電子誘起APDによって高速SWIRイメージング改善
水銀・カドミウム・テルル半導体材料を使用する電子誘起アバランシェフォトダイオード(e-APD)が最近発見されて、短波長赤外イメージングが大きく前進した。
可視光スペクトルでは、電子増幅電荷結合素子(EMCCD)により、特にライフサイエンスで、イメージング技術が改善された。とは言え、赤外イメージングでは、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)読み出し集積回路(ROIC)の低バンドギャップIII-VまたはII-VI半導体ハイブリッド以来、大きなブレイクスルーはまだ起こっていない。
EMCCD技術では、超低読み出しノイズを維持しながら、広帯域読み出しができるようになった。例えば、当社のOCAM2カメラは、読み出しノイズを0.1電子に維持しながら132Mpixels/s超の読み出しレートを示している(1)。最近まで、赤外にはEMCCDに匹敵するキャリア増幅内蔵イメージャは存在しなかった。短波赤外(SWIR)イメージング、中赤外、長波赤外(MWIR、LWIR)のいずれのイメージングにも存在しない。
先行技術
過去数年、アクティブイメージング、ハイパースペクトラルイメージングなどの赤外低流量および高速アプリケーション向け焦点面アレイ実現には、水銀カドミウムテルル(HgCdTe)アバランシェフォトダイオード(APD)が最も有望視されるものの1つだった。
2001年 から2008年、 米国のDRSテクノロジーズのジェフリー D.ベックやBAEシステムズのマリオンB.レインをリーダーとするグループを含め、多くのグループが、10V程度の低い逆バイアスで100〜1000の増幅利得を報告している。これらは準決定論的な増幅に関連しており、過剰雑音指数F1.0〜1.2を計測することでほとんど変化のない信号対ノイズ比(SNR)を生み出している(2)、(3)。
HgCdTe APDで1.0程度のF値実証前には、1966年、RCAヴィクターカンパニー(RCA Victor Company)のR.J.マッキンタイヤ提唱理論を受けて過剰雑音指数の理論的下限はF=2.0と考えられていたことは強調されるべきである。その理論は、キャリアの平均衝突イオン化確率に基づいており、ジャンクションでのキャリアの加速と減速による確率の変動を無視している。
とは言うものの、この理論はシリコン(Si)の過剰雑音の記述には成功しており、EMCCDを明確に実証するものであった。ここでは、2003年にマークS. ロビンスやベンジャミン J. ハドウェンがFを2.0程度としており、続いて英e2vテクノロジーズで、さらにIII-Vベース半導体で実証された。この場合、キャリアの両方のタイプの衝突イオン化が増幅のランダム性に大きく寄与しており、並の利得M<50で過剰雑音指数F=3〜5、アバランシェブレークダウンを起こしている(5)。
HgCdTe APDのマッキンタイヤの限界以下の雑音指数およびブレイクダウンフリー利得は、電子の排他的な衝突イオン化、衝突イオン化確率変動による場所とエネルギーの準局所化に合致している(6)。こうした理由から、これらのデバイスは電子誘起アバランシェフォトダイオード(e-APD)と呼ばれている(7)。
電子誘起APD
最高パフォーマンスe-APDは、x=0.35〜0.3、Hg1-xCdxTe中赤外ディテクタ、低温(T=77K)で得られた、これは低逆バイアス、低過剰雑音指数(F=1.2)および低暗電流を兼ね備えている。例えば、ベックらは、操作性の優れた約Ieqin=7fAの等価入力電流(出力雑音に対応したショットノイズ制限入力電流)を報告している。これは、e-APD T=77Kでλc=4.2μmカットオフ波長に対して、利得M=946でNEPhmin=0.3最小値から推定されるようにJ=0.44 nA/cm2のピクセルあたりの電流密度に対応している。
2008年、CEA/LETIおよびソフラディア(いずれもフランス)のヨハン・ロスマンらは、利得最大M=100、T=77K、λc=4.8μmディテクタで等価電流入力を1fAまで低くできることを実証した。これはレート6000e-/sに相当する(8)。Cd組成を高くしたヘテロ構造APDでは、数ケタの暗電流削減も見込まれている。HgCdTe e-APDのもう1つの並外れたな特徴は、利得のバラツキが非常に低いことであり、これによりイメージングアプリケーションでのe-APD利用が可能になる。一般に、利得の変動は量子効率の変動よりも著しく低い。HgCdTe e-APDの過剰雑音指数(1.0程度)からして、e-APDは増幅前にシステムで雑音がほとんど増えないほぼ完璧な増幅になっている。
2012年、ファーストライトイメージング社(First Light Imaging)のフィリップ・フォトリエらと、ドイツのヨーロッパ南天天文台(ESOA)のゲルト・フィンガーらは、CMOS ROIC上のHgCdTe
e-APDと、かなりの数のピクセル(320×256)のハイブリッドに成功したと報告している(9)、(10)。
フォトリエらは、ESO超大型望遠鏡干渉計(VLTI)でAPDアレイの利用も報告している。ここでは、典型的な環境でこの技術の初の動作実証を成功させている。その当時は、液相エピタキシー(LPE)アレイしか利用できなかった。今では、メーカーは分子線エピタキシャル成長法(MBE)や有機金属化学気相成長法(MOCVD)e-APDダイオードアレイの製造に成功しており、これらのアレイの動作と量子効率ではハイパフォーマンスと再現性が確保できており、低暗電流と広帯域応答が実現されている。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/11/LFWJ1511_p18-21.pdf