。

世界経済は現在、国や大陸の間で、幹線道路、鉄道、人々、製品、資源を輸送するパイプラインのグローバルなネットワークの効率的な利用に依存している。このようなネットワークに沿って、通常は光ファイバ通信ケーブルが存在し、その中には、ギャップのない連続的な監視を行い、世界の商用「幹線」網のための「神経系」として機能する、アクセス可能な予備の光ファイバが含まれている。
 光ファイバセンシング技術の1種である分散型音響センシング(DAS)が最初に登場したのは、およそ10年前のことである。同技術はそれ以来、研究レベルから、複数の実世界の応用分野において幅広く採用されるまでに急速に進歩した。
 当初はセキュリティセンサの新しい形態とみなされていた光ファイバは、重要な国家インフラの周囲や国境に沿って埋め込まれ、侵入者の早期発見に利用されている。石油・ガス業界も、DASの可能性にいち早く気づき、その結果、油田、ガス田の油井穴に敷設されたファイバを、ハイドロリックフラクチャリングの効果の監視、生産フローの監視、掘削孔の地震活動の監視に利用する方法について、かなりの成果を得た事例が報告されている(1)〜(3)。
 また、既に設置済みの非常に長いファイバが監視できるというDAS独特の能力が、ファイバを併設する長い線形の資産に対する、独特のセンシング機能として利用できることは明らかである。パイプライン監視が主要な応用分野として特定されていたが、より最近では、光ファイバ経路に沿って敷設された幹線道路や鉄道の監視にDASが有効であると認識されている。
 どの応用分野に対しても、中核にあるプラットフォーム技術は同一である。ファイバによって取得された信号が、収集時にリアルタイムに解析され、事象の検出、位置特定、分類が行われる。続いて、直ちに使用可能な情報が操作員に伝達される。この情報の形式は、脅威に対する警告であったり、インフラの状態に関するレポートであったり、資産を通過するフローであったりする。情報伝達の正確性と即時性を利用して、資産の保護、その使用の最適化、運用コストの削減が行われる。

分散型音響センシング

すべてのDASシステムにおいて、コヒーレント光時間領域反射測定法(C-OTDR:Coherent Optical TimeDomain Reflectometry)と呼ばれる技術が用いられる。この測定法では、非常にコヒーレントな光の短いパルスを光ファイバに連続的に伝送し、非常に小さいレベルの後方散乱信号を観測する(図1)。システムは、光ファイバケーブルの近くで生じた事象に起因する振動音響外乱によって引き起こされた、ファイバ内のピコストレインレベルのシグネチャの検知をよりどころとする。
 このような外乱は分子レベルで変化し、ファイバが敷設されたときに形成された波長未満の不均質性に起因するファイバコア内の領域を散乱させる。これによって、監視装置(検出前処理部)で解析される、レイリー後方散乱レーザ信号の特性に解釈可能な変更が加わり、同時にサンプリングされた、独立した一連の音響信号がファイバに沿って生成される。
 各音響信号は、ファイバに沿った特定のチャンネルに対応する。ファイバの空間分解能(ゲージ長さ)は、短い(1 ~ 20m)光パルスを注入することで定義される。狭スペクトルの光パルスとすることによって、空間干渉計のゲージ長さに対してだけでなくパルス間でも、コヒーレンスな干渉が得られるようにする。つまり、ひずみや屈折率の変化によって散乱体の間に光パルスの遅延が生じない限り、後方散乱体に変化は生じない。
 すべての「仮想的な」ひずみセンサの出力時系列が、パルス繰り返し周波数における1 ~ 20mのチャンネル分離に対する光範囲ビンサンプリングによって形成される。特殊なリフレクタやファイバ内のブラッググレーティングはDASには不要で、既に地中に埋設されている通信ケーブル内のものを含めて、あらゆる標準のシングルモード光ファイバに改変を加えることなく適用できる。
 長さが最大50km(31マイル)までのシングルモード光ファイバを、各チャンネルの音帯域幅に対して使用することができる。チャンネルを制約するのは、ケーブル長の往復遅延時間(50kmのケーブルで1/2000秒)だけである。例えば、空間分解能を10mとすると、パイプラインに沿って敷設された長さ40km(25マイル)のファイバにわたって、2.5kHzでサンプリングされた4000チャンネルが生成される。2.5kHzにおける各時間サンプルには、その特定のサンプルセクションにおける、ケーブルの10m区間の平均音場のスナップショットが含まれる。さらに、これらのパラメータはソフトウエアで調整可能で、センシング性能を最適化することができる。

図1

図1 ファイバを流れる光パルスの到達範囲内における、レイリー散乱体からの散乱光のコヒーレント合計を測定するC-OTDR技術の基本実装を示す概略図。パルス間の長さや屈折率の変化によって、帰還パルスの大きさと位相が変わり、往復遅延時間によって定義される範囲ビン内の各仮想センサに対する、パルス繰り返し周波数における時系列が生成される。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/11/LFWJ1511_p22-25.pdf