Ti:Sapphireと張り合う多結晶カーレンズモードロッキング

セルゲイ・バシリエフ、ミハイル・ミロフ、バレンティン・ガポンスキィ

多結晶クロム添加硫化亜鉛とセレン化亜鉛のカーレンズモードロッキングは、マルチワット出力、3光周期に近づくパルス幅、3光波混合効果に行き着く。

1970年代に初めて発表された固体中赤外レーザ(mid-IR)は、カラーセンタ(色中心)を持つハロゲン化アルカリ結晶、あるいは、わずかな希土類イオンをドープされた酸化物結晶やフッ化物結晶をベースにしていた。そのようなレーザ光源は、利得媒体の極低温冷却を必要とした。それは非放射フォノンアシスト減衰による累積反転分布という失活を防ぐためである。遷移金属ドープII-VI(TM:II-VI)半導体は、1990年代遅くに米ローレンスリバモア国立研究所のウイリアム・クルプケのグループが発表したもので、実用的な室温中赤外発振への実行可能な道を示している。
 クロム(Cr)ドープ硫酸亜鉛(ZnS)とセレン化亜鉛(ZnSe)は、TM:II-VI族の典型例であり、「中赤外のTi:Sapphire」(チタンサファイア)とよく言われる。これは、その四準位レーザ構造、励起状態吸収の欠如、広帯域可変(1.8〜3.4μm)を可能にする広い振電発光帯、室温(RT)での蛍光の高い(100%に近い)量子効率のためである。
 Ti:Sapphireと比較して、Cr:ZnS/ZnSeは、高い発光断面積(10〜18cm2オーダー)、高い二次非線形性および三次非線形性を特徴としている。好都合なことに、Cr:ZnS/ZnSeレーザは、無理のない価格の高信頼エルビウム(Er)やツリウム(Tm)ファイバレーザで励起できる。この有利なパラメータのブレンドは、多様で素晴らしいレーザ成果を生み出した。例えばマルチワット出力(18W利得スイッチ、30WピュアCW)、高いレーザ発振効率(60%超)、1000nmを超える広帯域可変性、ジュールレベル長パルス出力エネルギー、狭線幅(100kHz以下)など。
 複数の研究チームによる粘り強い努力によって、図1に示したように、モードロックCr:ZnS/ZnSeレーザは急速に進歩した。ピコ秒(ps)パルス幅のアクティブモードロッキングは2000年に実現、半導体可飽和吸収ミラー(SESAM)モードロッキングは2005年に実証された、カー(Kerr)レンズモードロッキングは2009年に達成された。モードロックCr:ZnS/ZnSeレーザの多くの重要な成果は、単結晶サンプルを使って得られたものであるが、この単結晶は成長が難しいので簡単には入手できない。

多結晶Cr:ZnS/ZnSe

多結晶Cr:ZnS/ZnSeレーザ媒体の重要な長所は、成長後の拡散ドープ技術である。これによって高いドーパント濃度、均一なドーパント分布、低損失を特徴とする大型レーザ利得媒体の量産が可能になる。その結果、CW、利得スイッチ、SESAMモードロック発振領域で、多結晶材料は徐々に、単結晶材料に置き換わった。多結晶Cr:ZnS/ZnSeカーレンズモードロッキングの最近の実証はレーザパラメータの大幅な改善を示し、超高速中赤外レーザの現実的なアプリケーションに道を開いた(図1)。
 超高速中赤外Cr:ZnS/ZnSeレーザの共振器は、周知のTi:Sapphire発振器のものと同じである。共振器の分散管理はレーザパルス出力のパラメータを規定するため重要な設計検討事項となる。超高速Cr:ZnS/ZnSeレーザのほとんどの設計は、利得エレメントのブルースタ・マウンティングに依存している(Ti:Sapphireレーザ技術のデファクトスタンダード)。最近の実験では、慣例に従わない利得エレメントの垂直入射マウンティングの優位性が明らかになっている。多結晶Cr:ZnS/ZnSeの垂直入射マウンティングは、これまでに得られた最高出力、最小パルス幅の中赤外発振器を実現した(図1の矢印)。
 Cr:ZnS/ZnSeの高非線形性によって、フェムト秒光パルスの非線形周波数変換で数々の興味深い状況が得られる。多結晶Cr:ZnS/ZnSeは、多数の微細単結晶粒で構成されている。成長後のドーピング技術によって、微細構造の操作ができ、結晶粒の平均サイズを、例えば二次高調波発生(SHG)のためのコヒレンス長に整合させることができる。
 結晶粒のサイズと方向の広い分布から、いわゆるランダム疑似位相整合が得られる。その特徴は、変換収率と厚さとの線形従属、超広帯域幅である。この光共振器は、超高速多結晶レーザの利得エレメントで最大のSHG変換が得られるように直接的に最適化することができる。1.2μmで今日までに得られたSHG最高パワーは0.25W、0.5Wは近い将来に実現する見込みである。

図1

図1 多様なモードロッキング法をベースにした超高速中赤外Cr:ZnS/ZnSe発振器の進歩を比較: SESAM(□)、グラフェン(◇)、カーレンズ(○)、それに利得媒体タイプ毎: 単結晶(中空の記号)と多結晶(中空でない記号)。矢印は、これまでに得られた記録的なパラメータ(発行済みの参考文献1、2の日付をベースにしている、最新の成果はIPGフォトニクスで得られたもの)。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/10/LFWJ1509-40-42.pdf